前々回からお送りしてきた2007年に発生したペットフードのメラミン汚染とペット大量死事件だが、けっきょく、そのコトに気づいたのはペットの飼主である一般消費者であり、ペットフード・ブランドを保有、販売していた大会社、そして下請けとは呼ぶには相応しくないほどの大規模な相手先ブランド専門のメーカーではなかった。ここであらためて整理すると、汚染フードを製造していたのは、安物から超のつく高級品ブランドの下請けメーカーで、それはカナダに本社があり、米国のカンザス州とニュージャージー州にドデカい工場をもつ、自社ブランドをもたないメニューフーズ(以下、MF社)という会社だった。
そこに問題の「確信犯的な」偽の中国製小麦グルテンを納入していたのは、ラスベガスに本社のある商社の子会社で、デンバー州にある会社だった。後述するが、そんなワケで、ある意味、米国側の各社は、中国の犯罪的ともいえる偽の商品を押し付けられた被害者、あるいは法律用語でいうところの「善意の第三者」とも見ることができる。後述するが、そのため、この汚染フードによるペットの大量死事件は、妙な方向に動きだし、その結果として、亡くなったり、障害が残ったペットの飼主たちの溜飲が下がる方向には進まなくなるのだから、腹が立つのだ。
それもこれも、コトがペットフードであったことだ。ペットフードはヒト用の食品とか扱いが異なる。とはいえ、ヒト用ではないもののフードというからには食品は食品だという声もあることだろう。だからして連邦食品医薬品局(以下、FDA)の管轄なのだが、
植物、農作物用の肥料もプラント・フード、金魚の餌もフィッシュ・フードと呼ばれる英語の世界ゆえ、そうはいかない。でも「食べ物」ではあるので、その安全性をチェックする義務はメーカーにあるはずだ。実際の話、輸入食品の安全性の担保も、日本では輸入した会社の責任となっている。
しかし、それはMF社にせよ、MF社に納入した輸入商社でも実施されていなかった。というか、されてはいたのだが、実に簡易的なものだった。前回でも触れたのでおさらいとなるが、化学者はモノを、物質をその構造図で見る。構造図とは、亀の甲ら状の模様の連続したような図で、それが何のものであれ、見たことのある方も多いだろうと思う。そんな構造図を見て、特徴が似ているとなると、それは同種のものとして扱えるのではないかとの仮説が立てられやすいらしい。メラミンとタンパク質も同じ構図で、お互いの含む窒素の量が似ている事から、メラミンがタンパク質の代わりになりうるかもしれないと考えられたのだ。
メラミンのタンパク質応用の研究は、50年代頃から行なわれ、実際の動物実験は60年代に米国で実施され、次いで70年代に入ると欧州で養殖魚を対象に行なわれ、いずれも悲惨な結果となって、その研究は打ち切られた。ここで勘違いしてほしくないのは、化学者は別に何も悪いことをしたワケではない。同様な仮説とそれを実証するための実験によって、どれだけ有益なものが人類にもたらされたかわからない。薬学なぞは、その典型だ。しかし、その陰には失敗も数多くあれば、当初は素晴らしい発明と思われ、広く利用されたものの、けっきょくマズイとわかってその使用が国際的に禁じられることとなったものもある。
その代表例がフロンガスだ。フロンのおかげで電子回路の洗浄は容易にでき、電子機器の性能は著しく向上した。また冷蔵庫やエアコンも普及した。しかし、それが大気に放たれると、結果的に地球上の生物生存のよりどころであるオゾン層の破壊につながることが、相当あとになってわかったのだ。それもこれも文明と共に発展した天文学とその最新の観測法によって判明したのだ。文明の発展の影には、このようにわれわれ一般人の知るところとなった例もあれば、知られないままにオクラ入りとなったものもゴマンとある。しかし、それを忘れた頃になって悪用する輩が出てくるとは、誰も思ってもいなかったのだ。
中国政府=中国共産党の産業育成を担当する部門は、発展する工業界で廃棄されるメラミン樹脂の処置に困っていた。そこで、彼らは、国内の工業界における起業家たちに対し、タダ同然で手に入る素材として、それを提供していた。そんな中には化学者もいて、当然のことながら構造図を見て、その窒素量からタンパク質として利用できる、あるいはタンパク質と偽ることができると考えた。メラミンは、無色なうえ無味無臭の樹脂の結晶体だ。パウダー状だと真っ白に見える。そのままでは動物性蛋白と偽るには無理があるので、こいつを植物性の、しかも需要のある小麦グルテンや米グルテンとすればわからないだろう。そのままでは、なんなので、ちょいと小麦も混ぜればそれらしく見えるだろう、検査も米国で用途は犬猫用だというから、ヒトの食品のそれよりも大雑把な検査しかされず、バレないだろうと考え、それをそのまま実行したのだ。
その際、実際に本物の小麦グルテンの粉を製造販売している会社が邪魔となる。となれば、管轄地の党幹部に賄賂を握らせて、そこを閉鎖させてしまえ、となった。この事件についての取材では、他社よりも一歩も二歩も先を行くサクラメント・ビー紙(以下、SB紙)の記事によると、そういう状況だったらしい。そして、後になってわかる事なのだが、汚染というよりは偽小麦グルテンの輸入元の商社、納入先でありペットフードの製造元であるMF社、そして信頼のブランドを保有する販売元の大会社のいずれも、それを原料や製品段階で細かくチェックしていたところはなかった。彼らの底流にあるのは、「たかがペットフード」という考えであり、要するにタカをくくっていた傲慢さがあったのだ。
けっきょく、米国やカナダのペットの飼主である消費者の次に、あるいは同時期かそれよりも若干早い時期の、憂うべきコトが起きていることに気づいていたのは、製造元のMF社、そして自社製品を与えて安全性をチェックするための犬猫を飼育する部所のあるメジャー・ブランドを保有する大会社の担当者だけだった。「えっ! メーカーのMF社も気づいていたのか?!」と思われる皆様、どうやらそうだったらしいのだ。ペットの不具合に飼い主たちが気づいていた頃には、MF社だけでなく、中堅以上のブランドで自社内に動物実験施設を保有していた会社の現場担当者たちには、既知のことだったのだ。
たとえ自社ブランドの製品の安全性の確認のために飼育されているとはいえ、現場の担当者たちも人の子、そんな供与実験用の犬や猫たちと毎日顔を合わせていれば、情が移る。ある意味、きちんとしていないとマズイので、散歩なんかにも連れ出すし、同ブランドのおやつなんかも与えるので、製品が安全であれば、犬猫好きにとっては天職のように思える職場だ。ところが、実際はそうではない。雲の上、あるいはそこまでいかない高みから、犬の肝臓の具合を調べよという命が下れば、現場に詰めている獣医師は、躊躇なく犬や猫を開腹し、それを調べて報告を上げる。その際、その犬なり猫が回復するような配慮がなされるかどうかは、その会社の方針なり「徳」による。
しかし、そんな徳なぞないのが現状だ。そこにいる犬や猫は、牛や羊、豚やラットと同じ扱いを受けている。そんなワケで、07年の事件当時、その状況に疑問を感じた現場から内部告発の映像が流失した。末尾にあるのは、YouTubeでも見られる、その映像そのものだ。心臓、気の弱い方は見ないほうがいい。しかし、信頼のブランドとされる大看板の裏で実際どのようなことが起きていたのか、起きているのかを知っておきたいという方は、覚悟を決めてからご覧いただきたい。ボクは見た。スミレの具合が悪くなり、とにもかくにもその原因として考えられる情報をと思い、必死でネットを検索していたときにそれを発見した。そのときのショックと怒りを忘れることはないだろう。話を事件に戻すと、結果として、陰の大メーカーにリコールの届け出をせざるを得ないプレッシャーを発生させたのは消費者の力だった。有名ブランドを保有、製品の販売をする大会社の、雲の上にいる担当役員はしつこく言うが、「(たかが)ペットフードのことなんだろう?」と言って、タカをくくっていたのだ。彼らは当初、そこまで騒ぎが大きくなるとは予想だにせず、眼下で起きている事態に真剣に対処しようとも考えてすらいなかった。これが超のつく巨大企業の、まるで雲の上にいて眼下の世界を見ている経営幹部たち特有の(雲の)上から目線だ。地上の出来事にピントを合わせるのに時間がかかるのだ。
彼らは、日本の、サラリーマンの成れの果てである経営陣とは人種が異なる。最初から経営のプロとしての道を歩み、社内の出世階段を上がってくる会社スゴロクのマス目を歩んできていない。彼らは最初から企業経営というチェスのプレーヤーなのだ。無論、中には人間に対する理解ある、いわば徳のある人もいる。しかし、それは少数で、経営のプロほど、この上から目線の傾向が強い。彼らにとっては、株価と株主対策がすべてであり、それ以外のヒトとモノは、そのためのゲームのコマでしかないのだ。
消費者のことを第一に考えなんてことは2の次。それは担当部所とそこの長のケアすべきことであって、そこから先については数字しか必要とされない。ある意味、それは植民地や占領下の国の政治の世界に似ている。選出の票を投じるのは母国の株主(=国民なり政府)で、あり、彼らの発する言葉は、政治家や官僚、そして広告代理店の営業職のようなもので、それをそのまま受け止めてはいけない。というか、なにを言っているのかわからないことのほうが多い。もうのらりくらりの世界だ。
フジTVの買収作戦で演じられた村上ファンドとライブドア、そして迎え撃つフジTVの攻防のことを憶えておられる方も多いと思うが、あのときの村上ファンド代表の村上、ホリエモンを含むライブドアの経営陣を見て、そこに人の徳を感じた人はいなかっただろう。ボクは、ホリエモンという人間にはまったく興味がない。しかし、しかるべきときに「嫌い」という理由だけで最低限のドレスアップをすることもできず、さらに、仲間内か、自分と同じ思考回路の人間以外の理解は一切考えない、そんな態度を見ていると、その神経のあり様を疑う。成功すればなんでも許されるワケではないのだ。
ペットフードのメジャー・ブランド保有会社の経営陣、そしてMF社の本件に対する発言の数々は、まさにノラリクラリで、言語明瞭なれど意味不明瞭だった。日本の政界、官界にもその典型があった。それは2001年の1月まで存在した「影のエリート官庁」とも、各省庁から上がってきた書類をホチキスでとめるだけの「ホチキス官庁」とも呼ばれた総理府の外局であり、中央省庁のひとつでもあった経済企画庁だ。そこが発表していたレポートは、どの省庁を名指しする事なく、また傷つけまいとする配慮により、なにを言いたいのか、素人にはまるでワケがワカラン内容だった。それをバカな国民に代わって意訳してくれるのは新聞であったり、テレビのニュースに登場する経済評論家であったりしたのだが、その言語明瞭にして意味不明瞭な内容は、外には向いていない内向きの最たるものであるとの皮肉を込め、永田町文学と呼ばれた。
考えてみれば、これも国民をバカにしている証左である。ちゃんと意味がわかるような内容にさせることなく放置してきた政治家の罪も重い。そして、その結果、法令の文章は、句読点の位置をちょいと変えただけで、まるで内容の異なるものとなるほど複雑化し、政治家の手に負えないものとなった。役人に骨抜きにされる、というのはそういうことだ。Aという目的のために企画され、承認されたはずの法が、できてみたらBになっていたみたいなものである。ボクは、民主党の支持者ではないが、そんな悪習を野放しにしてきたのは自民党の与党時代だったことは憶えている。それも高度経済成長なる時代の名残があったから許されてきたことなのだろう。しかし、もうそろそろ永田町の身内主義はヤメにしてもらいたいものである。
脱線に次ぐ脱線で申し訳ない。話を元に戻すと、事件が予想外の広がりを見せ、その驚嘆すべき規模とデタラメぶりが白日の元にさらされるや、メジャーなメディアも、これおを追うようになる。カリフォルニアの州都であるサクラメントに本社を置くSB社は、米国の一地方紙である。やれることには限界がある。そして彼らは、事件の国内での事情には他社より一歩も二歩も先んじていた。そんなワケで、ニューヨーク・タイムズ等のメジャーどころは、中国担当者や特別取材チームを編成し、中国側のコトと次第を詳報した。
その結果として判明したのは、中国で真実を明らかにすることは難しい、ということだった。問題のメラミン汚染された、というか後になって、内容のほとんどがメラミンだった小麦グルテンを製造、出荷していた農産物関連製品の会社である江蘇省徐州市にある徐州安営生物技術開発有限公司は、偽グルテン出荷の事実を真っ向から否定した。彼らは、そもそもグルテンを製造する工場を有していないし、問題の製品についても、もともと食用でない物質として出荷し、それを表すステッカーもきちんと添付していたと主張した。しかし、それらのウソは、ことごとく崩れて行った。下請けのトラック運転手は、同公司が工場を保有している事を証言し、またステッカーも、それがないと輸出検査に通らないことへの対策でしかなかったことが濃厚となった。それよりなにより、袋には、ちゃんと小麦グルテンと印刷されているのだ。
ことが中国国内で、しかも地方の腐敗した党幹部もからんでくるとなると、それはもうシンプルなことではなくなり、複雑な政治問題へと変わる。第一、農産物関連製品の商売胃をする会社がなんで多量のメラミンを出荷するのか。しかも、同公司は、工業界社からタダ同然で払い下げられた大量のメラミンを在庫していたのだ。バツが悪いことに、それを記録した書面が見つかったのだ。そうなると、もう尖閣諸島の騒ぎではないが、中国は自分たちに都合の悪いことを政治問題化させる名人でもあるので、コトは複雑化するばかりの様相を示してきたのだった。
そんな泥沼となったその後をはしょってお伝えすると、中国はペットフードやその他の中国製品と国のモラルに向けられる懐疑の視線を振り払うことに必死となっていた。なにせ、根拠なしに、とにかく中国が一番という中華思想なる思想のある国だ。メラミン利権というものがあるのかどうかはともかく、その恩恵に預かる一部の党幹部は、国際世論なぞ、どこ吹く風と一向にメラミンを食品や飼料に用いることの問題点を認めなかった。中国政府は、そんな一部の勢力を抑え込み、思い切った処分を行なった。それは、国家食品薬品監督管理局という中国のFDAの元局長による、邦貨にして1億円近い薬害もみ消し事件の収賄容疑に端を発したものだった。
ああ、恐ろしや。中国内の拝金主義は、自国民のための薬害までをも引き起こしていたのである。その元局長は死刑判決を受け、製薬会社のCEOは自殺し、デタラメな薬で多くの命が失われた。そしてそのついでとばかりにメラミンの不適切な使用容疑者も数多く摘発された。実際、この元局長以外にも、その家族が信じられない巨額の賄賂を受け取っており、その総額は、元局長ですらわからないそうだ。かくして中国には、新たな食品と医薬品のリコール制度が発足した。そして米国で露見した、小麦グルテン実はメラミンの一件は、中国ではウヤムヤとなった。しかし、その2年後には、赤ちゃん用のミルクい同じメラミン汚染が起き、死亡者まで出るに至ったのだ。中国の闇は深い、と言わざるを得ない。
一方の米国では、事件のおかげで法的な不備も次第に明らかとなっていた。まずはFDA管轄の法である連邦食品・医薬品・化粧品法/FFDCAによると、ペットフードもヒトのそれと同じく、清潔で危険な物質を含まず、ラベルに事実・真実が記載されていることを含む全体的な安全性を求めている。しつこいようだが、これはれっきとした全米をカバーする連邦法だ。なのに、FDAは、ペットフードの出荷前の事前検査を義務化していなかったのだ。この法の盲点というか、ほころびは、同法が1930年代に改正されて以来、ノータッチであったことによる。日本と同じく、悪党による悪辣な所業がどんなものになりうるかの想像力のない立法であり、現代の状況には、まるで対応できていないのだ。となると、そう、メーカーの法的責任は、実にかぎられたものとなってくる。腹立たしいこと、このうえないが、そうなるのだ。
ある意味、法治国家における限界である。しかし、強力な動物愛護団体であるPeTAがこれに噛み付き、法改正と同時にFDAの責任者の解任を求めた。このPeTAとは、People for the Ethical Treatment of Animalsの略で、言ってみれば「動物の倫理的扱いを求める会」となる。このPETAというグループは、その崇高な目的をもちつつも手荒いこともいとわない面があり、動物擁護過激派と呼ぶ向きもいる。毛皮のコートを着用している人にペンキをかけたりする騒ぎやパフォーマンスを行なうことでも知られている彼らだが、それとは別にFBIにテロリストと認定されている動物解放戦線のパトロンとなっているとも言われている。
こうなると、これを機会にと目立とうとするのは、政界に身を置く人間の性で、それは洋の東西を問わない。議会では、FDAを含む関係者を集めての公聴会が幾度となく開かれ、コトがコトだけに民主党も共和党もない超党派で状況の改善に努力しようとした。無論、中には、その尻馬に乗って、そのフリをしていた議員もいて、それは共和党員だった。やっぱりね。現在、この事件を発端に、ようやく80年近く手を付けられていなかったFDA管轄の各法律に手が入れられようとしている。換言すれば、まだ改正されていないのだ。その中で注目されているのは、ペットフードの安全性を確保するための定期的な検査や品質管理を義務化することだ。そして、このことは事件が風化しはじめると同時に、財界の味方である共和党員たちが足を引っ張るようになってきている。そんなワケで、FDAはメーカー申告によるリコール銘柄を発表することはしているが、事前の安全性確保まではできていないのが現状なのだ。
この事件は、掘っても掘っても終わりが見えて来ない、根の深いものだ。実際、中国政府と中国のFDAは、事件の原因となった小麦グルテンが中国内で生産され、出荷されたことを認めていない。にわかには信じ難いが、その姿勢を貫いている。そして、原因究明のための調査団の入国ビザの発給をも拒んだ。その後に同じ事が赤ちゃんミルクの製品で起きたのだから、何をか言わんやである。中国は面子を潰し、そしてまたも死刑判決を受けるモノが出てという、お決まりのパターンとなった。思うに、中国はもはや共産党だけではコントロールできない状況になっているように思える。ちなみに、中国政府は最終的にFDAの調査団にビザを発給した。彼らにとってもどう手を付けていいのかわからない状況となっていたのだろう。でも日本に対してだったら、断固拒否したはずだ。
それはさておき、米国内において、この事件が残した数字を挙げてみる。まずはFDAに寄せられた問い合わせと苦情の数、1万5千件以上、メニュフーズ社のほか、中国製の原料によるメラミン汚染の認められたペットフードのブランド/製品の数、130以上。
汚染ペットフードによる死亡例、文字通り数えきれず。なんとなれば、確実な死亡要因として認定するには、解剖の上、腎臓のサンプル検査を行なう必要があったからだ。とはいえ、リコール前の出荷数とリコール後の回収された製品数の差は、死亡例が1万を超えたとしても何ら不思議はないまでになった。
最後に、実に後味の悪い結末となるが、この騒ぎはまだ決着を見ていない。飼主である消費者によるMF社とペットフード・ブランドへの集団訴訟は、それこそ数えきれないくらい行なわれているが、示談なりの決着を見ているものは、わずかだ。その後のブッシュ政権時代のツケとして起きた経済危機や、一向に改善されない失業率等々の問題を抱え、なおかつ中間選挙で大敗を期した民主党オバマ政権にとって、ペットフード問題たるや、二の次、三の次の課題である。太平洋のこっち側の日本においては、ようやく昨年になって、ペットフードの安全確保のための法が施行された。とはいえ、日本のフード業界の世界も相当に怪しい面がある。その点については、証拠と資料のプールがある程度たまってきたところで取り上げるつもりだ。
最後の最後に、本件についてひとことだけ申し上げたい。昨今の食品関連の報道の数々を見るかぎり、コトは、ペットフードにとどまる話では、すでになくなっている。ヒト向けではない、ペット用のフードであるからと、無茶がまかり通ってきたのは、何も米国だけではない。しかも、それはヒト向けのものにまで及んでいる。牛の飼料に牛の肉骨粉を配合したことで発生したBSEなどは、日本人が大好きな英国発のものだ。相手先ブランドで製造する無名な、しかし規模の小さくないメーカーは日本にも存在するのだ。
それは主食たるフードよりも、トリーツとも呼ばれるおやつ類の製品の中で目立たないが、しっかりと存在している。あるブランドのおやつを食べさせたとたんに、愛犬のシーズー3頭の具合がおかしくなった例もある。メーカーであると信じて袋にあった番号に飼主が電話を入れるや、その会社とは所在地も名前も異なる某メーカーから慌てた声で電話がかかってきたというから、日本も米国を笑うことはできない。愛犬や愛猫、はたまた愛鳥や愛亀等々のペットたちに何を与えるかは、飼主次第なのだ。
次回は、米国のペット大量死事件を引き起こしたメラミン汚染関連事件の番外編をお送りする。今回の3回シリーズをお送りするにあたっては、本稿でも触れたが、ニューヨーク大学のマリオン・ネスル博士をはじめとする、多くの方々の助力を得ることができた。次回は、07年に起きた事件の前後に、まるでその予兆とも思えるように起きた事件や、事件を契機に起きたさまざまな動き、言ってみれば飼主や動物学者たちの間ではじまったムーブメントについてをお送りするつもりだ。その中で、ネスル女史の著した名著や、泣く子もだまるコーネル大学の動物栄養学博士との共著による最新刊についても触れる予定だ。
文中でも触れたが、下の映像は、気の弱い方、心臓の弱い方には、見る事をオススメしない。でも、愛犬家、愛猫家として覚悟をもちたい、事実をしかとこの目で見ておきたいと思われる方は、気をしっかりと持って見ていただきたい。この映像は、幾度となく第三者の手によって削除されつつも、事件を風化させてはならないと思う人たちの手によってネット上のあちこちで見られるようになっているものだ。これは事実の記録なのだ。