【動物たちに逢いにいこう!】 「虫歯はイヤ!」お菓子で健康を損なうオランウータン
檻の前を通る獣医師の竹田正人さんの動きに合わせて移動する雌のオランウータン「サツキ」。竹田さんが立ち止まると、近くにうずくまり凝視する。「いいですか、来ますよ!」と言った瞬間、サツキが唾を吐きかけた。
オランウータンは抜群の記憶力と認識力を持つ。サツキは年に1回の健康診断で竹田さんを「痛いこと(注射)をするイヤな人」と記憶し、見ると必ず唾を吐きかける。とはいえオランウータンやチンパンジーなどの霊長類は他の動物に比べ、人と共通の感染症に罹る可能性が高いため、健康診断は欠かせない。
オランウータンはすみかである熱帯雨林が伐採され続け、生存が危ぶまれている。動物園のオランウータンの健康を守ることは長生きにつながるだけではなく、「種を保存する」という意味もある。ワシントン条約(CITES)で国際的な商業取引が禁止されているため、新たなオランウータンは海外から入れにくい。オランウータンを絶やさないためにも、早めに子を残すことが望まれている。
ところが、動物園では感染症のほかに大きな問題が起こっていた。お客さんがあげるお菓子だ。「サツキ」の檻の前には、「肥満&虫歯で困ってます」と書かれた看板が掲げてあるが、いくら呼びかけても、餌をあげる人は後を断たない。しかし「餌を勝手に与えると、カロリーオーバーになってしまいます」と竹田さん。しかも、風邪をひいている人が食べかけのお菓子をあげると、そこから風邪がうつってしまうこともあり得るのだ。
サツキは98 年には体重が90kg にもなってしまった。ダイエットのためにカロリーの高い果物を減らし、代わりに白菜などの野菜を増やした。生活に変化をつけ運動量を増やすために、ツタの代わりとして消防ホースを設置し、餌を天井に置くなどの工夫もした。そのおかげで現在は67kg だが、「まだ重め」。虫歯の治療もしているが、お菓子を与えられる限りなくなることはない。サツキは現在39 歳。「子を残す可能性もあるので、健康維持に協力してほしい」と竹田さんは切実に訴える。