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【社説】

参院選、自民が圧勝 傲らず、暮らし最優先に

 参院選は自民党が圧勝した。衆参「ねじれ」は解消したが、安倍晋三首相は傲(おご)ることなく、暮らしをよくする政策の実現にこそ、力を尽くすべきである。

 六年前の参院選で自民党を惨敗させ、その後、首相がほぼ一年で交代する政治の不安定化を招いた安倍首相にとっては、雪辱を果たしたというところだろう。

 自民党勝利の要因は三十一ある一人区のうち、民主党の牙城とされる三重や滋賀などを含む二十九で議席を得たことだ。複数区でも取りこぼしはなく、政権を奪還した昨年暮れの衆院選の勢いが衰えていないことを印象づけた。

◆絶対的支持でなく

 自民党は圧勝だが、絶対的支持を得たわけではない。三年前の前回を下回る低投票率、民主党の凋落(ちょうらく)、非自民票の分散が相対的に自民党を押し上げたと見るべきだ。

 首相は選挙戦で、政権交代後に進めた金融緩和、財政出動、成長戦略の「三本の矢」が経済指標を好転させ、経済再生には「これ以外に道はない」と訴え続けた。

 十三、十四両日行った共同通信の全国電話世論調査で、投票先を決める際に重視する課題に「景気や雇用など経済政策」を挙げる人が35%と最も多く、「年金や医療など社会保障制度」(27%)が続いた。

 輸入品価格が上昇する一方、所得は上がらず、景気回復を実感するに至っていない国民は多い。暮らし向きを少しでもよくしてほしいという切実な願いが、自民党への投票につながったのだろう。

 首相はこの秋に召集予定の臨時国会を「成長戦略実行国会」と位置づけるなど、参院選後も引き続き、経済優先の政権運営に努める腹づもりのようではある。

 長年のデフレから脱し、暮らし向きがよくなったと、国民が実感できることがまず重要だ。優先順位を間違えてはならない。

◆暴走、公明が止めよ

 改憲勢力とされる自民党、日本維新の会、みんなの党に、有権者は参院で非改選を合わせて三分の二の議席を与えなかった。自民党が目指す九条改正による国防軍創設や集団的自衛権の行使容認などは機が熟しているとは言えない。

 とはいえ党内に改憲派を抱える民主党の動向次第で、改憲論が再燃する可能性は捨てきれない。

 ねじれが解消した状況は首相が「自民党らしい」政策の実現に動きやすい環境でもある。それが暮らしをよくする政策ならいいが、「自立」を強調し、弱者切り捨てにつながるなら見過ごせない。

 安倍内閣が成長戦略として検討する「限定正社員」導入や、生活保護費、社会保障費の抑制、消費税増税などがどうなるのか、引き続き監視する必要がある。

 自民党政策を厳しく批判し、「自共対決」を掲げた共産党が十二年ぶりに選挙区で議席を得た。東京では無所属の脱原発候補が当選した。自民党はこうした有権者の意思も謙虚に受け止めるべきだ。

 政権が「暴走」しそうになった場合は当面、公明党に歯止め役を期待するしかあるまい。

 公明党は選挙戦で憲法九条改正や九六条先行改正への反対を訴えた。集団的自衛権の行使容認にも慎重で、原発ゼロを目指す方針も示す。自民党との違いは鮮明だ。

 この際、与党内で政策が違うなどと野暮(やぼ)は言うまい。自民党の独善を正し、国民の声を政治に反映させる。公明党の責任は重大だ。

 野党には総じて厳しい選挙結果だった。特に結党以来最低の議席となった民主党は、公約破りの普天間「県内移設」回帰や消費税増税強行、稚拙で不誠実な政権運営に対する「懲罰」的投票が、政権転落後も続いている。

 政権交代可能な時代だ。世論の動向次第で自民党政権の命脈がいつ尽きるとも限らない。自民党に代わる選択肢を常に用意することが、政治への安心感につながる。

 民主党が必要とされるには、生活者、納税者、消費者の立場に立つという結党の原点に立ち返り、党を立て直さなければならない。時間がかかっても、どんなに苦しくても、やり抜く責任がある。

 一人区のうち、野党が選挙協力した沖縄では勝利し、山形では善戦した。「一強」となった自民党に立ち向かうには、野党勢力を結集する必要性を、すべての野党がいま一度、認識すべきである。

◆「環視」続ける必要

 選挙は代議制民主主義下で最大の権利行使だが、有権者はすべてを白紙委任したわけではない。

 この先、憲法、雇用、社会保障、暮らしがどうなるのか。選挙が終わっても、国民がみんなで見ているぞという「環視」、いざとなったら声を出すという積極的な政治参加が、民主主義を強くする。

 今回の参院選がインターネット選挙運動の解禁とあわせ、「お任せ」から「参加型」民主主義への転機となるのなら、意義もある。

 

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