投票価値に最大四・七七倍も不平等があるのは憲法違反との訴えが、全国の高裁に出された。参院の四十七全選挙区が対象になるのは初だ。小手先の是正に安住する国会を司法は厳しく裁くべきだ。
鳥取の有権者が「一票」だとすると、北海道の有権者は「〇・二一票」しか持っていない。こんな不平等は許せない−。原告たちは「正当な選挙に基づく代議制、および選挙権の平等に反する。選挙は憲法違反で無効だ」と全国で一斉提訴した。
最高裁は一九九六年に参院の六・五九倍の格差を「違憲状態」、昨年十月にも五・〇〇倍の格差を「違憲状態」と判断している。重要なのは、二〇〇九年の大法廷判決だ。合憲判決だったが、このとき「定数を振り替えるだけでは格差の縮小は困難。現行の選挙制度の仕組みの見直しが必要だ」と、抜本的な見直しを迫ったのだ。
そのため、参院では一〇年に選挙制度改革の検討会が発足し、当時の西岡武夫参院議長が改革案を示した。それは全国を九つのブロックに分け、格差を一・一三倍までちぢめる内容だった。
だが、西岡氏は死去し、抜本改革は立ち消えになった。昨年の「四増四減」の定数是正は、最高裁のいう「定数を振り替えるだけ」の弥縫(びほう)策にすぎない。国会は大法廷判決から、三年九カ月も怠慢を続けたわけだ。
さらに重要なポイントは、昨年十月の大法廷判決が「都道府県単位の選挙区設定となっている現行方式を改めるなど、速やかに不平等を解消する必要がある」と異例の付言をしたことだ。
「四増四減」は、この判決さえ無視しているのは明白だ。要するに司法府からの警告を国会は再三、黙殺しているのだ。提訴を受理した高裁は、こんな立法府の姿勢を厳しく指弾すべきである。
これまで司法界では、訴えのあった一部選挙区について、「違憲だが、選挙は有効」とする「事情判決の法理」がまかり通ってきた。議員が欠けた状態で選挙制度見直しをする不都合などを考慮した法理論である。だが、全選挙区が対象となれば、事情判決は使えないはずだ。
憲法は一票の平等を要請している。同時に参院選は衆院選よりも不平等でいいという理屈も存在しない。原告は公職選挙法に定めた「百日裁判」も求めている。迅速な司法の決断が不可欠だ。
この記事を印刷する