夏ばっぱが海に潜る姿はとにかくカッコいい。「水が冷たそう、溺れたら迷惑がかかる」とウジウジしているアキを海に突き落とすような豪快な人で、アキはそんな夏ばっぱに衝撃を受け、しかも海の水は、驚くほど気持ちよかった。理屈ではなく肌で感じる何かがあったのではないでしょうか。「北三陸市」でのアキは、人が変わったように元気です。熱中したことに一直線すぎておバカなこともやってしまいますが、その土地の人々が温かく見守ってくれています。だから、東京にいたときより素直になれて、自分のことが好きでいられるんです。
私自身も収録現場でアキと同じ気持ちです。夏ばっぱ役の宮本信子さんは、私が演技で悩んでいると相談に乗ってくださり、夏ばっぱのように背中を押してくださいます。春子役の小泉今日子さんはとても優しくて、「行き詰まってもひとりで悩まないでね」と声をかけてくださいました。
撮影は岩手県久慈(くじ)市でのロケから始まりました。海女漁の撮影はハードでしたが、思いのほか楽しかったです。海中にウニを見つけると本気で獲りたくなって、雑念が消えて夢中になれて……。それに本職の海女さんたちの潜りっぷりは、やっぱりカッコよかったです。「小さくてかわいい腰網(ヤツカリ:腰につけて潜り、ウニを入れておく海女の道具)があるから」と、こだわりの品を貸してくださる方もいて(笑)。町の人たちは穏やかで明るくて、おしゃれなおばあさんが多かったのも印象的でした。それと、郷土料理。ドラマにも登場する「まめぶ汁」をはじめ、獲れたてのウニなど何を食べてもおいしくって。ウニを食べたのは、そのときが生まれて初めて。いきなり最高の味を知ってしまいました(笑)。寒い日には地元の方々が温かい汁物を振る舞ってくださり、心まで温めていただきました。
アキが高校で学ぶ「南部潜(なんぶもぐ)り」も体験しました。特殊な装備をつけるので水中でも呼吸できるんです。浮力のバランスをとるのが難しかったです。種市浩一役の福士蒼汰さんとともに、ロケ地の高校で何度も練習しました。ドラマでは、種市先輩はアキのあこがれの人。アキは、志を持っている人に惹かれるんです。自分がずっとそうでなかったからかもしれません。でも、夏ばっぱや海女さん仲間、種市先輩や、親友の足立ユイちゃんと一緒に過ごしていく中で、少しずつ変わっていきます。そして、アキの変化はお母さんにも影響し、夏ばっぱと春子の関係も変化していくのでしょう。
このドラマで私がいちばん大切にしたいのは、「北三陸市」の人々や大自然が好きで好きで仕方がないというアキの思いです。私自身も共演の皆さんのおかげで、アキのように素直でいられて幸せです。個性的な役者さんたちに囲まれ、収録中は強烈なキャラクターを自然に演じられることのすごさを目の当たりにして、学ぶことばかりです。以前からファンだった宮藤官九郎さんの脚本はチャーミングで涙が出るほど笑えます。本番中に皆で噴き出すのをこらえなければならないこともしょっちゅうなんです。すてきな世界観を壊さないように、精いっぱい演じていきたいです。