若手社員とともにロケットの開発を続ける加藤精密工業の加藤義春さん(中)=名古屋市緑区で
|
|
全長三・五メートル、黄緑色のボディーが目を引く。名古屋市内で六月に開催された「国際宇宙展示会」で、従業員三十人という地元の町工場が挑む小型ロケットとエンジンの模型に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員が足を止めた。
応対した加藤精密工業の社長、加藤義春さん(53)=名古屋市南区=の傍らには、青い作業服に茶髪の若者たち。JAXA職員から質問を受け、緊張した面持ちで説明していた。
木工用機械製作の工場を営む両親の元で育った。手伝いといえば、部品を洗ったり、材料を削ったり。油くさい工場が遊び場だった。やがて父親の後を継いだ。
しかし二十年前、「大企業と取引したい」との思いから工場を畳み、以前から興味のあった宇宙関連機器の開発や試験事業に参入。取引先の企業で、初めてロケットエンジンに点火する瞬間を目の当たりにして、「いつか自分で」との思いが芽ばえた。
三菱重工業などの下請けでH2A、H2Bロケットの燃料配管などの部品を手掛ける一方、「他ではできない仕事」にこだわり、熟練の技術者を雇った。だが彼らは失敗の言い訳が多く、他の方法を提案しても受け入れないことも多かった。
転機は五年前。「金属加工の緻密な作業には、柔軟で手先も器用な若い力がいる」と考え、長男の将士(まさし)さん(28)やその友人らに声をかけた。集まったのは工業高校などを出て就職したものの、「仕事がつまらない」と現状に不満を抱く若者たち。今では三十代までの若手が二十人に増えた。
一方、ロケットの部品加工の分野では、人件費の安いアジアでも生産が始まり、下請けだけでは生き残れないとの危機感もあった。そこで「若手中心で何か新しい事業を始めよう」と小型ロケットエンジンの研究開発に挑戦することに。昨年九月にはエンジンの試作品を使った浮上実験も実施。いつしか「小型人工衛星を宇宙に届けるロケットを打ち上げよう」が、社員の目標になった。
加藤さんは、経験の乏しい若手にも仕事を任せ、チャンスを与える。自分にはない感性で思いもかけない結果を生むこともあれば、逆に問題も起こる。ただ「若い子の失敗で会社はつぶれない」という確信がある。失敗の数なら、自身が一番多いからだ。
「なぜそうなったか」の原因さえ分かれば、失敗の連続も、いつか誰かの利益になるかもしれない。そんな思いで毎日、怖いもの知らずで、エネルギーにあふれた若者たちと根気よく向き合う。
ロケットの打ち上げはいつ実現できるか分からない。それでも「自分たちのロケットに縛られてでも、宇宙へ飛び出してみたい」と笑う。社長を引退しても、ものづくりを支える若い技術者を育てていく覚悟だ。
この記事を印刷する