オレンジ色のふんわりとした生地の中にぎゅっと詰まった、鮮やかな緑のクリーム。そこに小花のようにあしらわれた、オレンジ色のクリーム――。オーガニック野菜スイーツの専門店「パティスリー ポタジエ」(東京・中目黒)のオーナーシェフ、柿沢安耶(36)が考案した「だだちゃ豆と紅花のロールケーキ」。東北の復興支援を目的とした「東北6県ロール」の山形バージョンだ。そこには山形の田園風景が詰まっている。
柿沢は、7年前に「パティスリー ポタジエ」をオープンして以来、彩りが美しく、ヘルシーで、美味しい野菜のスイーツで注目を集めてきた。おいしい野菜を求めて全国各地を訪れるなかで、山形とのつながりが生まれ、このプロジェクトでは、みずから山形県担当を買ってでた。
“ロール”という課題を前に、柿沢はパティシエらしくロールケーキを思いつく。食材に選んだのは、だだちゃ豆、紅花、つや姫の玄米茶の3品だった。
「だだちゃ豆は地元でもずんだ餅などに使われて、親しまれています。山形を代表する紅花はかつては食用に、いまは着色料として使われるだけあって、色がきれいで、香りや味にも特徴があるので、ぜひ使ってみたいと」
農家を訪れるたびに、田畑の美しさに心惹かれるという。だだちゃ豆を使った緑色のクリームには、そんな感動を反映させた。
製品づくりを担うのは、創業120年の老舗和菓子店「長榮堂」(山形市)。常務取締役の長谷川浩一郎は、初めて試食した時の印象をこう語る。
「紅花のオレンジ、だだちゃ豆の緑、そして山形の雪景色を連想する白いクリームは、まさに女性ならではの感性。一手間もふた手間もかけられており、素晴らしいと思いました」
ただ、長谷川には気になる点が一つだけあった。地元にあるだだちゃ豆の菓子と比べ、かなり甘さが控えめだった。はたして、地元の人たちの口にあうだろうか。柿沢には、狙いがあった。
「野菜の味をちゃんと引き出すために、あえて甘さは控えました。野菜って甘みがあって美味しいねって言われますけど、砂糖のような甘みではありません。砂糖を加えすぎてしまうと、野菜がもっている本来の味が消えてしまうので、野菜が消えない程度の甘さを心がけました」
今年5月に岩手県盛岡市で開催された東北六魂祭で、初めて一般発売された。1日750カット限定で販売、2日で1500カットを完売した。
その後、長榮堂の店頭でも販売を続けているが、長谷川の心配をよそに、「さっぱりしていて、口飽きしないのがいい」と好評を博し、リピーターも増えているという。
「地元の人が考えるだだちゃ豆のスイーツとは違っても、だだちゃ豆がもつ本来の甘みが引き出されているからか大人気でした。新境地を開いてもらったような気分です」(長谷川)
山形のエッセンスを閉じ込めた「だだちゃ豆と紅花のロールケーキ」。生みの親である柿沢は言う。
「山形の食材を使うことで、少しでも農家の方々の励みになったり、このケーキを食べた山形の人が、少しでも地元に誇りを持ってもらえたりしたらいいですよね。食べ物って人をつなぎ、人を笑顔にするもの。野菜スイーツを通して、少しでも何かの力になれればと思っています」=敬称略(つづく)
(ライター 吉川明子)
俳優、映画監督の伊勢谷友介が09年に株式会社リバースプロジェクトを設立。東京芸術大学の同級生らとともに、デザインで、社会的に利用価値が低いとされているものに新たな命を吹き込み、よみがえらせる「再生プロジェクト」を展開している。原発事故で見送られた卒業式を飯舘村の子どもたちにプレゼントするなど、社会貢献につながる「元気玉プロジェクト」なども活動している。
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