【大岩ゆり】放射線医学総合研究所(放医研)が一般向けの「放射線被ばくの早見図」を十分な説明なしに改訂している。100ミリシーベルト以下の被曝(ひばく)では「がんの過剰発生がみられない」との記述を、100ミリ超で「リスクが増える」に変えた。食品や宇宙線による日本人の自然放射線量も周知せずに1・4倍に引き上げたことで、公的文書などで複数の自然放射線量が使われ、混乱している。
放医研は、放射線の健康影響の研究などを担う国の中核的な研究所。東京電力福島第一原発事故の直後、事故由来の被曝と他の被曝を比較できるよう、サイトに早見図を掲載した。
その早見図で、100ミリシーベルト以下の健康影響の記述を消し、100ミリ超で「がん死亡のリスクが線量とともに徐々に増える」に書き換えた。放医研は取材に「『(100ミリ以下で)がんが過剰発生しないと科学的に証明されている』と誤解する人もおり、表現を改めた」と説明した。改訂は昨春だが、変更の履歴も理由も書かれておらず、ツイッターなどで最近、「(こっそり変更は)ひどい。多くの人にしらせないといけない」「(100ミリ以下でがんが出た時の)責任逃れの証拠隠滅?」と話題になった。
自然放射線量についても今年5月末、1・5ミリシーベルトから2・1ミリに引き上げた。「根拠とする報告書が改訂されたため」という。この報告書は、電力会社幹部らが役員を務める原子力安全研究協会が2011年12月に出した。国内外の論文を検証して、主に魚の内臓などに含まれるポロニウムによる内部被曝の線量を上方修正したという。原発事故の影響は考慮されていない。
しかし、放医研の修正が周知されていないこともあり、文部科学省の小中高校生向け「放射線副読本」や政府のサイトなどは放医研の旧来の早見図などが引用されたままだ。副読本には別の研究機関が出した「2・2ミリ」という第3の数字も紹介されている。
自然放射線と医療被曝を除いた一般住民の平常時の被曝限度は年1ミリシーベルト。細井義夫・東北大教授(放射線医学)は「0・6ミリは大きな変化。原発事故以来、国民が被曝に大きな関心を持っているのに、複数の自然放射線量が混在するのは良くない。どこが責任を持って自然放射線量を調べるのかはっきりしないのも問題だ。放医研なり公的機関が日本人の平均的な自然被曝線量を責任をもって調べ、わかりやすく示すべきだ」と話す。