コウモリボックスに運ばれたユビナガコウモリ=22日午前11時26分、青森県西目屋村、中山写す
ユビナガコウモリを人工洞窟に運び込むNPO法人メンバー=22日午前10時59分、青森県西目屋村、中山写す
人工洞窟の内部=22日午前11時2分、青森県西目屋村、中山写す
世界遺産・白神山地の入り口、青森県西目屋村で22日、多目的ダム建設のため、すみかが奪われる希少種のユビナガコウモリの引っ越しが始まった。国土交通省が約5千万円をかけて、5キロ離れた地点にコンクリート製の人工洞窟(どうくつ)をつくり、世界でも例のないコウモリの集団移転をする。
ユビナガコウモリは、頭から胴まで6〜7センチ、翼を広げると約30センチ、体重は10〜17グラムの小型種で、高速で長距離を飛ぶ。青森県は世界の生息の北限で、県は「重要希少野生生物」に指定している。
開発によって生息地を奪われ、57年にできた目屋ダム仮排水トンネルが県内に残る3カ所の生息地のひとつになっていた。ここが下流にできる津軽ダムの工事でふさがれることになり、国土交通省が幅と高さが約4メートル、長さ約50メートルのコンクリート製の人工洞窟「コウモリボックス」をつくった。つかまりやすい凹凸を天井につけ、沢水を引き入れたプールを床につくって湿度を高め、コウモリの好む環境にしている。
この日はNPO法人「コウモリの保護を考える会」の向山(むこうやま)満代表(66)=青森県階上町(はしかみちょう)在住=ら13人の協力で、ほぼ冬眠状態にあるユビナガコウモリを1匹ずつ採取し洗濯ネットに入れて段ボールでコウモリボックスに運んで放した。3〜4日で、2千〜3千匹をすべて人工の「新居」へ移す。
奈良教育大付属自然環境教育センターの前田喜四雄教授(保全生物学)によると、コウモリは農林業害虫を大量に捕食するなど、生態系で大切な役割を果たしているという。「これまでは工事があると生息地が埋められていたが、コウモリがやっと市民権を得たということだろう」と話している。(中山由美)
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〈津軽ダム〉 岩木川の治水や水源確保、発電を目的とし、国土交通省が昨年11月に本体建設を始めた。高さ97メートル、総貯水量は1億4090万立方メートルと青森県内では最大級で、総事業費1620億円。16年度の完成を予定している。