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■■■ 連帯保証人について (その1) ■■■ 連帯保証人については、私自身、誰よりも痛い目に遭っていますので、そりゃもう言いたいことがたくさんあります。(笑) まず今回は、前編として、連帯保証人制度というのがいかにヘンな制度なのか、思うところを書いていきます。 既に皆さんご存知と思いますが、中小零細企業の事業主が銀行に融資を申し込むと、当たり前のように、社長個人の連帯保証を求められます。 また、条件によっては、第3者の連帯保証人(友人、親戚など)を要求されることもザラです。 もっとひどい場合は、自宅に根抵当権を設定して、さらに複数名の連帯保証人を立てさせられる場合があります。 これは商工ローンがよくやる手口ですが、都市銀行でも、零細企業向けのプロパー融資の場合はよくやっていることです。 (大企業には連帯保証人なんて求めないことが多いのに、ちょっと不公平ですね。) 連帯保証人になると、万一、主債務者が返済不能に陥ったときに、その債務を全額肩代わりしなければなりません。 例えば、会社が経営不振に陥り、銀行への返済が滞った場合、連帯保証人になっている個人のところへ督促がいくいわけです。 たとえその連帯保証人が、年金生活者の老人であっても、他社に勤務しているサラリ−マンであっても、そんなことは関係ありません。 とにかく問答無用で、連帯して責務を負わなければならないのです。 会社を簡単に潰せない理由は、ここにあります。 会社を潰してしまうと、連帯保証している個人にも大迷惑がかかってしまうからです。 このため、「儲からない会社にさっさと見切りをつけて、早く次の新しい事業を起こして敗者復活しよう」という、スクラップ&ビルド的な前向き・建設的な発想になれないのです。 この連帯保証人制度、日本では銀行でもノンバンクでも、賃貸住宅や就職でも、ごく当たり前のように行われていて、それに対して誰も何も不思議に思っていないようですが、世界的にみると、これは非常に奇妙な制度であるようです。 欧米人に日本の連帯保証人制度を説明しても、なかなか理解してもらえません。 では、他国ではどうなのでしょうか? まず、アメリカを例にあげると、アメリカでは連帯保証人制度というのは存在しません(注1)(注2)。 金融機関からお金を借りる場合、多くの場合「担保」を取られますが、連帯保証人は不要です。 唯一、連帯保証人に近いのが、無担保ローン(教育ローンや高額の短期キャッシング) を借りるときに、"co-signer" (直訳すると共同署名者)というのを要求される場合がありますが、これも何もかも連帯責任というわけではなく、いろいろ限定条件のようなものが付いていて、いわば「ただの身元保証人」のようなものです。 アメリカでは、連帯保証人がない代わりに、担保のつけ方が非常に合理的で充実しています。 た例えば、担保の対象は不動産や有価証券だけでなく、売掛金や商品在庫までもが担保の対象になります。 そして、もし借り手(Borrower)が返済不能になると、担保を渡して借金はチャラになります。 たとえ不動産担保の評価額が下落して元本割れを起こしても、それは銀行側の自己責任と割り切って、それ以上請求してきません。担保を処理して終わりです。(こういうのをノンリコースといいます) それだけアメリカの銀行は、自分の審査能力や担保の査定能力に自信とプライドを持っているともいえます。 ちょうど日本の質屋に似ていますね。 質屋は自分の査定にプライドを持っていますから、後から「この質草だけじゃ足りない。もっとよこせ」などとは言いませんよね。それと同じです。 一方、日本の銀行は、返済不能時には担保を差し押さえて、それでも足りないと、さらに連帯保証人の個人資産まで取ろうとします。 まるでそれが当たり前のように、です。(質屋よりも往生際が悪いですね) また、商工ローンにいたっては、ただでさえハイリスクを名目にとんでもない高い利息を取っているにもかかわらず、複数の連帯保証人と不動産の根抵当権を求めてきます。 ここまでくると、もはやリスクがどうのこうのという範囲を超えています。 これはまるで、奴隷契約です。 これは世界的に見ても特殊であるばかりでなく、日本の銀行の審査能力のなさ、自己責任能力のなさ、プライドや倫理観のなさを顕著にあらわしているように思えてなりません。 もっとも、悪いのは銀行だけではなく、それを当たり前のように認めている法律や政治にも大きな問題があると思いますが。 連帯保証人制度によってメリットを享受できるのは、貸し手側だけです。 借り手側は、連帯保証人になって泣くことはあっても、笑えることはひとつもありません。不公平だと思いませんか? まったく人をバカにした制度です。 本来、株式会社や有限会社の経営者は、「有限責任」といって、万一事業に失敗しても、会社につぎ込んだ資金を失えばそれでオシマイのはずです。 それを、個人に責任転嫁して、執拗に責任追及するのが現在の日本の連帯保証人制度です。 まるで江戸時代の封建制度そのままです。 株式会社という制度の本来のあり方と、大いに矛盾しています。 連帯保証人制度がもたらす悪影響は、中小零細事業主だけに及びません。 なぜかあまり話題にのぼることはありませんが、日本経済にも深刻な悪影響を及ぼしています。 たとえば、連帯保証人制度のしがらみのせいで、非常に多くの事業主が、潰すべき会社を潰すこともできないで深刻に悩んでいます。 借金自殺する経営者も、多くは連帯保証人がらみの悩みからきています。 また、金融機関の不良債権処理が進まないのも、担保処理だけでスッキリさせず、いつまでもウダウダと連帯保証人への追及を続けているせいだとも言えます。(白黒はっきりしないグレーな不良債権が多いのもこのためですね) 要するに、連帯保証人制度のせいで企業家はスクラップ&ビルドが思うようにできない。 金融機関は不良債権処理が進まない。 これらが、日本経済を停滞させ、成長を大きく妨げているのです。 言い換えれば、連帯保証人制度を廃止すれば、不採算事業から退くことも新規事業を起こすことも楽にできるようになるので、起業&廃業の新陳代謝が活発になり、有望な起業家が沢山育ち、金融機関の構造改革も進み、日本経済は底から湧きあがるように活性化されていくはずです。 それから、話がちょっとそれますが、アメリカでは賃貸住宅を借りるときにも連帯保証人なんて要りません。礼金敷金も要りません。普通は家賃の前払い(1か月分)と、Cleaning Deposit といわれる、撤去時の清掃代金の前受け金を取るだけです。 しかも、このCleaning Deposit は、退去時に余った分を返してくれます。 アメリカでは、これらの前受金が担保代わりになっています。 一方、日本では、礼金敷金を取って、さらに連帯保証人まで要求してきますよね。 これはどう見ても異常です。 礼敷金を取っている以上、3−4ヶ月は家賃滞納しても大家さんは損しません。 部屋の中が汚されたり壊されたりしても、敷金でまかなえます。 なのに連帯保証人を取るとは一体どういうことでしょう? まったく人をバカにしています。 まるで子供や禁治産者のような扱いだと思いませんか? ★ これを読んで、「いや、連帯保証人制度は日本経済のために必要だ」 という反論がある方や、「海外で連帯保証人制度のある国を知っている」 とか 「○○国では連帯保証人を取るかわりにこうやって銀行融資している」 という情報をお持ちの方、 あるいは 「日本から連帯保証人制度を無くすにはこうしたらいい」 というようなご意見をお持ちの方、何でもかまいませんので、どしどしメールください。 今後、このHPで、連帯保証人の話題を特に充実させていきたいので、あらゆる角度でのご意見を広く募集し、ホームページに反映させていきたいと思います。 皆様ご協力お願い致します。 (次号へつづく) (メルマガ 2001年/第19号より抜粋) (注1) これを書いていた2001年当時は私もまだまだ勉強不足でした。その後の調べで、アメリカにも個人保証をつける習慣があることがわかりました。しかし、その場合も、「連帯」保証人ではありません。連帯保証とただの個人保証では大きく違います。アメリカのそれは、ただの保証人であり、保証の範囲も限定されています。いきなり無自覚のうちに全責任を負うということはなく、かならず事前に「責任の範囲はどこまでか?」「個人保証はしてもいいが、全額保証は嫌だから○割だけ責任を負うというようにしてもらえないか?」などと確認・交渉の余地があります。 日本の連帯は「無自覚のうちに」「主債務者と全く同等の全責任を負う」ことが「当たり前のように定着している」 というのが最大の問題であり、この点、日本の連帯保証人とソックリな制度は、やはりどこを探しても見当たりません。) (注2) 2005年4月、青山学院大学国際政治経済学部国際経済学科の瀬尾佳美助教授より、 メールにてご指摘を頂きましたが(瀬尾先生ありがとうございました)、 どうやら、ドイツやフランスにも日本の連帯保証制度と非常によく似た制度が あるようです。 (とはいえ、日本のそれと比べるとやはり人権保護のウェイトが重く、債権者と 債務者がより対等な関係にあるように思われます。) 瀬尾先生は我が国の連帯保証制度だけでなく、信用保証協会や中小企業金融、 自己破産制度のあり方などについても、ホームページ上で鋭い指摘をされています。 一読の価値ありです。私も大変勉強になりました。 よろしければご参考までに → 『連帯保証制度問題研究所』 http://www.sipeb.aoyama.ac.jp/~kse-home/topics/jikohasan-sagi/jikohasan-sagi/europe.htm (注3) 2008年5月3日追記。 上記の瀬尾佳美准教授が、4月下旬からネット掲示板や各メディアで非難を浴びています。 よって、上記(注2)を削除したほうがいいんじゃないかとのご指摘も、数名の親切な方から頂きました。 しかし私はこれを削除せず、残しておこうと思います。 これについての私の考えを、ブログにまとめました。ご一読下さい。 → (ブログ記事その1)(ブログ記事その2) |
■■■ 連帯保証人について (その2
− 読者さんからの投稿)
■■■ さて、前回の続きです。 おかげさまで前号は大反響で、何10名もの方から感想メールを頂きましたが、今回はその中の1つを紹介したいと思います。 |
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K先生、ありがとうございました。応援してます。 (メルマガ 2001年/20号より抜粋) |
■■ 連帯保証人について (その3 − いよいよ連帯保証人対策です) ■■■ さて、いよいよ本題です。 銀行や商工ローンの連帯保証人になってしまった人の基本的な対処法を下記します。 (重要な順に書いていきます。) 1. <主債務者と仲間割れしないこと。> 連帯保証人になってしまったアナタにも責任があります。 万一債務者が返済不能に陥って、連帯保証人のあなたに被害が及んでも、一方的に債務者をなじったりしてはいけません。 そんなことしても、何のトクにもなりません。 主債務者と連帯保証人が仲間割れすると、お互いの連絡が途絶えがちになり、業者からの督促がどこまで進んでいるかわからないので、その隙を業者につかれて非常に危険です。 気をつけてください。 2. <主債務者とがっちり手を組むこと。> 連帯保証人にさせられたという被害者意識を捨て、主債務者と「一緒に」危機を乗り越えるつもりで臨んでください。そして、主債務者とこまめに連絡を取り合って、業者から督促が来たらどう対処すべきかを、綿密に話し合ってください。 こうすると、隙がなくなり、業者も好き勝手なことができなくなります。 業者の回収は「取り易いところから取る」のが基本ですから…。 3. <自分が借りたつもりで、対処方法をよく勉強すること。> 連帯保証人の一番弱い部分は、自分で借金した人と違って、自覚がまるでないことです。 このため、いざ取立てが連帯保証人のところへ及んだときには、丸腰状態で相手のいい様にやられてしまいます。呼ばれたらノコノコ行ってしまうし、払えと言われたらすんなり払ってしまうし、ハンコを押せと言われたら押してしまう人がほとんどです。 これではいけません。 こんなときどう対処すべきか、自分が借りた身になって、しっかり対処法を勉強すれば、最悪の事態は免れます。 4. <呼ばれても行かない。行ってもハンコを押さない。払わない。> 業者から呼び出しがあっても、絶対に一人で勝手に行ってはいけません。 自分が無知・無防備だということを自覚してください。 もし相手のところに行くのであれば、事前に必ず主債務者と綿密に打ち合わせてから行ってください。 それから、払えと言われても、簡単に払ってはいけません。 ちゃんと契約書類を一通り見せてもらって、納得いくまで熟読してから判断してください。 それも一人で判断するのは危険です。 その場で即決しないで、誰かに相談してから払うべきかどうか決めるくらいの慎重さが必要です。 ハンコを要求されたときも同様です。基本的に、債務不履行になってから新たに捺印要求される書類なんてものはロクなものがありませんから、「絶対に押さない!」というくらいのつもりで慎重に対処してください。 5. <契約内容をもういちど熟読する。> 「連帯保証人の有効期間は、契約日から5年以内とする。以後は、連帯保証人から申し出がなければ、5年おきに自動更新とする」 なんていう条項が書かれていたりすることがありますので、連帯保証人から逃れられる数少ないチャンスを伺うためにも、是非契約書を熟読してみてください。 また、最悪の場合に何をされる恐れがあるのかを知る為にも、契約書のほかにどういう書類に捺印したかを再チェックしてください。 (例えば、商工ローンで、連帯保証人が「公正証書作成委任状」という書類に実印を押していると、万一債務者が返済不能に陥ったときに、真っ先に連帯保証人の給与が差し押さえられます。注意してください。) テクニック的なことは他にもいろいろありますが、連帯保証人が自分の身を守るための大原則は上記の5つです。 (メルマガ 2001年/23号より抜粋) |
■■■ 連帯保証人について (その4 − 法的解釈) ■■■ (* 2年ぶりにこのページを更新しました・・・) 法律上、「保証人」にはどのような種類のものがあるか? 私は法律の専門家ではないので、あまり突っ込んだ解説は控えますが、連帯保証人の問題を考える上で最低限必要な法律知識を、わかりやすい言葉で紹介したいと思います。 1.民法上の 「保証人」 (ただの個人保証) 意外なことに、「保証人」は、わが国の金融機関では滅多に使われていません。金融機関で使っているのは、ほとんどの場合「連帯保証人」のほうです。 主債務者が破産や夜逃げなどで借りたカネを返せなくなったときに、「保証人」になった人は、代わりにその返済義務を負わなければいけません。 しかし、「保証人」は「連帯保証人」とは違い、かならずしも全額即座に肩代わりしなければならないとは限りません。 例えば、主債務者がまだ支払い能力があるときは、保証人は、「主債務者のほうへ請求してくれ!」と突っぱねることができます。これを法律用語で「催告の抗弁権」(民法452条)といいます。 また、主債務者に返せる能力や財産などがあることを証明することができれば、そこから取り立てしてくれ!と突っぱねることができます。これを「検索の抗弁権」(民法453条)といいます。 またもうひとつ、「分別の利益」(民法456条)といって、複数が保証人となった場合に、各保証人は主債務を平等 に分割した額だけ保証すればよいことになっています。 つまり、単なる保証人ならば、1千万円の債務に対して2人の保証人がいれば、各保証人は実質的に500万円だけ保証していることになりますので、ヘンな話、保証人が多ければ多いほど、各保証人の負担は軽くなるといえます。また、保証人たちは、主債務者が明らかな返済不能にならないかぎり、債権者から請求されることもないのです。 金融機関からすれば、「保証人」だと取立てのときにちょっと厄介ですよね。なぜなら、主債務者が返済を滞ったとき、主債務者にきちんと督促して、そのうえ返済能力や資産などが無いことを確認してからでないと、保証人への請求ができないわけですから。 だから金融機関は「連帯保証人」を求めるのですね。 「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」。 この3つは、連帯保証人制度を考えるうえでは是非とも知っておいてもらいたい法律用語です。 2.連帯保証人 金融機関が融資のときに求めてくる保証人というのは、まずほとんどがコレです。 保証人ではなく、連帯保証人。 連帯保証人になると、前述した「催告の抗弁権」も「検索の抗弁権」持たないとされています(民法454条)。 また、「分別の利益」も持たないとされています(民法456条)。 したがって、主債務者が返済不能であろうとなかろうと、資産をタップリ持っていようと、そんなことは関係なく、債権者は連帯保証人に全額をいつでも請求できるわけです。 「いつでも」「全額を」、ですよ!! これはもはや、保証人というよりは、債務者といったほうが近いですね。 貸し手側としては、いつでも主債務者をすっ飛ばして連帯保証人に直接請求できますので、主債務者へ返済に対する緊張感を与え続けることができますし、主債務者が返済を遅延したときに、いちいち主債務者の資力を調べなくても、即時に連帯保証人に全額請求できるので、債権回収する上ではメチャクチャ効果抜群です。 こんなに貸し手にとって有利な制度があるのだから、もし私が金貸しだったとしても、やはり借り手に連帯保証人を求めるでしょうね。 でも、借り手側としてはたまったものではありません。 連帯保証人制度が人権侵害だとか前時代的だとか奴隷制度のようだとか言われるのもうなずけますね。 3.身元保証人 もうひとつ、民法ではありませんが、雇用契約における身元保証の範囲を規定した 「身元保証ニ関スル法律」 という法律があり、これは保証範囲がかなり限定されていて、また解除も比較的しやすい制度なので、連帯保証人制度を見直す上で比較検討の材料として研究してみる価値がありそうです。 身元保証人の場合は、保証期間が原則3年間、最長5年間までと定められています。 また、被用者(雇われている当事者)が、「業務上不適任または不誠実な行跡があり、保証責任が発生する恐れがあることを知ったとき」や、「任務または任地を変更したことによって保証責任が加重または監督が困難になるとき」には、雇い主は「身元保証人」にこれを通知する義務があり、身元保証人はこのような事実を知って負担が重いと判断したときには身元保証契約を解除できるとしています。 また、報告を受けなかった場合、報告義務違反として、保証範囲の負担を軽くすることもできます。 連帯保証人とは大きな違いですね。 いかがでしょうか? 私が思うに、一番問題視しなければならないことは、まず「連帯保証人」という制度の存在そのものです。 次に、その「連帯保証人」という制度を、日本全国のあらゆる債権者(銀行、ノンバンク、街金、家主、はては一般個人まで)が利用しているということです。 「連帯保証人」を「保証人」にするだけでも、自殺者は激減すると思います。 是非とも連帯保証人制度を撤廃、または撤廃が難しいなら、せめて見直しぐらいしてもらいたいものです。 (メルマガ2003年9月 メルマガ61号より抜粋) |
■■ 連帯保証人について (その5 連帯保証人制度の国際比較 前編) ■■ 2003年版の「中小企業白書」を読むと、わが国では、従業員20人以下の企業がメインバンクから融資を受ける際、86.8%の割合で個人保証を提供しているとの調査結果が出ています。 これが従業員100人以下の規模の企業になると、個人保証を提供している割合は83.7%とやや下がり、300人以下なら65.7%となっています。従業員301人以上の大企業になるとさらにグッと下がり、個人保証を提供する割合は約30%しかありません。小規模事業になればなるほど金融機関は融資の際に個人保証を求め、大企業になればなるほど個人保証を求めてこないという、ある意味不平等な構図が浮き彫りにされてくる統計ですね。 また、中小企業白書の統計に反映されてこないような零細企業や自営業の存在も無視できません。 この場合、さらに高い割合で個人保証を付与していると考えられます。 で、ここでいう「個人保証」のほとんどは、実際には「連帯保証」です。ただの「保証」ではありません。ここに大きな問題があります。 ためしにお近くの銀行や公庫などで、借入申込書をもらってみればわかります。ほとんどの場合、「保証人」という記入欄はなく、代わりに「連帯保証人」という記入欄があるはずです。いかに我が国では「連帯保証人」という制度が浸透しきっているかわかりますね。 アメリカではどうでしょうか? よく、「アメリカには連帯保証人制度のようなものはない。」 と、いろいろなところで言われています。(私の著書にもそう書いてあります。) しかし、意外なことに、「個人保証」だけなら、アメリカでも広く利用されています。 「連帯保証」はありませんが、ただの「個人保証」はアメリカにもあるのです。 ためしに、英語の得意な方は、アメリカのYahooなどのサーチエンジンで、"personal guarantee" "business loan" "bankruptcy" などのキーワード検索をかけてみてください。融資を受ける際の個人保証や、その責任範囲についての記載が、いくらでも出てきます。 アメリカは日本と比べて、直接金融(=投資など)による資金調達の割合が高く、間接金融(=借入など)の割合は日本などと比べるとかなり低いと言われています。 つまり、「借入」にさほど依存しなくても、事業資金の調達方法はいろいろあるわけです。これは我々日本の事業主から見ればうらやましい限りですね。 しかし、そうは言っても、中には直接金融よりも間接金融を好む事業主もいます。 確かに、確実に返せるアテがあれば、直接金融よりも間接金融のほうが、余計なしがらみにとらわれず、資金調達先から経営上の干渉を受けないというメリットがありますし、そのほかにも、間接金融ならではのメリットは数多くあります。 この時、(つまり、アメリカで事業者が金融機関から融資を受けるとき、) 金融機関は「総合的な判断」で金利や担保、個人保証などを決めます。 たとえば顧客の信用履歴(クレジットヒストリー)が悪ければ個人保証を求めるとか、あるいは何らかの物的な担保の提供ができれば個人保証はいらないとか、あるいは個人保証も物的担保も差し出せなければ、よほど将来性のある事業計画がなければカネを貸せない、それもある程度高金利でないとダメだとか・・・。 つまり、借り手の要望に対し、柔軟に、かつフェアに、貸し手責任においてそのリスクを査定し、融資の条件を決めさせてくれる傾向があるようです。 また、日本では、ほとんどの場合、融資の保証といえば、「融資金額の100%を連帯保証」 することを指しますが、アメリカでは、融資申込み時に、「個人保証の範囲は30%以内にしたい、そのかわり金利は多少高くてもいい」 とか、「個人保証は100%で構わない、そのかわり、金利を下げてくれ」 とか、「物的担保を差し出すから、個人保証は勘弁してくれ」 とか、いろいろな交換条件を提示できるようです。日本とは随分ちがいますね。 そう、アメリカでは、貸し手と借り手の関係が、日本よりもずっとフェアな関係にあるのです。 以前にも書きましたが、担保の取り方にしても、アメリカではノンリコースローン(返済不能になったら、担保を取ってそれで痛み分けのオシマイ)が主流ですが、日本ではリコースローン(担保を取っても残元金に満たない場合は、それ以上の請求をする)が当たり前のようになっています。 アメリカでは貸し手もリスクを覚悟で公平な条件でカネを貸しますが、日本の金融機関はリスクを取るのがよほど嫌なのでしょうか、ひどい場合は担保と連帯保証人をダブルで取る場合もザラにあります。 しかし、ここで「アメリカは恵まれている。日本はひどすぎる。」などと短絡的な論じ方をしても、あまり意味がありません。アメリカはアメリカで、日本人からは考えもつかないような、いろいろな金融システム上の問題を抱えているのです。(ここでは省略します。) ここでは保証人制度の問題に極力焦点を絞って話をすすめますが、大事なのは、アメリカやその他諸外国の良い所を「ヒント」にしながら、我が国の悪い部分を改良していくことにあります。 (つづく) (メルマガ2003年11月18日号より抜粋) |
■■ 連帯保証人について (その6 連帯保証人制度の国際比較 後編) ■■ ところで、皆さんは、「信用保証協会」というものをご存知でしょうか? 銀行からお金を借りたことのある事業主の方なら、まずご存知でしょう。 信用保証協会とは、「信用保証協会法」に基づく認可法人で、中小企業が金融機関から事業資金を借入する際、公的な保証人代わりとなって、借入を容易にし、金融の円滑化を通じて中小企業の支援を行うことを目的としている機関です。 信用保証協会の保証がつけば、銀行は、事業主に対し、たとえ担保力が無くても、事実上 「無審査」 に近い形で資金を貸し出します。(もちろん保証協会が保証の可否をじっくり「審査」 しますが。) 貸したカネが万一焦げ付いても、保証協会が全額を代位弁済(肩代わり) してくれるので、銀行としては、まるっきりリスクがないわけです。 保証協会は、銀行に代わってそのようなリスクをかぶるかわりに、借主から融資金額の数%に相当する「保証料」というものを取ります。 平たく言えば、中小零細企業は、信用保証協会に「保証料」を払って債務保証してもらうことによって、余計な第三者の連帯保証人を立てずに、銀行から事業資金を借り出すことができるわけです。 素晴らしい制度ですね。 しかし、制度そのものは素晴らしいのですが、実際の運用にあたっては、その信用保証協会が、なんと、借り主に第三者の連帯保証人を求めたり (悪い冗談のようですが、これは紛れもない事実です)、銀行へ代位弁済した後に、保証協会から債務者に対して延々と返済を求めたりしているのが実情です。したがって、保証料を払っても、その債務から逃れられるわけではありません。銀行から請求が来なくなったも、保証協会から代わりに請求が来るのですから。 そして、悲しいことに、保証協会が主債務者に返済を求めて主債務者がこれに応じられないと、保証協会はなんと、連帯保証人に請求するようになります。 (これでは何のための保証協会か、何のための保証料かわかりませんね・・・) 海外ではどうなのでしょうか? 実は、海外にも、日本の信用保証協会とよく似た公的保証機関が数多くあります。 たとえばアメリカでは、中小企業庁(SBA)がこの役割を担っています。日本の信用保証協会とは違い、第三者の連帯保証人を取ったり、主債務者が返済不能になっても債務を追求することはありませんが、そのかわり、代位弁済の範囲が「未回収分の最大85%まで」などと定められていたりして、金融機関にも多少のリスクを負わせるようにしているのが興味深いところです。 また、フランスでは、中小企業開発銀行(BDPME)が同様の公的保証を行っています。BDPMEもまた、保証の範囲を最大70%までと限定しており、銀行に残りのリスクを負わせています。またBDPMEは、民間出資を基とした子会社(SOFA RIS)に保証基金の運用を任せており、政府の補助だけでなく民間にも間接的にリスクを負わせるような形になっています。 他にも、ドイツやイギリスや韓国などにも、類似した公的保証機関が数多く存在しているようですが、いずれも日本と違い、「全額保証」ではなく「部分保証」で、そのかわり、保証協会が連帯保証人を取るといったような不条理なシステムは無く、文字通り、ちゃんと「債務保証」してくれるようです。 (以上、参考文献=中小企業白書2003年版、181ページ) 私は思うのですが、日本でも、連帯保証人制度を事実上なくしていくために、あるいは第三者の連帯保証人ナシで円滑に銀行融資を受ける為には、この「欧米のような公的保証機関」 が存在してくれれば、だいぶ違ってくるのではないでしょうか? いや、公的機関でなくても構いません。 民間企業でも、債務保証を専門とするプロパーの会社があったら面白いと思います。 自社リスクできちっと審査し、債務者の信用力に応じて保証料や保証割合を上げたり下げたり柔軟に対応し(状況に応じて保証料が高くなってもいいと思います)、そのかわり、後腐れなく、きちっと債務保証してくれるところが現れてくれないでしょうかね? (注: 現在のところ、日本で「保証会社」と名乗るところは、都道府県の信用保証協会以外では、どれもこれも、金融機関の子会社として成り立っている保証会社ばかりであり、その役目は、債務保証というよりは、金融機関の不良債権回収部門といった趣きです。 そのクセ保証料を取っていたりします。なぜ借り手の皆さんはこれに文句を言わないのでしょうか?) 以上、連帯保証人制度を見直す上で、「公的保証」「保証会社」の存在を広く検証することがひとつのヒントになると思い、いろいろ書いてみましたが、他にもよく考えれば、連帯保証人を取らなくても金融機関がローリスクで融資できるシステムが、数多く考えられると思うのですが・・・。 (メルマガ2003年12月11日号より抜粋) |
■■ 連帯保証人について (その7 連帯保証債務の解決方法 また基本) ■■ 連帯保証人になってしまった人が自分の身を守るための方法を、ここでもう一度、改めてわかりやすく説明してみます。 [ステップ1] 主債務者の現状を把握する ここから全てが始まります。現状を何も把握しないで一人で勝手に先走るのは得策とは言えません。 タイミングが非常に大事ですので、まず最初は、落ち着いて主債務者の現状を知ることから始めてください。きちんと返済できているか?、仕事はうまくいっているか?、他社借入状況はどうなっているか?、債権者とトラブルは起きていないか?、先のことをどう考えているか?、等。 この時、もう一つ極めて重要なのは、「主債務者と仲違いしないこと」です。 現状を聞き出すときも、威圧的に尋問しないこと。 運命共同体として、どうせなら地獄の果てまで「連帯」するぐらいのつもりで、やさしく、親身になって話を聞くのがベストです。 矛盾めいてた話ですが、連帯保証人は、主債務者と無理して離れようとすればするほど債権者の思うツボになり、悪い方向へ向かいます。 逆に、地獄の果てまで「連帯」するつもりで一緒に情報収集&実行すると、たちまち良い方向へ向かいます。キモに銘じてください。 [ステップ2] 予備知識を身につける(問題解決のためのツールを知る) 次に(同時進行でもOKですが)、問題解決のための方法を知るために、本やネットなどで情報収集しましょう。 手前味噌ですが、私の書いた『借金にケリをつける法』という本には、連帯保証人対策が他の類書にないほど、詳しく書いてあります。 シンプルに言ってしまえば、連帯保証人さんが戦うためのツールは、一般の多重債務者のそれと何ら変わりません。 保証債務も多重債務も「債務は債務」ですから。 裁判所でも債務の扱われ方はそう変わりません。 したがって、多重債務者向けの対処法を勉強すれば、あとは、その方法の組み合わせ次第で、道が開けてきます。 以下、いくつか例をあげましょう。 例えば、ふりかかってきた連帯保証債務が、とても払い切れない程の高額ならば、まずは弁護士さんに相談して、自宅を守りつつ債務を5分の1前後にまで減らせる「個人再生手続き」などといった方法を検討します。 それでも解決できないほどの債務ならば、最終的には自己破産なども視野に入れます。(自己破産も使いようによってはとてもプラスに作用します。偏見を捨てましょう。) あるいは、何とか払える金額だけれども、商工ローンのように金利が高いとか、公正証書を取られていて即座に給与差押さえをされる恐れのある場合は、弁護士さんに、利息制限法引き直しや分割払いなどの「任意整理」を依頼するのがいいでしょう。 または、任意整理を依頼する弁護士費用がない場合は、自分で簡易裁判所へ行き、特定調停を申し立てるという方法もあります。これなら費用も抜群に安く、任意整理と大差ない効果が期待できます。但し特定調停の場合、自分で裁判所へ行くので、それ相応の最低限の知識が必要ですし、また場合によっては、特定調停が不成立に終わり、地裁で「債務不存在確認請求訴訟」などを申し立てないと太刀打ちできないケースも起こり得ます(特に商工ローンは)ので、さらなる知識武装と覚悟が求められる場合もあります。 高齢の方や時間のないサラリーマンの方などにはあまりおすすめできません。 連帯保証債務が「自動車ローン」や「銀行の小額債務」のみであれば、上記のような法的整理をしなくても、お一人で十分に債権者と交渉できる余地があります。 一括請求通知の内容証明が来ても慌てる必要はありません。 債権者に納得いくまで保証責任の有無を確認し尽くした上で、払うお金がなければ「分割払い」の話し合いをすればいいし、払う金はあるが余裕があまりない場合は、「一括で支払う代わりに、少しまけてくれ」 とか、いろいろな交渉ができます。 このように、多重債務者向けに有効な数々のツールが、そっくりそのまま使えます。 但し、使い分け方や、それぞれのメリットデメリットは、専門家に相談してじっくり決めたほうがいいでしょう。何度も言いますが、勝手な判断で先走ってはダメ! [ステップ3] 専門家に相談して方針を固める 連帯保証契約書など、重要な書類を可能な限り持参して、何人かの専門家に相談に行きましょう。 「30分○○円」のスポット相談だけで十分です。最初からあわててひとりの専門家に正式依頼しないほうがいいです。できれば2-3人かそれ以上の何人かの専門家にスポット相談し、いろいろな角度から、「現状分析」と「考えうる対処法」を検討し、その上で、弁護士さんなどの専門家に正式依頼するかどうか決めましょう。 「任意整理がいいか? それとも特定調停がいいか?」 「法的にバッサリ整理するか? それとも裁判所も弁護士も使わず、長期戦覚悟で銀行と直接向き合い、いずれサービサーで償却されるのを待つか?」 「払うか? それとも無理して払うのをやめる方向を選ぶか?」 ・・・など、その場面その場面で、やや判断に迷うような微妙な選択肢が分かれることもよくありますから、「特定調停すればバッチリだ」 などと、一つの限られたツールを過信するのは危険です。 考えられる全てのツールを駆使して、ベストな組み合わせを見つけるためにも、必ず主債務者と連携のうえ、専門家に相談しながら事を進めましょう。 (メルマガ2004年1月14日号より抜粋) |
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■■連帯保証人について (その8)■■ 久しぶりの更新です(1年4ヶ月ぶり) 連帯保証人制度については、もうかれこれ7年も悩み続けている私ですが、そのときそのときで、考え方が微妙に変わってきています。 最近では、私が我が国の連帯保証人制度で最も 「問題だ!」 と感じることは、 (1) 「保証人といえば連帯保証人のことを指す」というのが、半ば常識みたいになっていること。 なぜ金融機関からお金を借りるときに、「連帯保証人は嫌だけど、責任範囲をウン%以内に限定したタダの保証人ならなってもいいですよ」 と言えないのか? なぜ銀行やローン会社の借入申込用紙には初めから「連帯保証人」欄が印字してあって「ただの保証人」を選びにくいようになっているのか? 最近は包括根保証が廃止になったり、無担保無保証の金融商品が増えてきたりと、一見良さそうに見えるが、包括根保証が廃止になっても連帯保証の責任から逃れられるわけではないし、無担保無保証の貸付といってもそのほとんどが、「代表者の個人保証だけは頂きます」というものであり、その個人保証も「連帯保証」にほかならない。 要するに、現場レベルではほとんど何も変わっていない。 私は個人保証そのものを完全撤廃してほしいとまでは望まない。ただ、もっと選択の自由が欲しい。 (2) 知る機会がないこと。 金融機関は連帯保証人に督促するとき、「ちゃんと契約時に説明しましたよね?連帯保証人ていうのは、全責任を負うんですよ」 と当然のごとく言う。 確かに最近はちゃんと説明したうえで連帯保証人になってもらうことが増えてきた。しかし、連帯保証債務をいきなり負って途方に暮れる人は未だに後を絶たない。なぜか? 説明は受けたけど、理解しきれなかったからである。普段借金をしたことのない純粋無垢な人が、金融機関から連帯保証人の責任について説明を受けても、正直なところ「よくわからない」だろう。連帯とは何か、保証とは何か、現実のものとして自覚しながらハンコを押す人は非常に少ないはずである。 「連帯保証はキツイなあ〜。俺サラリーマンだし・・・。でも、主債務者の○○さんのためだ、上限ウン百万円までの責任範囲で連帯じゃないただの保証人になら、なってもいいですよ。」 と、ちゃんとした知識を持った上で自分の意思で主張できる人はそういないと思う。 (3) デメリットは多いが、メリットは何もないこと。 考えてみてほしい。連帯保証人をつけるという行為は、債権者にとってはリスク回避のメリットがある。債務者にはお金を借りられるというメリットがある。しかし、連帯保証人にとっては、リスクを負うだけでメリットは何一つない。 保証会社や信用保証協会は保証料という収入が入るからいい。割り切れる。しかし、連帯保証人は何一つ金銭的なメリットはないのだ。リスクだけ負わされて。これではまるで人質ではないか? 逆説的だが、連帯保証制度を積極的に利用し円滑化させようとするなら、連帯保証人にも何かしらのメリットを与えることを考えなければならない。リスクを負う代償として「連帯保証料」を払ってあげたり。 おもに、この3点です。 法改正にも期待したいですが(「撤廃」ではなく「見直し」に期待)、法規制にあまり頼り過ぎて法律でガチガチになっていくことは、大局的に見れば自ら自由を奪うことにもなりかねないので(歴史が物語る)、慎重に考えなければなりません。 しかしやはり、どう考えても、連帯保証人になった個人の方は「弱い立場」にあることは間違いないので、法制度でコントロールして平等さを打ち出す必要はあるかもしれません。 また、法改正と同時に重要なのは、「教育」「啓蒙」に力を入れることです。 我々一般市民が賢くなっていきながら、今までの連帯保証アタリマエ的な習慣を軌道修正して、対等な立場に持っていければ理想的かな、と思います。
ご本人がどんなに深刻にとらえていても、専門家が客観的にそれを見た場合、それは思ったよりも複雑ではなく、スルスルと解決できることも多々あります。 画家の岡本太郎は「自分を特別視するな!」と著書に書いています。 自分をまるで悲劇の主人公のように、特別に悲惨な状況下に置かれていると思い込んでいる人がいますが(特に連帯保証人になった人にはその傾向が強いと感じます)、連帯保証債務で苦しんでいる人なんて、そこらじゅうにいます。あなただけではありません。あなたよりも何百倍も重くてややこしい問題を背負いながらも、見事に解決できた人も大勢います。自分だけ特別だと(特別に悲惨だと)思うのはやめましょう。 村上春樹の小説「ノルウェイの森」の中には、「自分に同情するな」という名言があります。これも連帯保証人問題に使えそうですね。連帯保証人として苦しい思いをすると、多くの人は、自分に同情します。「僕はなんて不幸なんだろう。まったく、とんでもない被害に遭ってしまったよ。こんな目に遭わなければ、僕はもっとまともな生活ができたのに・・・」と。 気持ちはわかります。よくわかります。が、そこで停滞していてはダメですね。 私はよく講演などで、「借金や倒産などの危機を乗り切るには、知識も大切だが、意識も大切だ。知識と意識の両輪が揃えばどんな難題でも解決できる!」 と力説しています。知識だけでは解決できません。上記の「自分を特別視するな」 「自分に同情するな」 といったような、ちょっとした意識改革も己に課さないとダメです。 方法論的には、連帯保証債務を解決する方法は、数え切れないほどあります。 基本的考え方は、「連帯保証人も債務者だ」ということです。 自分で借金した債務も、他人の保証人になった債務も、仕入代金や飲み屋のツケみたいな債務も、債務は債務です。 そして債務の解決の仕方は、どれも、似たりよったりなのです。 だから、まず第一に、連帯保証人さんは、それを「自分の債務だ」と自覚することから始めなければ解決しません。 「自分の債務だ」と自覚し始めればしめたもの。解決方法は飛躍的に広がってきます。 それは「借金の解決方法」が数え切れないほど沢山あるのと同じです。 それらの方法が、連帯保証債務にもほぼまるごと通用するのですから。 たとえば、契約どおりには返せないけど条件緩和して長期分割でなら返していけるので是非そうしたいと考えるなら、「リスケジュール(条件変更)」的な交渉でいいでしょう。 交渉の方法は、相手先が銀行か公庫か保証協会かサラ金か等によって大きく分かれます(詳細省略)が、できるかできないかと問われたら、「できます」とキッパリ言うことができます。 また、残元金がとてつもなく高額なので長期分割でも到底返せないという場合は、「個人再生」や「自己破産」など法的整理によってバッサリとした減額を試みるのもいいでしょう。(注:自己破産は懲罰制度ではありません。救済制度です。あらゆる手を尽くしてもどうにもならない場合は、自己破産すれば解決します。救済されます。) あるいは法手続きに頼らず、自分で銀行やサービサーと債務免除交渉をしてみるのもいいでしょう。 これらのうち、どの方法を選ぶのがベスト(ベター)かは、一概にいえません。それは専門家に相談してアドバイスを受けるべきです。 が、ひとつだけはっきり断言できるのは、とにかくどんなにややこしい問題でも、どんなに高額な連帯保証債務でも、どんなにヤバそうな相手でも、解決方法は数多く遺されているということと、本人が冷静になって選り好みをせず本気になってくれれば、100%解決できるということです。 と、前置きしたうえで、今回はちょっと裏ワザ的な事例を一つ紹介しましょう。 ★事例1:「合意解除」〜ダイコンやネギを値切るような交渉で、2000万の保証債務を20万に減額した主婦実際にご本人から聞いた話です。それもつい最近。伊集院久三郎さん(仮名)はここ10年ほど本業の収益が徐々に悪化し、今では生活するのが精一杯です。従業員はとっくの昔にリストラして、現在は奥さんの伊集院エリカさん(仮名)と二人で仕事を切り盛りしています。高校生の子供が2人います。 自宅は4年前に売却しました。事務所兼自宅は賃貸で借りています。 サラ金系の借金はありません。銀行の借金はかなりありましたが、自宅売却でほとんど返しました。 自宅のほかには資産はありません。ただ、バブル期に銀行から強く勧められて投資目的で買ったマンション(購入金額3000万)が数年前に競売になり、競落価格がたったの300万だったため、競売後に残った借金が2000万円残っています。これが唯一の借金です。主債務者は伊集院久三郎。連帯保証人は伊集院エリカ。 借金2000万。資産ゼロ。返済能力ほとんどなし。生活でやっと・・・。 この借金は民間の銀行から借りたものでしたが、銀行は競売が終わった後、半年もたたないうちに債権譲渡で処理してしまいました。あるとき、伊集院さん宅に、〇X債権回収(株)という会社から、「銀行から債権譲渡を受けました。つきましては、ただちに2000万円をお支払い下さい。お支払いに応じられない場合は法的手続きに出ます」と書かれた、いわゆる債権譲渡通知が内容証明で送られてきました。 これに対し、伊集院さん夫婦は既に本やネットや相談でたっぷり「知識」をたくわえており、同時に「意識」もしっかりしていましたので、冷静に対処することができました。どうやったかというと・・・、 <二人の基本姿勢> ・ご主人(主債務者)はご主人で、自分の債務として、自分でその対策を考える。 ・奥さん(連帯保証人)は奥さんで、自分の債務として、自分でその対策を考える。 ・二人は密に情報を共有し、それぞれ独立して考えながらも、共同戦線を張る。 先に行動を起こしたのは、奥さんでした。 奥さんは専業主婦です。昔から専業主婦なのに、銀行に「形式だけですから」と言われて連帯保証人になったのでした。まあ、なった奥さんにも責任はあるのですが、奥さんはそれをよく自覚しながらも、次のように上手に交渉しました。 エリカ 「単刀直入にいいます。夫の2000万円の借金の連帯保証人として、私のところにも2000万円の一括請求が内容証明で来ましたけど、これを免除してもらえませんか?」 債権回収 「無理です」 エリカ 「じゃあ何が何でも専業主婦の一文無しの私から2000万円をもぎ取ろうというのですか?初めから保証能力がないとわかっていて2000万円も保証させて。 2000万円なんて、水商売したって稼げないですよ」 債権回収 「そうじゃありません。どのような経緯で奥さんが連帯保証人に署名捺印されたかは私共の知るところではありませんので、あくまでも合法な範囲で額面どおりに請求せざるを得ないのですが、全額お支払い頂くかどうかは、 お話し合いに応じます」 エリカ 「っていうことはつまり、まけてくれるってことですか?」 債権回収 「まあ・・・、そういえなくもないですね」 エリカ 「だったらまけてください。私も一円も払えないとは言いません。去年、弁護士さんのところに相談に行ったら、私が2000万円の保証債務から逃れるには自己破産しかないと言われたことがあるんです。そのとき、破産の費用が最低20万円以上はかかるって言われて・・・、その話を実家の母にしたら、母が弁護士費用として20万円貸してくれたんです。その20万円が今も私の手元にあります。弁護士さんにそろそろ渡そうと思っていたんですけど、他に借金があるわけじゃないし、この20万円であなたが2000万円の保証債務を全て免除してくれるのなら、私は喜んでこの20万円をあなたに払います」 債権回収 「うーん、20万円ですか・・・。きついですねえ〜。せめて500万円くらい用意できませんか?500万払ってくれたら、少なくとも奥さんの連帯保証は外しますよ」 エリカ 「500万なんてできるわけないじゃない。だったらやっぱり破産するわよ」 債権回収 「あのね奥さん、これはご主人が借りた借金なんですよ。そう開き直られてもねえ・・・」 エリカ 「それは夫の問題でしょ?夫の問題は夫が考えます。私は私の問題だけ考えます。夫婦間でそう決めたんです。法律上もそう解釈されるんじゃない? それにね、ついでに言わせてもられば、この借金はあなたから借りたものじゃないわ。夫は銀行から借りたのよ。あなたは銀行からその債権を買い取ったのであって、夫はあなたの会社から借りたんじゃないのだから、借りたカネ、借りたカネって、お金の貸し借りについてあなたから説教される筋合いはないわ。請求権があるのはよくわかっているけど、それとこれとは別の問題よ。違う?ねえ」 債権回収 「・・・・・。 おっしゃることはよくわかりました。ではビジネスライクに交渉に入りましょう。もう一度お聞きしますが、もうちょっと、せめて100万くらいご用意頂くことはできませんか?うちも商売でやっているもので・・・」 エリカ 「嬉しいわ。サラリーマンとして厳しい立場に置かれているのに、私のことを考えて譲歩してくれて。でもごめんなさい。私は専業主婦なのよ。つい数日前まで自己破産しようとしていたのよ。私にできるのは、母が私のために用立ててくれた20万円を有効に使うことだけなの」 債権回収 「・・・。わかりました。じゃあ社内で稟議にあげてみます・・・」 エリカ 「おねがい」 数日後、奥さんの2000万円の連帯保証債務は、20万円だけ払うことで和解が成立し、全額免除してもらうことができました。 ちなみに、こういうふうに交渉で債権者側が連帯保証契約の解除に合意してくれることを、「合意解除」なんて呼ばれています。 何事にもいえることですが、額面どおりに、硬直的にとらえてはいけません。 債権回収会社(サービサー)の仕組みを知っていれば、たとえ2000万円の債権譲渡通知が来て一括で全額払えと請求されても、それがタテマエ(あいさつ代わり)であり、ホンネは減額交渉を前提に考えてくれているということが理解できると思います。(さすがに2000万円を20万円に値切るのよほどの不良債権としての条件が揃わないと難しいですが・・・) 債権者を必要以上に「敵視」する必要はありません。一取引先ぐらいに思ってみましょう。柔軟に柔軟に。 解決方法も、20万円の元手を使って弁護士さんのアドバイスに従って自己破産する(=法的整理)のもひとつの有効な手として間違いではなかったと思いますが、このように、法的整理ばかりが全てではありません。エリカさんのように、法律や契約云々だけにとらわれず、もっと広い視野で、柔軟に自然に合理的に、ちょうど主婦の奥様方が八百屋でダイコンやネギを値切るときと同様に、値引き交渉してみるという手も、時と場合によっては非常に有効な手段になりえるのです。 凝り固まった既成概念にとらわれなければ、解決方法はもっともっと広がります。 そういう意味では、頭がカチカチのお父さんよりも、頭の柔らかいお母さんや子供のほうが、問題処理能力があるかもしれませんね。 * ちなみに、奥さんの連帯保証債務が無事外れた数ヵ月後、主債務者であるご主人の2000万円の債務も無事整理できました。どうやって整理したかは、賢明な読者の皆さんならもうお分かりですよね。(ヒントは「サービサーと不良債権処理・超入門」の項参照。)
2007年のあるとき、主債務者の吉川さんが病気で倒れてしまい、事業(喫茶店)を継続することができなくなってしましました。吉川さんは廃業。身寄りもなく、ギリギリの経営のためお金の蓄えも残っておらず、処分して金になる財産もありません。 当然のことながら、銀行は債権回収のための行動に出ました。残債は1200万円。 まず最初に、銀行は通り一遍の催告書を吉川さんと鈴木さん宛てに出しました。吉川さんはもはや返済能力ゼロ。鈴木さんも中小企業に勤めるサラリーマンで扶養家族も多いため全く余力がありません。鈴木さんはそのことを正直に銀行に伝えました。 すると、その3ヵ月後に、銀行は1200万円の債権を、県の信用保証協会に「代位弁済」の請求をしました。保証協会は代位弁済に応じ、1200万円を銀行に支払いました。 これで銀行は、全額回収することができて終結しました。 その後、次は保証協会のほうから、吉川さんと鈴木さん宛てに代位弁済通知と催告書が送られてきました。「あなたの1200万円の借金を、保証協会が肩代わりしました。つきましては、肩代わりした1200万円を全額返してください。応じられない場合は、年14.6%の遅延損害金が加算されていきます」というような内容でした。 実は、これは当然の権利としての請求なのです。保証協会は我々の保証人代わりになってくれる機関です。そして保証人は、自分が肩代わりしてあげたお金を、借りた人に「返せ」と請求することが民法で認められています。これを「求償権」といいます。 保証協会は、当たり前の権利として、求償権を行使したにすぎません。 困ったのは鈴木さんです。主債務者の吉川さんは返済不能状態。財産もなし。となると、この場合、保証協会は鈴木さんから回収しようとします。ある日、鈴木さんは保証協会から呼び出されました。 さて、ここで問題です。鈴木さんは、どういう方法でこの難局を切り抜けられるのでしょうか? 鈴木さんは住宅ローンを残り2000万円ほど抱えています。マイホームは、売っても2000万円ほどの価値しかないので、売却してもこの1200万円の保証債務は返せません。 答えは、最低2通りあります。 ひとつは法律的かつ合理的なな解決方法。 もうひとつは、法律的ではない、合理的でもない解決方法です。 解決方法1(法律的). 裁判所で「個人再生手続き」(個人版の民事再生法)を申立てる。難しい法律手続きなので、弁護士さんに依頼する必要があります。費用はおそらく35万〜100万円位かかるでしょう。メリットは、住宅ローンは現状維持、家を完全に守れること。保証債務1200万円を、可処分所得の2年分相当額(きちんと計算してみないとわからないがおそらく200−400万程度)に激減させることができること。その激減した残債務を、3年かけて分割で返せばよいので負担が最小限で済むこと。反面、デメリットは、個人再生は全ての債務が対象になるので、自分名義のクレジットカードや自動車ローンなどにも影響をおよぼすこと。手続き後5年〜7年ほどは信用情報機関に事故情報が載るので、その間、新たにローンを組むことができなくなること。職場にも知られる可能性があること。 解決方法2(非法律的). 法律に頼らない。弁護士にも依頼しない。とにかく保証協会と話し合う。県の信用保証協会は公的な機関なので、役所的に、元金の免除にはそう簡単に応じないが、極悪サラ金業者などではないので、話し合いには気長にかつ柔軟に応じてくれる。 たとえば、経済的余裕がないから1200万円の残債を毎月1万円ずつ払うのがやっとですと言えば、その理由が納得いくものであれば、保証協会はそれに応じてくれる可能性が高い。(中には月3000円ずつで合意してもらった人もいます) そうやって、気長に、何年も何年もかけて小額ずつ払っていきながら、途中途中で軌道修正して、時代の変化に応じてもっと合理的な解決方法を模索してみるのも良い。この方法のメリットは、カードやローンなどにあまり影響がないこと。職場にもたぶん知られない。信用情報機関に事故情報が載る可能性が低いこと(銀行が代位弁済時に載せることもできるのだが、実際は驚くほど少ない)、とりあえず暫定的に毎月の返済負担を減らすことは比較的容易にできること。デメリットは、法律手続きとは違うので、不確定要素が多いこと。いつケリがつくのか、誰にもわからない。元金がなかなか減らないこと。完済するまで、遅延損害金がどんどん加算されていくこと。(まあこれは交渉の余地ありなので額面どおり神経質に受け止めなくても良いと思うが・・・) その他の方法 (1) 方法2のやり方で気長に払っていきながら、うまく主債務者の吉川さんが回復して稼げるようになったら、今まで立て替えた分を吉川さんに「求償権」請求する。 (2) ある程度まとまったお金 (例: 600万円)が何らかの方法で用意できそうなら、一か八か、そのお金をもとに、保証協会へ債務免除の交渉をしてみる。「自分は月1万円しか払う能力がありません。でも、今なら、ある方法で、600万円ほど調達することが可能です。そこでお願いですが、残債1200万円のうち、600万円払いますから、残りの600万円と遅延損害金を免除して終わりにしてくれませんか!?」 と。 これは法律的には何の根拠もない、まさにお店でカメラやダイコンを値切るのと同じ感覚の交渉だが、可能性はゼロではない。 いろいろな条件が合致すれば、保証協会も応じる可能性がある。実例は非常に少ないが・・・。 ・・・ このように、選択肢は豊富にあります。どれをとっても無傷では済みませんが、生きるとか死ぬとかの致命傷にはならないことは、賢明な読者の方ならお分かりいただけるでしょう。 どの方法を選ぶかは、あなたの自由です。 (2008年5月4日 書き下ろし) |
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