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「韓国の過労死」の実態…違法残業、睡眠2~3時間、自爆営業も

2013/06/21 09:45更新

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過労死問題のシンポジウムで行われた韓国人留学生、姜?廷さんの講演。韓国での実態が明かされた=6月12日午後、大阪市中央区(小野木康雄撮影) 

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韓国で続発する過労死・過労自殺について講演する立命館大学大学院の韓国人留学生、姜ミン廷さん=6月12日午後、大阪市中央区(小野木康雄撮影)

記事本文

 【関西の議論】

 日本で社会問題となって久しい過労死・過労自殺が近年、韓国でも続発している。長時間残業しなければ生活費を稼げず、ノルマは達成できない過酷なものばかり-。そんな労働が横行しているというのだ。23歳の韓国人女子留学生がシンポジウムで明かした韓国の実情は、「karoshi」を国際語にした日本の状況と酷似していた。

 ■違法な労働契約、“自爆営業”も

 韓国人留学生は姜ミン廷(カン・ミンジョン)さん。昨年9月に来日し、立命館大大学院で日韓の過労死問題について調査研究している。大阪市中央区の大阪府立労働センター(エル・おおさか)で6月12日に行われたシンポジウム「過労死社会は変革できるか-過労死110番の四半世紀から考える」(大阪過労死問題連絡会主催)で、約40人を前に講演した。

 姜さんが紹介したのは、韓国で起きた4件の過労死・過労自殺だ。

 1件目は今年3月、製鉄所のプラント建設現場で、半月以上にわたる深夜残業の末、労働者が胸の痛みを訴えて死亡した事案。韓国の法律で認められた残業の上限は週12時間だが、同僚の証言では「週16時間の残業をしなければならない」との労働契約が交わされていたという。

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記事本文の続き 2件目は、自動車部品メーカーのケース。一昨年から1年半の間に労働者4人が突然死や自殺に追い込まれた。この会社では、入社9年目の基本給が約123万4千ウォン(約10万3千円)。これを補うために、残業や休日出勤をせざるを得なかったというのだ。

 現場の労働者だけではない。3件目は、今年5月に起きた公務員の自殺。遺族は「真夜中に帰宅し、夜明けとともに出勤していた。睡眠時間は2~3時間だった」と話しており、本人は自殺直前に転勤を願い出たが、認められなかったという。

 4件目は、大手デパート販売員の自殺だ。遺族によると、上司からメールで「1日で500万ウォン(約41万6千円)近い売り上げをあげろ」と無謀なノルマを課せられた。達成するために、家族のクレジットカードで商品を買っていたともいうのだ。

 日本では、販売目標を達成するために、自分が売るべき商品を自分で買うことは、ネット社会などで“自爆営業”と呼ばれている。

 日本特有とみられていた現象が、韓国でも起きている-。姜さんはこうした実情を次々と明らかにする一方、「過労死・過労自殺は日本ほど社会問題になっていない」とも指摘した。

 ■昭和の日本企業と類似

 韓国で社会問題にならないのはなぜか。

 まず、姜さんが挙げたのは、労働者や労働組合が労働時間短縮を優先してこなかった点だ。

 2件目の事例にあったように、韓国企業は基本給が低く抑えられる傾向にある上、経済成長に伴う物価上昇に比べ、賃金が上がってこなかった。老後への不安の裏返しで「現役時代に稼がねばならない」と考える労働者も多いという。

 さらに、姜さんは長時間労働で成果を出すことを「美徳」とする雰囲気が、社会全体に定着していることも指摘した。

 これについては、立命館大大学院で姜さんの指導を担当している櫻井純理教授(社会政策論)が、昨年9月に韓国企業の人事担当者らと懇談したときのエピソードを紹介し、補足した。

 それによれば、韓国企業には長時間の残業を終えても、社員同士が酒席を囲むなど濃密に付き合う文化があるという。家庭生活に悪影響を及ぼすという弊害に気づいた一部の企業が、飲み会の回数削減をうたいはじめたほどだ。

 いずれも昭和の高度成長期に日本企業でみられた風潮と重なるとして、櫻井教授は「適切な規制がないことや労働文化など、日韓では過労死問題の背景に共通点がある」と話した。

 ■日本では25年前の「110番」から

 では、過労死・過労自殺が社会問題になっていない韓国は、日本よりも深刻な事態に直面している、と言えるのだろうか。

 実は、必ずしも比較はできない。「本家」であるはずの日本でも、いまだに実態が明らかになっておらず、引き続き深刻な状態とみられているからだ。

 過労死問題でよく引用される統計が、毎年6月に厚生労働省が発表する「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」だ。過労死は脳・心臓疾患、過労自殺(未遂を含む)は精神障害として、労災の申請件数と認定件数を1年ごとに集計している。

 平成23年度だと、過労死は申請302件、認定121件。過労自殺は申請202件、認定66件だった。

 ただし、労災申請に至るケースは氷山の一角。発生件数が実際にどれだけあるのかは、だれにも分かっていないのだ。

 シンポジウムのタイトルにもあるように、日本の過労死・過労自殺は、弁護士らが大阪で行った無料電話相談「過労死110番」によって、初めて社会問題として認知されるようになった。昭和63年4月、25年前のことだ。

 当時から過労死問題に携わってきた松丸正弁護士(大阪弁護士会)は「労働問題としてどれだけ普遍性を持つのか、最初は見当もつかなかった」と振り返る。

 それが蓋を開ければ、ひっきりなしに電話が鳴り、労災認定にまつわる相談だけで16件が集まったという。ほどなく、過労死110番は全国に広がり、25年間で受けた相談は1万件を超えた。

 松丸弁護士によれば、当初は働き盛りの中年男性が過労死し、妻たちが電話をかけてくるケースが大半だったが、近年は精神的に追い詰められた若い世代の過労自殺が増え、両親からの相談が多いのだという。

 ■遺族が活動、国連も「懸念」

 こうした事態を食い止め、過労死・過労自殺を防ごうと、日本では遺族が先頭に立って活動している。

 平成8年に夫を過労自殺で亡くした「全国過労死を考える家族の会」代表、寺西笑(えみ)子さん(64)=京都市伏見区=らは今年4月、スイスの国連ジュネーブ事務局を訪問した。日本も批准している「社会権規約」に反し、日本政府が過労死問題を放置していると訴えるためだ。

 これを認める形で、国連の社会権規約委員会は5月17日、日本政府に対し、長時間労働や過労死問題への「懸念」を表明した上で、立法措置を含む新たな対策を講じるよう勧告した。

 「過労死防止基本法」の制定を求める活動も同様に、遺族が主導している。6月5日現在で43万6536人分の署名を集めるとともに、国会議員らに協力を求める院内集会を計7回、開いてきたのだ。

 この結果、近く議員立法を目指す超党派の国会議員連盟が発足する見通しとなり、田村憲久厚労相が6月11日の閣議後会見で「注視したい」と述べるまでになった。

 日本でも、国際社会や政府を動かすような過労死防止の活動が、遺族らによってようやく、実を結ぼうとしつつある段階なのだ。

 ■労組に見える日韓の差

 一方、韓国には日本のような専門家による相談窓口や遺族団体は存在しないが、労働組合がその役割を担う可能性があるという。

 韓国人留学生の姜さんが紹介した事例に話を戻すと、韓国の製鉄所のプラント建設現場で発生した過労死をめぐっては、死亡した労働者が加盟していた労組の組合員約1500人が各地から集まり、遺族とともに大規模なデモを行った。

 姜さんは「韓国で過労死・過労自殺を防止するには、まず労働者と労働組合が努力しなければならない」と主張し、櫻井教授も「韓国社会では労組の力が強く、いったん解決に向けて動きだすと、早く進む可能性がある」と指摘する。

 裏を返せば、日本では大半の労組がいまだに過労死問題に消極的だという現実がある。熊沢誠・甲南大名誉教授(労使関係論)はこう話す。

 「日本の労組は、昇給と雇用の保障さえあればいいと考え、残業時間や仕事量などをめぐる働き方の問題について、意見を言わなくなってしまった」

 姜さんは「韓国に帰国したら、専門家による相談窓口や遺族団体を組織したい」とも語っている。

 日本で学んだ留学生が、いまなお力を持つ労組とともに、本腰を入れて過労死問題に取り組む-。近い将来、そんな活動が始まれば、労組の活動が鈍い日本の方が置き去りにされてしまう可能性もあるだろう。

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