映画監督 宮崎駿氏
――宮崎監督は昭和16年(1941年)生まれだが、戦中、戦後の思い出は。
「物心ついた時から空襲警報が鳴っていた。ただ、昭和20年8月15日以前の日本というと断片的でわずかな記憶しかない。敗戦後というと、敗戦の反省ばかり。お祭りの露天商も『日本が発明したのは亀の子だわしだけ』などと言っていた時代だ。戦前に整備された公園の動物の檻(おり)には落ち葉が積もり、滑り台は赤さびが浮いてかしいでいた。かつての栄華が干からびていた。そんな感じだったから、その後の高度経済成長にも僕の中ではどこかクエスチョンマークがついていた。東京タワーも大嫌いで、エッフェル塔の貧乏なマネをしやがって、と屈辱感しかなかった。昭和30年代が懐かしいなんて、ちゃんちゃらおかしい。あのころがよかったというのが僕にはない」
「その一方で戦前は灰色の世界だと長く思い込んでいたが、そうではなかったことに気づいた。民主的という意味では(戦前の日本を舞台にした)『ノンちゃん雲に乗る』に出てくる家庭の方がはるかに民主的。戦前、戦後とすっかり分けるのではなく、連続しているものなんだと考えるようになった。(今回の映画では)自分のおやじの世代の思いも入れているが、おやじより少し上の堀越二郎、堀辰雄の生きた時代とおやじの時代、そして今。(これまで自分の中では)ブツブツに切れていた歴史の流れが(今回の映画で)つながったような思いがする」
――監督が敬愛の念を抱く小説家・堀田善衛。今回の作品ではその影響が色濃く出ている。
「堀田さんは『空の空なればこそ』という随筆集で旧約聖書の伝道の書の『凡(すべ)て汝(なんじ)の手に堪(たふ)ることは力をつくしてこれを為(な)せ』を引用している。力を尽くせ、という言葉は単純ではあるが胸に刺さった。二郎の夢に出てくるイタリアの飛行機製作者カプローニが二郎にたびたび『力を尽くしているかね?』という言葉をかけるが、やっぱり、どんな状況であれ力を尽くしてやった方がいいと思う」
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