富山殺人放火事件:「供述信用できず」 元警部補を不起訴
毎日新聞 2013年07月24日 19時43分(最終更新 07月25日 00時05分)
2010年4月、富山市の会社役員夫婦が殺害され、自宅に放火された事件で、殺人や現住建造物等放火などの疑いで逮捕後、処分保留となっていた加野猛(かの・たけし)・元富山県警警部補(54)=地方公務員法違反罪で公判中=について、富山地検は24日、「供述は信用できず、(容疑を裏付ける)証拠もない」として不起訴処分(容疑不十分)としたことを発表した。現職警官の「自供」でスタートした事件は一から捜査のやり直しを迫られる、異例の事態になった。
加野被告自らがマスコミに「犯行声明文」を出したとされることが端緒で逮捕された事件のため、遺族は「到底、納得できない」として今月中にも富山検察審査会に不服申し立てを行う見通し。今後は審査会の判断に注目が集まりそうだ。
富山地検の井上一朗・次席検事は同日午後2時から記者会見。加野被告は逮捕当初、容疑を認めていたが、5月22日の処分保留後、「自分がやったかどうか分からない」と供述を変えていたことを明らかにした。
不起訴の理由として、▽供述に基づいた殺害方法では、犯行状況を再現できなかった▽犯行前後に「通った」と供述した場所にもかかわらず、本人が防犯カメラに映っていない▽動機は不自然なものばかりで、なぜ、犯行に及んだのか合理的な説明が全くできない−−などを具体的にあげ、加野被告の供述が信用できないとの結論に達したとしている。
また、「犯行声明文」を書き込んだとされる記録メディア「CD−R(書き込み可能なコンパクトディスク)」についても、「自分のパソコンで作成した」とする加野被告の供述内容と、CD−Rの最終更新時刻がかけ離れていた上、作成のためのワープロソフトのバージョンにも食い違いがあったという。
一方、処分保留時には、公表しなかった加野被告の精神鑑定の結果について、「刑事責任能力には特段の問題はなかった」として、今回の不起訴処分とは直接、関係がないことも明らかにした。
井上次席検事は、「加野被告に対しては(捜査を)尽くしたと考えている」と述べ、今後については「遺族のため引き続き真相解明に取り組んでいきたい」と語るにとどめた。
加野元警部補は25日、捜査情報を漏らしたとされる地方公務員法(守秘義務)違反罪の判決が富山地裁である。求刑は懲役1年で、執行猶予付き判決が言い渡されれば、釈放される。【成田有佳、大原一城】