東京大学で、長年にわたって研究論文のデータ改ざんなどの不正が続いていた。科学研究の信頼性を根幹から揺るがす不祥事である。真相を明らかにし、早急に再発防止策を講じるべきだ[記事全文]
参院選で、原発の再稼働に前のめりな自民党が圧勝した。福島の原発事故は今も収束のめどがない。それなのに、なし崩しに再稼働が進むのかと心配する人も多いだろう。[記事全文]
東京大学で、長年にわたって研究論文のデータ改ざんなどの不正が続いていた。
科学研究の信頼性を根幹から揺るがす不祥事である。真相を明らかにし、早急に再発防止策を講じるべきだ。
東京大の調査委員会が、分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授のグループが発表した論文を、過去16年さかのぼって調べた結果、不正が分かった。
165本の論文のうち43本に、実験結果を示す画像などの改ざんや捏造(ねつぞう)、その疑いのあるものが見つかり、論文撤回が妥当と判断された。
多くの研究者がかかわった共同研究で、なぜ不正が繰り返され、見逃されてきたのか。解明が求められる。
近年、日本の研究者による論文の不正が相次いでいる。つい先日も、京都府立医大などで実施された高血圧治療薬の臨床研究で、論文データの改ざんが発覚したばかりだ。
こうした不正は、治療や後続の研究を誤らせかねない。研究によっては多額の税金が投入されている。社会全体に対する背信として、厳しく対処しなければならない。
背景には、不正を犯す誘惑が強まっているなか、それを防ぐ仕組みが伴っていないという事情がある。
例えば、若手研究者はまず期限のある研究職に就き、任期中にあげた業績によって次の職場を探すことが一般的だ。
一流誌に論文を発表することは、安定した職と多額の研究費を得ることにつながる。
成果を求める教授や研究リーダーのプレッシャーも大きい。
一方、論文は通常、身内の研究グループ内部と学術誌側でチェックされるだけだ。「研究者は不正はしない」という前提から、日本は欧米と違って研究倫理に関する教育も貧弱だ。
こうした性善説ではもはや立ち行かないことは明らかだ。
米国では90年代に政府に研究公正局をつくり、不正行為を調査、公表している。日本でもこうした機関の設置や、不正を告発できる仕組みの導入を検討すべきではないか。
不正にかかわった本人だけでなく、研究の中核となった教授や所属研究機関の責任も厳しく問わねばなるまい。
とりわけ医療研究における不正行為は、被験者や患者の生命を脅かしかねない。不正をした医師の免許停止など、より厳しい制裁も考えるべきだ。
文部科学省が中心になり、再発防止に本気で取り組まねばならない。
参院選で、原発の再稼働に前のめりな自民党が圧勝した。
福島の原発事故は今も収束のめどがない。それなのに、なし崩しに再稼働が進むのかと心配する人も多いだろう。
だが自民党公約には、こんな一文がある。「原発の安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます」。自ら一定の歯止めをかけている。
問題は、本当に規制委に委ねることができるか否かだ。
規制委が「原子炉建屋直下に活断層がある」と判断した福井県の敦賀原発2号機では、事業者の日本原電が「科学的な判断になっていない」と、独自調査を基に再考を求めている。
気になるのは、原発に依存する立地自治体や、脱原発を批判する一部メディア、国会議員らがスクラムを組んだように、規制委に「非科学的」「公正でない」などとレッテルを貼って批判を強めていることだ。
福島での大事故を受けて、原発の規制をどう考えるべきなのか。いま一度、原理原則をはっきりさせておく必要がある。
肝心なのは、「疑わしきはクロ」の基本姿勢だ。
活断層にはわからないことが多い。専門家の意見が完全一致しない事例があっても、科学として何も不自然ではない。
もともと、原発が急増した80年代まで一部の活断層しか知られていなかった。研究が進んで危険評価が変わり、3年前、活断層の真上に重要施設を作ってはいけないと明文化された。
この間にも、事業者が「活断層でない」と主張してきたものが、実は活断層であることがわかってきた。その一つが、敦賀原発の浦底断層である。
90年代から存在を指摘されたが、日本原電は否定を続け、08年にようやく認めた。そして今回、規制委は、原子炉建屋直下の断層が浦底断層と連動すると判断した。現在入手できる科学的知見を基に、「疑わしきはクロ」の原則に立ったのだ。
規制委は、「想定外」を防げなかった福島の教訓からできた。信頼性を高めるため、安全性を判断する専門家を関係学会の推薦に基づいて選び、審議の過程も公開している。
それでも事業者は、自らの主張を裏付ける専門家の存在をたてに、規制委判断に異議を唱える。とにかく再稼働と言わんばかりの、安全側に立たない姿勢が何をもたらすか。
「ワッハッハこれで減らせる活断層」(参院選後の朝日川柳)。まさかとは思うが、そんな非科学的なことがまかり通ることがあってはならない。