日本の新聞記者が少年探偵団と呼ばれる理由
asahi.comの記事が第四戦の結果を大誤報。っつうか、誤報というよりもめちゃめちゃな記事なので、ほぼ全文を添削してみる。
「オートバイの世界選手権シリーズ第4戦、イタリア・グランプリ(GP)は6日、イタリアのムジェロで行われ、」
→「ムジェロ」という地名はありません。地名を表すなら「バルベリーノ・ディ・ムジェロ」という表記が正しく、開催地を表すなら「ムジェロサーキット」とすべき。専門誌や関係者の間では略称として「ムジェロ」という呼び名が使われることも多いけど、平明で正確な表現を心がけているはずのいわゆる「一般紙」ではとても妥当な地名表記とはいえない。
「雨のため距離を短縮して実施した最高峰のモトGPクラスはバレンティーノ・ロッシ(イタリア、ヤマハ)が12分6秒803(平均時速155.877キロ)で優勝した。」
→「雨で中断した周回数の残りを、新たに周回数として再スタートした最高峰のモトGPクラスは……」というのが正確な内容。この表現もくどすぎるから、もっとすっきりしたまとめ方はいくらでもできると思うけど。でも、「雨のため距離を短縮して実施」と書いてしまうと、当初予定していた距離を(危険性か何かの理由で)調整してレースを行った、とも読めるので、原文は新聞記事の文章として、ものすごく失格、というほかない。
「ロッシは今季2勝目で通算35勝目。 」
→「最高峰クラス通算」に訂正。「通算」と記す場合には、ロッシの場合、125cc(12勝)と250cc(14勝)時代の勝利を加算した成績を表すことが通例で、しかも一般的には同じ最高峰といっても500ccクラスとMotoGPクラスはマシンの違い等から分けて語られることも多い。そういうわけで、ロッシはこの4クラスを制覇している“唯一の人物”なのだから、「通算」の意味は特に大切になる。でもまあ、125と250はレースとして最初から考慮しない、というのならば勝手にそうすればいいけど。
「日本勢は阿部典史(ヤマハ)の7位が最高で、青木宣篤(プロトン)が13位。」
→これは合ってる。
というか、ここまではそんなに大きな問題というわけではない。間違いは間違いだけど。
どうしようもない誤報は次の一文。
「中野真矢(カワサキ)はコースアウト、玉田誠(ホンダ)はエンジントラブルでリタイアした。 」
→本当は、中野はリアタイヤのトラブルが原因で転倒、玉田もタイヤトラブルでリタイア。新聞記事、事実と全然違うじゃん。NHKのテレビ中継を見て記事を書いても絶対に間違えそうにない部分だけど……。一番肝心な部分を間違えてる。こういう重要な箇所の事実誤認は、スポーツ記事そのものとして致命的。野球でいえば、「イチローが内野安打で出塁」を「イチローがデッドボールで出塁」と報道するくらい、あるいは「朝青龍が寄り切りで勝ち」を「黒海が鯖折りで負け」と報道するくらいにものすごく間違ってる。そんな間違いを平気で犯して未だに訂正されてないってのは、これはもう競技として舐められてるというか、そもそもスポーツと見なされていない、と考えざるをえない。
だいたい、ひとつ間違えれば選手の命に関わっていたかもしれないアクシデントを、いくらマイナースポーツと見なしているからとはいえ、こんなふうに平気で間違えてしまえる新聞社の姿勢には、呆れるのをとおりこして失笑せざるをえない。そして、今回のタイヤトラブルが発生するに至った背景にはそれなりのいろんな出来事の積み重ねがあって、じつはそれが非常に重要な要素ではあるのだけれど、そんなことなんか気づいている気配もない。
で、なんでこんな間違いが起こるのかというとですね……
記事の末尾に記された(共同)の二文字がその理由をあらわしている。
この記事は、共同通信から配信されたものをそのまま掲載した「もらい記事」だったのだな。朝日の記者は現場にいなかったから、共同の記事をもらってるわけ。でも、その共同通信も、現場にはいなかったんだけどね。だから、共同通信も、どこかからのシンジケーション経由で記事を貰ってる(買ってる)わけさ。たぶんロイターとかそのヘンから。つまり、彼らはいずれも、貰った記事を鵜呑みにして掲載する以外に方法はないのだ。たぶん、ファクトチェック用の「GRAND PRIX GUIDE」(Werner Haefliger)すら持ってないだろうし。って憶測で断言しちゃいけないか。まあそれはともかく、そういうわけだからこんな間違いが起こるのも、当然といえば当然の結果ではある。そもそも彼らは今回のアクシデントを現場で見てないのだし、予選での中野選手、玉田選手のコメントを振り返ったときにどれくらいこの結末を帰納できるか、あるいはシーズン前のテストからタイヤや各チームのマシンがどのように改善されてきたか、等々を振り返って検証していけば、いろんなものが見えてくるのだけれど、そんなもの、彼らには望むべくもない。
だって、日本の新聞記者や通信社の記者を、海外のサーキットで見かけたことなんて一度もないんだから。少なくともオレが転戦取材するようになってからは(除、遠藤智氏@トーチュウ取材歴16年)。
で、あるとき某新聞社の人に「せっかくこれだけ大勢の日本人選手が大活躍してるんだから(当時はしてたんだよ)、取材されればいかがですか。そうしたら、日本でももっと人気がでるんじゃないですかね~」と世間話の中でなんとなく言ってみたこともあったけど、「いやだって、ヨーロッパの宿から航空券から全部自分で手配して、サーキットも自分で探してレンタカーでやってくるなんてとてもできないですよ」とはっきり言われてしまったしな。
なっさけない。もう、アホかと。馬鹿かと。
そんな連中が大新聞でございと徒党を組んで記者クラブやなんかで少年探偵団のような「取材」をしてるんだから、日本の新聞記者連中があっちこっちで小馬鹿にされるのも当然ではないか、と。で、いきなり一般論に話が大きく広がってしまうけど、winny摘発のときだって宇都宮での暴力団員立てこもり事件のときだって、とにかくみんな横並びで警察発表のプレスリリース丸呑みの垂れ流し記事やニュースばっかりだったじゃないか。じっさい、オレはFLMASK事件のときに、大阪の某警察署記者クラブとか司法記者クラブとかから「お前は記者クラブに所属してないから、ニュースを教えてあげない」つって締め出し食らったしね。でも、ちゃんと自分で取材していろいろ調べたから別に垂れ流しのリリース記事なんて必要なかったんだけど。そういう経験をしているから、新聞やテレビのニュースがいかにいいかげんか、っつうのは身をもって経験している。とはいっても、もちろんそんな新聞社にも素晴らしいジャーナリストの人たちがいるのもよく知ってる。けど、全体がこんなレベルじゃねえ。
だから、そんなたかだか欧州のサーキットにすらたどり着けないような連中が、バクダッドやカブールに行って取材なんてそもそもできっこないのだ。だって行けないんだもん、危ないから。怖いから。そもそも会社が行っちゃダメだって言うし。それに、現場には「一発狙い」のフリーランスの連中がうようよしてて、うまく関係さえ持っておけば適当に安く使えて記事をもらえるから、わざわざ自分が危ない目に遭ってまでそんなところに行く必要もないし。
でも、それならさっさと記者の看板なんて降ろしてしまえばいいのに。自分に都合のいいときだけ「報道の自由」だの「ジャーナリズム」だのって大仰に騒ぎ立てるばっかでさ。っつうか、それも資本主義経済の下ではごく当然の行為なんだけれども、でもそういうヒトたちとは、個人的に仲良くしたいと思わない。
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