MK2

MK2さんのプロフィール

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はてなID
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ニックネーム
MK2
自己紹介

 俺の名はMK2諸般の事情により、魔法幼女だ。説明がざっくりすぎるのは承知しているが、細かく説明すると自分がかわいそうになってくるのでそういうものだと思ってほしい。

 今日今日とて、うちの奥さまと夜勤に入っていた。時間は深夜の0時くらい。店には俺ら夫婦のほかに店長補佐の田中さんがいる。本来のシフトは22時で終わりなのだが、残った仕事をやるのにだるいからという理由でムダに1時間以上休憩とったうえで仕事を再開している。

「で、これさあ」

 うちの奥さまが店長ロッカーに放り込んであった魔法発注端末を取り出してきた。俺が謎の力によって強制的に幼女にされた際に、いつのまにか強制的に手に持たされていたものだ。

「なにができんの?」

「俺に聞くなよ」

「使ってみりゃいいじゃん」

「やだよ。おかし魔法が発動して競合店が火事にでもなったらどうする」

灯油注ぐ」

「やめなさい」

 うちの奥さまの顔が笑っていないので、軽く諌めた。

「あ」

「どうした」

「電源入っちゃった♪」

「♪じゃねえだろ! 貸せ!」

 あわててうちの奥さまから端末を取り上げた。つーか電源入るのか。充電どこからしてるんだこれ。

「いやだって、どこから見たってN◯Cの端末じゃんそれ。電源ボタンっぽいのがあるから押してみたら……」

 確かに見た目はまんまそうなのである。電源が入ってしまったものしょうがない。明るくなった画面を見ると、メニューが表示されていた。読み上げてみた。

「1:発注

発注端末じゃねえか!」

 うちの奥さまが椅子から立ち上がってツッコミを入れた。

「2:魔法

 俺がそう言った瞬間、うちの奥さまが無言で俺から端末を取り上げて床に叩きつけた。

「いきなりなにすんだよ!」

「よくわかんないけどむかつく! すごい大雑把でむかつく!」

「気が短いなあ」

 椅子から飛び降りて(床に足がつかない)端末を確認すると、故障はしていないようだ。

 しかしまあ、ここまで来てしまった以上、なんとなく行き着くところまでやらないと気が済まない。さすがに「魔法」はあからさまに怪しいので、ひとまずは発注のほうをしてみることにした。

 発注のメニューにタッチすると、発注画面が出てきた。ご丁寧にこんなところまで◯ーソンの端末と似ている。

「……」

「なに発注できんの?」

 うちの奥さまが半笑いで聞いてきた。

「……」

「黙ってちゃわかんないじゃん。早く教えてよ」

「……使い魔」

「貸せ! そいつ絶対許さねえ! んな適当システムがあるかよ! ベンダーはどこだ! 発注単位は! 原価と売価はどうなってんだよ!!」

 大荒れである

 ちなみに原価も売価も0円。

「よくわかんないけど、原価0円だし発注してみるね」

 最大発注数は999と表示があるが、万が一にも本当に999体もなんかそれっぽいのが出てきたら困る。とりあえず「1」で入力してみた。

 瞬間、光が端末から溢れ出た。その光は俺を包む。この透明度の低い感じの光、いかにもセラムン時代東映動画っぽい変身シーンのバンク雰囲気である。俺は宙に浮いており、強制的にバンクっぽいポーズを取らされていた。

「なんすかなんすか!」

 売場にいた田中さんが飛び込んできた。

「うおっ、光ってる、あと店長パンツ見えてるっす!」

 変身が終わった俺は、青白ストライプフリルのついた短いスカート姿になっていた。店にいるとき制服基調デザインになるのだろうか。最近このチェーン、いろんなキャラに青白ストライプ制服を着せたがるので、その流れかもしれない。

 ところで、うちの奥さまと田中さんの二人は、俺のほうを見てはいなかった。二人が呆然凝視する方向を俺も見ていると、そこに一人のおっさんが立っていた。

「……」

「……」

 腹が出ており、頭頂部は薄く、腰の痛みをかばっているのかやや前傾姿勢であるメガネをかけており、脂ぎった顔に呆然とした表情を浮かべていた。

「……俺だ」

「うん。あんただな」

店長っすね」

 召喚されてきたのは、どうやら42歳の俺の肉体だったらしい。

 場を重苦しい空気が包んだ。なんといったらいいんだろう、このいたたまれない感じ。すごいがっかりした、という空気がありありと浮かんでいる。実は俺自身もちょっとがっかりした。

 しかし俺の精神は現にここにある。だとしたら、あのなかに入っているものはいったいなんなのだろう。俺自身だとしたら、非常にめんどくさいことになる。

「あんた、なに?」

 それを察したうちの奥さまが、使い魔としてあらわれた俺の肉体に聞いた。

「ふぇ?」

 あどけない表情で、42歳の肉体は首をかしげた。

 すごい。42歳のおっさんのあどけない表情、すごいつらい。

「いや、ないっすねこれ」

 田中さんが最悪な感想を述べた。全否定である

 うちの奥さまが重ねて聞く。

「あんた、MK2?」

「ふ、ふえぇ……ここどこぉ?」

 42歳の肉体が涙を浮かべて言った。

 この言動、ほぼ幼女のものである

 つらい。自分の肉体だったものだけに死ぬほどつらい。

 俺は仮説を立てた。幼女おっさん精神が入っているのならば、なんかのまちがいで、42歳のおっさんの肉体に幼女精神が入ってもおかしくはない。骨の髄からコンビニである俺には、あと検証という行為必須だったが、その勇気が出ない。

「返品だ」

 うちの奥さまが断言した。

「返品理由なんなんだよ」

「気持ち悪いから」

 泣きそうである

「だいたいどうやって、どこに返品すんだよ」

「そりゃあ、こうやってだろ」

 ストアコンピューターの返品画面を開いたうちの奥さまは、問答無用で42歳の俺の肉体の頭頂部にバーコードスキャナを当てた。ピッと音を立ててバーコードが読み込まれた。

「ぎゃははははは」

 田中さん爆笑した。うちの奥さまが淡々操作を進めて伝票を発行した。

 その伝票に、店のスタンプを押した瞬間、42歳の俺の肉体がなにごともなかったかのように掻き消えた。

 それを確認して、うちの奥さまが冷静に言った。

「返品完了」

「んじゃ仕事戻るっす」

 田中さんも売場に戻った。

 うちの奥さまも仕事に戻ろうとして、思い出したようにつけくわえた。

「ああ、あれカットな。マスタ切っといて」

 事務所に、俺ひとりが取り残された。

 俺は黙々と商品取り消しの処理をした。その処理方法まで、店の発注端末と一緒だった。

 売場に行ったと思っていた田中さんが戻ってきた。

店長、元気出してくださいよ」

「ああ……」

自転車もあるし」

「そうだな……」

 こいつが原因で買うはめになったプリキュアの補助輪つき自転車が。

 なにもいいことがなかった。

 こうして、俺の魔法初体験は終わった。

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 ところで、俺の一張羅であるこどもようジーンズは消えたまま戻ってきませんでした。変身といっても服が変わっただけであまり変化がありませんでした。店ではスカートでの仕事は禁止です。俺はこのあと、通販でこどもようのズボンを買いました。ムダな出費が増えました。

 もう、使い魔の発注封印しようと思います

 人間は、魔法なんかに頼らず、日々を地道に生きるのがいちばんです。

 なお、使い魔の品名は「おっさん」で、ベンダーは「まほうのくに」でした。うちの奥さまはそのことにたいそういらついています