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第十二話「魔法具」
「やっぱりこの町にこれだけ大きな屋敷が並んでいると違和感があるな」

ぼそぼそと馬車の中で呟くリヒード。

かつては領主の屋敷以外はそこまで大きい家は無く、小さな家が所狭しと並んでいた町だったことをリヒードは思いだす。

馬車は今、王都の上級区を走っている。

そこには、大きな屋敷が立ち並び、皆自分の住む家で競い合っているように見えるほどだ。

「何か言った?」

ミケーネがリヒードのよく聞こえない呟きを聞くとそちらを向いて問う。

「いや、なんでもない、気にするな」

「そう、分かったわ」

普通の会話であったが、侍女は違和感に気づき主を見る。

「どうしたの? アリュ」

その視線に気づいたミケーネは首を傾げる。

「いえ、仲がよろしそうなので」

「な、何を言っているのかしら?」

「うむうむ。これから級友になるのだから、いつまでも敬語では決まりが悪いからな」

アリュの言葉に顔を赤くしてとぼけるミケーネに、然もありなんと頷くリヒード。

「ところでリヒード様。入学できることを前提に話をしていますが、本当に大丈夫なのですか?」

面白い主の反応を見ながらアリュは気づいたことを口にする。

「む。万全だ! 昔の伝手がいろいろ残っていたからな! 断りづらいだろうところから何通か推薦状を貰ったぞ!」

胸を張ってやばい主張をするリヒード。

半ば脅してでも入ろうとする気満々である。

「とりあえず明日、誰かしらいると思うので、学校のほうに行ってみるわ。ダメだったとしても駄々をこねてはダメよ?」

「おい見た目こんなでも年上だからな! あとダメだったら盛大に駄々をこねる所存である!」

ミケーネがまるで姉のように注意し、その注意を聞いたリヒードはダメすぎる宣言を高らかにする。

「ダメなら私が引きずってでも連れて帰りましょう。学校に入学できないことも想定して、旦那様からは住み込みでお嬢様の魔法の教師として雇うということも言われておりますので。生活については問題ないでしょう」

アリュもミケーネもリヒードの伝手というのに半信半疑で、入学できないことも考えている。

本人はほぼ十割入学できるモノだと信じて疑っていないが。

「むぅ。まぁよい。明日早々に行こうではないか!」

二人の反応に不満そうにするが、実際この時間の経過した世界で自分の伝手がどこまで役立つのか分からないことに思い至ったリヒードは特に反論することはなかった。

そうして、明日のことをあれやこれやと言い合う三人を乗せた馬車は豪奢な造りの屋敷の前で止まるのだった。



「これもまた大きいな」

ミカルーネ家の本宅には遠く及ばないものの、なかなかに立派な屋敷を目の前にリヒードが感嘆の声を上げる。

大きさで言えば、リトリスの屋敷よりも小さいが、造りが豪華であるのが素人目にもはっきりと分かるほどだ。

「庭の管理はハイフが。屋敷は私が管理してますので」

「いくら実家より小さいとはいえ、一人で管理するのは大変だから人を雇うと言っているのに」

アリュの説明にミケーネが不満を漏らす。

この別宅は元兄たちと兄が王都の学校に行くときのためということで買ったのだが、結果使っているのはミケーネのみだ。

「いえ、人数が増えてしまうと私が暇になってしまいます」

一人で管理するのは大変ではあるが、人数が増えてもハイフがあまり上手くやっていけないだろうと思い、アリュはその手の話をやんわりと断り続けている。

アリュ自身体力もあり機敏に動き、ハイフもよく屋敷内のことを手伝うので、特に問題なく管理できている。

「はぁ、この話はまた今度にするわ。それより中に入りましょう。さすがに疲れたわ」

「はい、それではリヒード様は客室に案内しますので」

そうして馬の世話をしているハイフを除く三人は屋敷へと足を踏み入れた。




屋敷の中の豪華さにリヒードが声を上げ、部屋の豪華さにまた声を上げる。

そうして一通り感嘆の声を上げ終えると、先程案内された食堂へと顔を出す。

そこでは侍女服姿のアリュが夕飯の準備をしている。

「そろそろ食事の準備が整いますので、待っていてください」

テーブルの上に食器を並べていたアリュが振り返りリヒードに言う。

「何か手伝おうと思ってな」

「お客様にそのようなことさせては怒られてしまいます」

リヒードの提案にアリュは微笑んで返す。

「ふぅむ。ではアリュの働く姿でも見ているか」

そう言って席につくとアリュがテキパキと準備する姿を目で追うリヒード。

「そう見られると少し恥ずかしいですね」

アリュが顔をほんのり染めてリヒードに言う。

「ふはは、手伝わせれば見られることもないぞ! ところで二人も一緒に食べるのだな」

食器の数を見てリヒードが疑問を口にする。

リヒードはミカルーネ家では使用人は一緒に食事を囲んでいなかったことを思いだす。

「はい。本当ならダメなのでしょうが、お嬢様がどうしても一人の食事は嫌だとおっしゃいまして」

お嬢様にだだ甘のアリュは結局それを受け入れ、この家では三人一緒に食事をしていたのだ。

リヒードも増えて、合計で四人分の食事を用意するアリュはどこか嬉しそうである。

聞こえてくる鼻歌に適当に合いの手を入れながら、リヒードはミケーネから借りた魔法の教科書を読んでいる。

そうして準備も整ってくると、ハイフ、ミケーネの順で食堂に入ってくる。

全員が席に着くころには準備も終わり、食事が始まった。



食卓の話題は主にリトリスの家での話であった。

ミケーネが話をし、リヒードが補足し、アリュがリトリスの親の商売の話をし、ハイフが頷く。

「リトリス様のご実家はアーバン商会という、一般市民でも使える魔法具を扱う商会のようですね」

「魔法具とな!?」

アリュの話に食いつくリヒード、目をきらきらさせている。

「はい。昔は高級品でしたが、最近では一般の人でも買い求められる値段になってきたとか。その立役者でもあるのがアーバン商会であり、リトリス様のご両親だそうです」

「ほうほう。してその魔法具というのはどんなことができるのだ!?」

リトリスの親より、魔法具に興味津々なリヒード。

「簡単な魔法が使えるのですよ。魔法使いたちが使うようにはいきませんが。火を調整できる魔法具は私も重宝しています」

「ほほう! あとで是非見せてくれ! 解体させてくれ! 複製させてくれ!!」

アリュの説明に興奮したリヒードがずずいと顔を近づける。

「わ、分かりましたから落ち着いてください!」

「うむ、約束だぞ」

アリュの了承を取ると、リヒードはそれまでの興奮具合が嘘のように席に座りなおす。

「はぁ。壊さないように注意してね、あれが無くなるとアリュのご飯が食べれなくなるわよ」

「飯は大切だぞ」

ミケーネが呆れたようにリヒードに釘を刺し、ご飯の一大事ということでハイフが珍しく口を開く。

「善処しよう!」

リヒードが信用できない宣言をする。

その宣言にミケーネ、アリュ、ハイフがそれぞれ突っ込む。

こうして賑やかな食卓は続いた。


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