元社員が改ざんに関与?口つぐむノバルティス

医師主導の臨床試験で、多数のデータ操作が判明

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これは、平たく言うと、カルテで書かれていた内容と、試験論文に用いられた解析データでは、脳卒中や心筋梗塞などの発生率が大きく食い違っていたということだ。つまり、解析データが作成されるまでの間に、「データ操作」があったことを意味している。

京都府立医大によれば、「ノバルティス社の元社員が統計解析を行っていたと推測される」「元社員が(試験のために設けられた)各種委員会に出席し、事務局的機能を行っていたと推測される」としている。「推測される」との表現にとどめているのは、元社員から調査への協力を得ることができなかったためとしている。
 一方、臨床試験データの改ざんや捏造については、元社員の協力が得られなかったことから、「あったかどうかわからない」(調査委員長を務めた伏木信次副学長)との回答に終始。故意があったかがわからないことから、データに数多くの不正がありながらも「操作」という言葉遣いにとどめた。

不問に付されるノバルティスの責任

伏木副学長によれば、「すでに試験に関与した社員が退職したことを理由に、ノバルティスからは元社員へのヒアリングのための協力を得られなかった」という。同社はホームページで「深い反省」「心からのお詫び」を表明しているが、真相究明には消極的な態度をとり続けている。

今回の事件で明らかになったのは、日本の大学で行われている臨床試験の質の低さだ。患者を対象とした試験でありながら、薬事法上の臨床試験(治験)のための省令に基づいていないものが多い。ルールが不明確であるため、データの質や患者の保護で問題が起こりやすいと指摘されてきた。薬事法に基づいていないため、臨床試験の結果を「効能効果」として医薬品の添付文書に記載することも認められていない。当局の目も届きにくい。

その一方で、薬事法に基づかない臨床試験では、製薬会社にとっては自社に有利な結果が出るように医師を支援するインセンティブが働きやすいという見方がされてきた。特に外国の論文に掲載されることを通じて「エビデンス」が逆輸入され、マスメディアの企画広告などのグレーな形で事実上、効能効果をうたう形になっている。まさに法制度のすき間をついたやり方だ。そして、そうしたセールス合戦が最も加熱していると見られていたのが降圧薬などの循環器領域だった。ノバルティスのディオバンはピーク時に年商1000億円以上を売り上げていた。

ノバルティスの降圧薬をめぐっては、東京慈恵医科大学を中心として実施された医師主導臨床試験でも改ざんや捏造の疑惑をめぐる調査が進行中で、近く結果が発表されると見られる。だが、元社員の協力が得られないことを理由に、またもや大学や製薬会社の責任は不問に付される可能性が高そうだ。製薬産業の闇は果てしなく深い。

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