水木しげるの漫画『総員玉砕せよ!』レビュー 慰安婦問題を見る視点

総員玉砕せよ! (講談社文庫)
久しぶりにシュフ関連以外の話題のことでも書こうかなと。

今回はある漫画を紹介します。

水木しげる氏の『総員玉砕せよ!』。

この作品は氏の体験に基づいた話になっているということです。
本のあとがきにも本人が書いた文として、以下のようにあります。

 ”この「総員玉砕せよ!」という物語は、九十パーセントは事実です”

(具体的には物語の最後の描写が事実と違うのでこういった表現になっています)

この本を紹介しようと思ったきっかけは、以下の記事でした。

慰安所行った、でも話せない 元兵士「妻や子にも迷惑」 朝日新聞デジタル

橋下市長の発言でちょっと前に一気に話題となった慰安婦の問題ですが、内容が内容なだけに、世論でもかなりタブー扱いされており、語られにくい話となっています。

かくいう僕も、この話はほとんどブログでもツイッターでも取り上げていません。この話で自分の立場を主張するには、相当な理論武装が必要だし、またその表現方法にも、ものすごく気を使わないといけないと思うからです。

是非を主張するには浅学すぎるのでここではそれには触れませんが、今回は上の記事であった「元兵士」の言葉が気になりました。

「戦場を見てきたかのように軽々しく言ってほしくない」

戦場を見たことのない人が戦争を語ること自体は別に悪いことではないとは思いますが、確かに当時のことを語るには説得力に欠ける部分はあります。

なら、実際に戦場を見てきた人は、”当時”はどう感じていたのか・・・?

そんな様子が垣間見れるのが、この漫画『総員玉砕せよ!』です。

慰安婦に関する正当性はひとまず置いておいて、当時の人たちの価値観に目を向けるとまた別の角度から問題が見れるんじゃないかな、ということで作品の冒頭部分を引用します。

P.12
2013年06月22日15時20分09秒(ドラッグされました) 4主人公は丸メガネの男。「ピー屋」というのは、慰安所のことです。

p.13
2013年06月22日15時20分09秒(ドラッグされました) 3上官からピー屋に行けと指示される兵士。ちなみに兵士がビンタされるシーンは、ここ以外にも全編を通して何度も出てきます。

p.14
2013年06月22日15時20分09秒(ドラッグされました) 2サービスを急かす兵士達。

p.15
2013年06月22日15時20分09秒(ドラッグされました) 1
p.16
2013年06月22日15時20分09秒(ドラッグされました) のコピー女郎の歌に合わせて一緒に歌う兵士達。

この後は歌の描写が続きます。
歌詞は以下。

「私はくるわに散る花よ
ひるは しおれー 夜にさく

いやなお客もきらはれず
鬼の主人のきげんとり

私はなんでこのような
つらいつとめをせにゃならぬ

これもぜひない 親のため」

p.19
2013年06月22日15時20分09秒(ドラッグされました)慰安婦の描写はここで終わりです。

いかがでしたでしょうか?
僕は初めて読んだ時、会話のやり取りにすごく違和感を覚えました。

ピー屋にいけ!とビンタして強要する上官。
あっけらかんとして慰安婦にジョークを飛ばす兵士達。
歌を歌いだす慰安婦達。

男もいつ死ぬかわからない極限な状態。
女も何十人もの相手をしないといけない悲惨な状態。

でも、なんだろう、この”かわいた”感じ。
男女ともに、あまりにも軽く扱われている「性」の感覚。

漫画という媒体はデフォルメされているので事実から離れる部分はありますが読まれやすいという大きなメリットがあり、また会話の様子や情景を想像しやすいので、こちらを紹介・引用させて頂きました。

——

そしてちょっと慰安婦自体の話からは逸れますが、この後の展開がすごい。

本当に、ゴミのように男達が死んでいく。

ワニに食べられて下半身だけになる者。
魚を手榴弾で取りにいって、魚をのどに詰まらせて死ぬ者。
敵に打たれて瀕死になりつつも、まだ生きているのに
”遺骨を作るため”にシャベルで小指を切り落とされる者。
恐怖で気がふれる者。

壮絶過ぎる。

なぜ男達だけが、「男」という理由だけで戦場に送り出されないといけないのでしょうか。

たまに

「戦争は男が始めてるんだから仕方ない」

とかいう人がいますが、そんなことはない。一部の人達だけです。

一部の男が好きで戦争始めたから、戦争は男の総意というのならば、
一部の女が好きで慰安婦を志願したなら、慰安婦は女の総意ということになります。
やりたい人だっているし、やりたくない人だっている。

最後なんか本当に悲惨。
「玉砕する」といってできなかった兵士達が、

「体裁が悪い、ほかの兵士の士気が落ちるから」

とかいう理由で再度玉砕を命じられます。

人間、そんな理由で死ねるかよ!!

そして主人公を含む残った兵士達は、最後あの慰安婦達が歌っていた

わたしはなんでこのような つらいつとめをせにゃならぬ

という「女郎の歌」を歌いながら、玉砕し、死んでいく。この描写もとても印象的でした(事実ではここでは実際は生き残ったということですが、こういう描写に作者の思いが表れているのではないかと思いました)。

ここに出てくる兵士達は、職業軍人なんかはほとんどいなくて、日本では普通に暮らしていた一般人達。
読んでいて、本当にかわいそうでした・・・・・・

僕なんか、もう絶対戦争なんかいきたくないですね。

この漫画では兵士がことあるごとに、挨拶のごとくビンタされてるんですが、今だったら完全にパワハラですよ、パワハラ。

僕が兵士だったら、上官からビンタされたらパワハラで訴えます。

意味わからない命令とかも、絶対従いたくないですね。普通に人権侵害ですから。
兵士にだって人権はあるはずですよね。

「戦争時という特殊な状況下で、お前はなに寝言を言ってるんだ」

というのならば、
慰安婦の問題も同様にそういう視点が必要なのかもしれません。

今の価値観で当時を見るだけでは、問題の解決にはならない気がします。

総員玉砕せよ! (講談社文庫)
数々の賞を受賞し、テレビドラマにもなったこの作品。興味ある方は、ぜひ全編読んでみてほしいです。

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