戦後補償問題をめぐり、日韓関係を揺るがしかねない判決が韓国で出た。戦時中に朝鮮半島から動員された元徴用工4人の訴えについて、ソウル高裁が個人の請求権を認めた。被告の新日[記事全文]
柔道そのものが崖っぷちまで追い込まれた。そのくらいの危機感を持つべきだろう。不祥事つづきの全日本柔道連盟が、ついに国から公益法人としてダメだしを食らった。[記事全文]
戦後補償問題をめぐり、日韓関係を揺るがしかねない判決が韓国で出た。
戦時中に朝鮮半島から動員された元徴用工4人の訴えについて、ソウル高裁が個人の請求権を認めた。被告の新日鉄住金に1人あたり1億ウォン(約900万円)の支払いを命じた。
韓国の裁判所が戦後補償問題で日本企業に賠償を命じたのは初めてだ。これまでの韓国政府の見解からも逸脱する判断であり、歴史問題がいっそう複雑になりかねない。
個人の請求権が認められるかどうかについては様々な解釈が存在しているが、日本政府は、1965年の日韓請求権協定により「完全かつ最終的に解決された」と主張している。
韓国政府は、従軍慰安婦、サハリン抑留、原爆被爆の三つについては協定の対象外と訴えてきたが、徴用工については、協定に沿った日本からの無償経済協力で解決済みとしてきた。
盧武鉉(ノムヒョン)政権下では、韓国政府が被徴用者の救済を怠ったと認め、慰労金や医療支援金の支給を始めた。李明博(イミョンバク)政権も基本的に同様の見解を踏襲した。
だが今回の判決は、そうした経緯は踏まえておらず、納得するのはむずかしい。
新日鉄住金は上告する方針だが、そもそも韓国の大法院(最高裁)が昨年春、個人の請求権を認めたうえで審理を高裁に差し戻したことが発端になったため、判断が覆る可能性は小さいとみられている。
今月末には、三菱重工業を相手取った別の判決も出る。大法院の判決後、日本企業への集団訴訟も相次いで起こされた。
このままでは日本企業の韓国内の資産差し押さえ命令といった事態にもなりかねない。そうなれば韓国政府の信用問題になるだけでなく、両国関係に計り知れない打撃となろう。
そんな事態を避けるためにも、韓国の朴槿恵(パククネ)政権は元徴用工らに向きあい、受け入れられる解決策を探るべきだ。日本政府も知恵を絞らねばなるまい。両政府は冷え込んだ関係を脱し、対話を急ぐ必要がある。
韓国の関係者の間では、被害者支援のための基金を日韓でつくろうとの声が出ている。案としては、日本からの経済協力で発展した韓国企業ポスコ(旧浦項総合製鉄)が出資した財団を土台にする構想もある。
いま必要なのは、長い目で見た関係を損ねない柔軟な対応を紡ぎ出す双方の努力だ。両政府は、韓国の司法判断を待つのではなく、混乱を未然に防ぐ行動を早急に始めねばならない。
柔道そのものが崖っぷちまで追い込まれた。そのくらいの危機感を持つべきだろう。
不祥事つづきの全日本柔道連盟が、ついに国から公益法人としてダメだしを食らった。
調査にあたった内閣府が8月末を実施期限に示した勧告の中身は、極めて厳しいものだ。
抜本的な出直しへ人事の刷新を求めたほか、問題のある助成金6055万円を速やかに返還し、その損害について理事ら個人の責任を明確にして賠償請求を検討することも求めた。
2008年に現在の法人制度へ移行してから、公益認定法による勧告は初めてという不名誉である。スポーツ界全体で事態の深刻さを認識すべきだ。
全柔連は、暴力的指導や助成金の不正受給、理事によるわいせつ行為が明るみに出るたびに責任をあいまいにしてきた。内部告発などがあっても、問題を繰り返し放置してきたと内閣府は認定している。
全国を束ねるスポーツ団体として健全な組織の体をなしていない。執行部、理事会、監事、評議員会のすべてが機能せず、責任と役割を果たしていない、と断じている。
上村春樹会長ら執行部は「改革改善のめどが立てば辞める」と10月まではとどまる考えを示しているが、もはや待ったなしだ。8月末までに具体的な改革計画を示して進めなければ、勧告は命令に変わり、追い込まれるばかりである。
上村会長は「柔道を守るためにやっている」と話すが、説得力を欠く。このまま改革が遅れるのでは、公益法人の認定取り消しという最悪の事態にもなりかねない。
そうなれば、将来の普及、強化にも大きな支障がでる。伝統あるお家芸も五輪のメダル争いどころではなくなる。
勧告の実施期限まで約1カ月しかない。現実的には現執行部で改革への道筋をつくり、すぐに着手する。同時に新執行部選びを進め、速やかにバトンタッチする必要がある。
全柔連にそれだけの人材がいないというなら、外から人を迎えて推し進めるべきだ。
勧告を示した内閣府の公益認定等委員会は「自浄能力を見せて、信頼回復に努めてほしい」と突きつけた。
普段はスポーツ界の方が掲げる自主性や独立性の尊重を、国の側から持ち出したのは何とも皮肉だが、それほどに全柔連が危機的な状況にあるということだろう。
柔らの道を進む若者たちのために、決断するほかない。