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それが「ヤマト」だ

2010年11月29日

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写真:西崎義展プロデューサー=2009年11月、小原写す拡大西崎義展プロデューサー=2009年11月、小原写す

写真:「SPACE BATTLESHIP ヤマト」は12月1日から全国公開 (C)2010 SPACE BATTLESHIP ヤマト 製作委員会拡大「SPACE BATTLESHIP ヤマト」は12月1日から全国公開 (C)2010 SPACE BATTLESHIP ヤマト 製作委員会

写真:山崎貴監督はVFXも担当しました拡大山崎貴監督はVFXも担当しました

 「宇宙戦艦ヤマト」の西崎義展プロデューサーが11月7日に亡くなりました。「YAMATO」と名付けた船から海へ転落、最後まで波乱に満ちた75歳の生涯でした。自ら監督した映画「宇宙戦艦ヤマト復活篇(へん)」について私がインタビューしたのが、ほぼ1年前。「アニメ記者となったからには、一生に一度でいいから伝説の西崎プロデューサーを取材したい」との願いがかないましたが、残念ながら最初で最後の取材となってしまいました。「第一部完」の文字で終わったあの映画の続きはどうなるんでしょう? インタビューの折には、こう答えて下さいました。

 「初めは3部作でやろうと思ったが、出来上がるころ80歳になっちゃうからやめた。作品にとりかかる度に『これを最後に引退だ』と思うんだけど、出来上がると『来年なにしよう?』となってやめられない。もの作りって因果なものです。もう75歳だけど体力気力はまだまだある。さて、第2部はどうしよう。映画か、それともテレビシリーズにしようか」

 よく響く低音、悠然とした話しぶり。ああいうのも「怪気炎」というのでしょうか、青い炎がメラメラ、ユラユラと体から立ち上るように見えました。

 12月1日に公開される山崎貴監督の実写版「SPACE BATTLESHIP ヤマト」には「原作」とクレジットされていますが、「まったくタッチしてない」とのお話でした。

 「中沢さん(〈企画〉とクレジットされている中沢敏明さん)て方が熱心で、許諾したくないのに口説き落とされた。『あなたのしつこさには参った! 勝手にやってくれ。シナリオも読まないから持ってくるな』って言ったんだ。まぁ、いいや! 公開は(復活篇の)1年先だ。こっちとぶつからないんだ。どんなものが出来上がるか楽しみだ!」

 ハハハと笑ってそうおっしゃいました。

 さてその実写版、どんなものが出来上がったんでしょうか。私も「ヤマトとなると何度失望したって見ずにはいられない」という「呪い」がかかっている世代なので、マスコミ試写を見てきました。いやコレが、「本家」同様ツッコミどころ満載の映画でした。

 赤い地球をバックに「ヤマト」のタイトルがバーン、そして宮川泰さんの名メロディーがバーン。放射能に汚染された地上で古代進(木村拓哉)がイスカンダルからの通信カプセルを拾います。中には波動エンジンの設計図が。古代は元エースパイロットで何年も軍を離れていたという設定ですが、軍に戻っていきなりヤマトの戦闘班長に。「悪い?」。おおやっぱりキムタク節だ。

 乗り込んだ途端に敵ガミラスの攻撃! ヤマト緊急発進! ついさっき通信カプセルを受け取ったばかりのような気がするのに、いつの間にか建造が済んでるこのサクサク感もアニメ通り。艦が動き出して驚く古代君「これは?」。「そうだ、ヤマトだ」と、おひげフサフサの沖田艦長(山崎努)が教えてくれます。ヤマトと知らずに戦闘班長として乗りこんだらしいです。地面を割ってヤマト発進、そしていきなり巨大ミサイルに向けて波動砲だ!「古代、マニュアルは読んでるな?」。えー、いまこの艦がヤマトだって知った人がいつ波動砲のマニュアルを? ていうか、マニュアル読んだだけの人が撃っていいの? と心配しているうちに発射成功、すかさず沖田艦長「24時間後にワープテストを行う!」。うーむ、このザックリ感はアニメ以上かも。

 宇宙に出ても当たり前のように重力が持続するのはやっぱり「ヤマト」。そして第3艦橋が壊れるのも「ヤマト」、その第3艦橋が宇宙空間でもスウッと「下へ落ちていく」のもやっぱり「ヤマト」です。ヒロイン森雪(黒木メイサ)は男勝りのエースパイロットという設定で、チャラい古代君を「腰抜け」呼ばわりしたり鉄拳くらわせたりしますが、前ふりも何もなく彼と恋仲に。試写を見た同僚のM記者(女性)は「キャラクターに一貫性がない」と不満げでしたが、77年公開の最初の劇場版だって(テレビシリーズを切ってつないでるから)いつの間にか恋人同士になってるのよ、それが「ヤマト」なのよ。

 そのほか、ええっ!ずっとドリルミサイル突っ込まれたままなの?とか、最後までツッコミどころはいろいろありますが、この実写版で意外に感じたのはメカ描写。山崎監督は、「スター・ウォーズ」と「未知との遭遇」に衝撃を受け、友人の家の土蔵で宇宙船の模型を作って中3の夏休みだというのにSF映画撮影に没頭した、という原体験の持ち主なので、懲りに凝ったフェティッシュなメカ描写を見せるのではと期待していたのですが、意外にもアッサリした感じでした。艦橋の古代君の席にごく普通のパソコンのキーボードがマウントされていたように見えましたが、あれはちょっと……。SPACEキー押して攻撃でもするんですかねえ、「SPACE BATTLESHIP」だけに(ダジャレですみません)。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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