拡 散 霧 箱 に よ る 放 射 線 飛 跡 の 観 察
(エチレングリコール型高温拡散霧箱)
 4.4 γ線と飛跡
   (1) 実験準備
   
(2) 実験手順IV
   
(3) 説 明

4.4 γ線と飛跡

(1) 実験準備
 
1) 霧箱の線源挿入口には、めくら用ゴム栓をしておく。
 
2) 60Co137Csなどのγ線源(両線源ともに、線源購入当時約370,000Bq, 約10μCiほか。サーベイ・メーターなどで用いるチェキング・ソースで差し支えない。)を準備する。
 
3) 電荷を持った放射線の場合は、それぞれ固有の飛跡を観察することができた。γ線の場合は霧箱の中がどのようになるのか、関連する他の講義から得られた知見などを総動員して、次の中から実験結果を予測する。
   (a) α線と類似した飛跡を生じる。
   (b) β線と類似した飛跡を生じる。
   (c) γ線固有の特別な飛跡を生じる。
   (d) γ線は直接電離放射線ではないので、飛跡らしいものはなんら生じない。

(2) 実験手順IV
 
1) めくら用のゴム栓をした状態で、円筒部外側からγ線源を近づけ、霧箱内部を観察する。
 
2) 前(1)の3)で予測した結果と比較して、もし、ちがっていたらその理由につて考察する。
 
3) 説明を受けたのち、再度実験を行い、説明の内容を確認する。

(3) 説 明
 霧箱の中の様子を、
写真4.4.1に示す。β線の場合と酷似した細く、かつ、散乱された糸くずのような飛跡が観察される。
 γ線は、周知のように、電磁波の一種である。直接の電離作用はない。この点から考えると、霧箱の中にはなにもみえない、あるいは、なにも起こらないはずである。
 しかし、β線のような飛跡を観察することができた。にわかには信じがたいというのであれば、γ線源を霧箱円筒部に近づけたり遠ざけたりを繰り返してみるとよい。確かに、γ線源を遠ざけた場合にはβ線のような飛跡は観察できないので、γ線源が影響していることは事実である。円筒部外側から線源を霧箱に当てているので、使用した核種のγ線に付随するβ線は線源を包んでいる材料や円筒のガラス壁等で遮へいされているはずである。
 γ線の場合の模式図を、
図4.4.1に示す。γ線は直接の電離作用はないので、波線で示したγ線の軌跡そのものは観察されない。しかし、物質にあたると、2次電子を放出させる作用がある。2次電子は、名前こそ異なっているが、正体は原子や分子から散乱されて放出された電子であり、β線の電子と同じである。発生過程のちがいから、名称が使い分けられているだけのことである。


 2次電子の発生量は一般に物質の密度と密接な関係があるので、蒸気が存在する霧箱内部空間よりは、円筒部ガラス壁の方が発生しやすい。内部空間からも、頻度は低いが発生する。
 したがって、あたかもガラス壁内面がβ線源でコーティングされたかのように、多くの飛跡がガラス壁から発生するのがみられる。
 しかし、4.3で観察したβ線源とは、細かいところで若干異なっている部分がある。2次電子を生じるのは、ガラス壁内面の表面部分とは限らない。ガラス壁深部を含め、ガラス壁の厚さ全体から生じる。表面近傍から発生した2次電子は円筒内部空間に到達するまでに、ガラス中を通過し大なり小なりそのエネルギーを失う。そのため、2次電子の飛跡は概してエネルギーの低いβ線の場合に酷似し、相対的に短く、かつ、たびたび散乱されちりちりに曲げられていることが多い。
 本節(1)の3)では、γ線の直接の飛跡がどうかを聞いているのではなく、霧箱の中の様子はどうなるかを聞いている。したがって、正解は(b)である。4.2および4.3節と異なり、本説の見出しが『γ線と飛跡』となっている理由がここにある。