医師ではないのに、がん患者に自ら開発した未承認薬を投与したとして、警視庁が医師法と薬事法違反で東京都八王子市の医薬品製造販売会社を家宅捜索した事件で、社長である元助教授の男（７４）が毎日新聞の取材に応じ、「ほかにも数十人に注射を打った」と明かした。警視庁は他の患者からも事情を聴き、実態解明を進める。

　男は、未承認の免疫抗がん剤「カルチノン」を注射したことについて「患者のかかりつけ医師がこの薬の投与を拒む例が多く、患者に泣きつかれたので自ら打った。医師法違反の認識はあったが、人助けという思いでやってきた」と強調した。未承認薬の製造や販売の許可を得なかった理由は「必要だと知らなかった」と話した。

　男によると、この薬は杏林大医学部で研究をしていた１９７０年代後半に開発。製薬会社などから得る年間数千万円の研究費で製造し「数千人のがん患者に無償で提供した」という。

　退職後は、２００５年４月から５年間、医師の息子が開業した都内の診療所で「１回５万４０００円〜２万４５００円で売った」と説明。１０年４月からは自宅を兼ねた会社で「もうけはいらないと思い、１回１万７０００円で販売していた」と話した。

　一方、自らも昨年末に甲状腺がんと診断されたが「カルチノンを使い、約２カ月で完治した」と主張した。【黒田阿紗子】