経済の死角

シャープもパナソニックも!「裏切りの工場撤退」で補助金が泡と消えた

2012年05月12日(土) フライデー
週刊現代
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 雇用を期待して数億~数十億円ものカネを支払った自治体。だが、閉鎖や稼働停止が相次ぎ、現在、補助金返還を巡るトラブルが続出している

シャープの亀山工場

 三重県亀山市。人口約5万人、古くは東海道五十三次の宿場町として栄えた。この地にシャープの液晶パネル工場が完成したのは'04年だった。2年後には第2工場も稼働し、ここで作られる液晶パネルは「世界の亀山ブランド」として人気を博し、シャープのテレビ事業を不動のものとした。そして亀山市も税収増となり、一時は、国から地方交付税を受けない「不交付団体」に昇格するまでになった。

「当時の北川正恭知事が中心になって、三重県が約90億円、亀山市が45億円の補助金を出して誘致したのが亀山工場でした。この成功で、全国の自治体の誘致熱は高まり、結果、補助金の金額も高騰しました」(全国紙経済部デスク)

 が、'09年に亀山工場の一部ラインは中国企業に売却され、もう「世界の亀山ブランド」のテレビパネルは製造されていない。亀山市も「交付団体」に戻っている。

 亀山工場に向かう。JR亀山駅から車で約15分、山林を切り開いた工場地帯を走るとすぐに、銀色の工場群と赤い「SHARP」の文字が目に飛び込んでくる。敷地約33万m2。昨年5月時点で関連会社、協力会社の従業員7100人が働いていたというが、出入りする人は少なく活気が感じられない。道路を隔てたマンションには「入居者募集中」の大きな看板。住民に声をかけると「かなり部屋が空いている」という。駅前商店街のスーパーはガラス戸が閉まっている。隣の食堂にも人影はない。市内に1軒だけあった鮨屋も店を閉めたという。

 県と市で合計135億円ものカネをぶち込んだ誘致プロジェクトは約6年で息切れし、それとともに町も寂れたのだ。そして、シャープには三重県から約6億4000万円の返還請求がなされた---。

 今、こうした補助金返還請求というトラブルが全国の自治体で起きている。帝京大学経済学部の黒崎誠教授が言う。

「テレビ事業を柱にしてきたシャープ、パナソニック、ソニーの3社だけで、'12年3月期決算の赤字額は、約1兆3000億円に迫る。各社、テレビ事業の縮小を決断し、国内工場の閉鎖は進んでいる。しかし、自治体はこれまで企業を誘致するために、土地を安く払い下げ、公共料金を安くし、周辺道路などのインフラを整備し、その上で住民の税金から補助金まで交付して迎え入れてきた。これほどまでに優遇されていながら、経済環境が悪くなったからといって、わずか数年で撤退するというのは、地元を騙したとしか言いようがありませんね」

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