余録:投稿用のヌード写真を撮影する恋人たち。狭い賃貸…
投稿用のヌード写真を撮影する恋人たち。狭い賃貸アパートで親や子供たちと一緒に暮らし、息が抜けない夫婦。清掃という単調な労働に励む従業員。北海道東部にあるラブホテルを舞台に人間模様が描かれる。直木賞受賞が決まった桜木紫乃(さくらぎ・しの)さんの連作短編集「ホテルローヤル」(集英社)だ▲性を通して描かれた男女の姿から、北の土地で懸命に生きる人々の息遣いや体温が伝わってくる。作者の視点が低いのも魅力だ。近くに湿原が広がり、空にはタンチョウヅルが舞う風土が物語を彩る▲冒頭でこのホテルがいずれ廃虚になることが明かされることもあって、全編にもの悲しい雰囲気が漂う。あまりうまくいかない登場人物たちの人生が、抱きしめたくなるほどにいとおしい。生活に重みがあって、切なく迫ってくるのだ▲「地方は東京と同じ速度では成長していない」とは桜木さんの言葉だ。北海道の漁業が衰退していることを憂い、バブル経済期にも恩恵を受けたとは思えないとも語る。それでは、アベノミクスはどうなんだろう?▲あえて断っておくと、受賞作は深みがあるのに、読みやすくて面白い一冊だ。人間同士が触れ合う機微が楽しめて、これこそエンターテインメント小説だとも思う。ただ、ふと考えてしまうのだ。中央と地方。東京と北海道。東京と沖縄。そこに厳然と存在する格差▲自民党の圧勝で参院選は終わった。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)はどうなるのか。原発は再稼働するのか。米軍基地をどうするのか。政治とは、日本列島の北でも南でも必死に生きる人々の生活の重みに応えるべきものだ。 続きを読む