小沢代表は7月17日、外国特派員協会での記者会見に応じました。
日本外国特派員協会での小沢一郎代表の記者会見要旨
1.生活の党の政策、野党連携について
2.企業の内部留保、行政改革について
3.安倍総理の言う「普通の国」とは?
4.選挙後の野党連携について
5.外交政策、基地問題について
6.「政治的暗殺(抹殺)= political assassination」と評された件について
7.次の総選挙までの小沢代表の役割とは?
8.民主党を離党して、後悔はしていないのか?
9.改憲、TPP、原発について
10.アベノミクスと今後の問題について
11.安倍さんの「右寄り、全体主義的な思想・言動」と尖閣問題への対応ぶりを危険視する論評も多いが、どうお考えか?
12.権利ではなく、「義務」を国民に課す自民党の憲法改正案をどう見るか?
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1.生活の党の政策、野党連携について
◆【基本的姿勢】安倍総理とは、政治の運営に対する考え方が全然違う◆
A 選挙期間中なので、私のほうからそれに関連する話をする立場にないが、ご質問に対してはお話をさせていただきたい。
私どもとは、安倍内閣、安倍総理の政治に対する、あるいは政治の運営に対する基本的姿勢、考え方が全く違っております。
景気を良くする、経済的な、経済生活を豊かにするということは、誰も反対するというものではないが、そのあり方と考え方が、基本的に、安倍さんの考えは小泉さんとほぼ似ている。(すなわち)「自由な競争、市場原理によって、競争力のある大企業、生産性の高い分野をどんどん大きくしていけばよい。その結果、その利益の配分を一般の社員もしくは一般国民にやれば、それで(全体が)レベルアップできる」という考えである。
しかし小泉政権がもたらした結果を見れば、企業は確かに成長し、260兆円と言われる内部留保を持つようになったが、それ以来、国民所得は10%以上減少している。結果は、企業は利益を上げたが、国民には反映されなかった。
安倍さんも同じようなことを考えているようだし、小泉内閣以上にもっと徹底したやり方をしようとしているように思う。
◆非正規雇用が38%になっているが、安倍政権はさらに増やそうとしている◆
それは、雇用の枠で既に、非正規枠は38%になっているが、それを正規社員にまでどんどん拡大していくことを日本政府自らがやっていこうとしている。たとえば日本人の命を守るセイフティーネットである国民皆保険で、自由診療を増やしていこうとしている。
自由は、人間にとってとても大事なことですし、私たちも自由競争を否定する考えはない。ただ、全くの自由放任主義的なやり方をすれば、弱肉強食の動物の世界と同じになってしまう。
したがって、人類は、そして民主主義は、弱い人の立場に立って、より多くの人が安定した生活を営めるために、いろいろな社会保障をはじめとするセイフティーネットを考え、それによって民主主義は、資本主義は維持され、発展してきたのだと思う。
◆我々は、まずセイフティーネットを構築してからの自由競争だと思っているので、今の政府の考えとは全く違う◆
ですから私たちは、先ほど挙げた雇用の分野でも、医療でも、あるいは農林漁業の分野でも、きちんとしたセイフティーネットの仕組み、制度を作った上での自由競争と考えているので、非正規の枠についても規制をすべきだし、医療の皆保険は維持する、農林漁業については、関税撤廃などの自由化は進めても、いわゆる戸別補償のシステムは維持すべきだと考えている。
基本的に、(安倍政権とは)政治のやり方、政治運営の思想は違うという点は、そこにある。
◆まず個人消費を拡大させる事が、景気回復につながる。これが一番大事◆
まずは個人の収入を増やし、個人の生活を安定させること。それによって個人の消費を増やす。GDPの60%は個人消費ですし、アメリカでは70%だが、まずは個人消費を拡大させることが、景気対策の最良の方策だと思っている。
◆自民か非自民かの戦いになれば、国民は非自民を選ぶと思う◆
野党、非自公の政党が協力して候補者を一本化すれば、絶対、自公には負けない。すなわち、国民は自公以外の受け皿を選択するという、未だ、国民の意識は強いと思う。
そういう国民の意志は、昨年末の総選挙でも、自民党の票は全く増えていない事実(に、明確に反映されている)。それから、総選挙以降、全国(市町村)で首長の選挙が行われたが、ほぼ一対一の選挙戦になると国民は、非自民の候補者を選んで、選択してきた(事実がある)。
国民は今なお、自民党ではなくて、もっと市民のサイド、国民サイドに立った人を、政党を、選びたいという気持ちを持っているということだ。
(例えば)この前に、先般、小泉さん(元首相)とその息子さんの小泉親子の地元である横須賀で市長選挙があったが、小泉オヤジさんと進次郎さんの、あの2人が親子でもって 親子が一所懸命、自民党候補を推したが、(熱心に応援して)やったにもかかわらず、横須賀の市民は自民ではない、自民党でない非自民の市長を選んだ。
そういう現実の事例を見ても、国民が自民党ではない、非自民の受け皿をなんとか作ってほしい、という気持ちが強く残っているので、我々の責任は重い。ただ、(今回の)参院選挙には間に合わなかったが。
2.企業の内部留保、行政改革について
Q 企業の内部留保問題や、特殊法人などの行政改革について。
A 企業の内部留保を、強制的に賃金に回せという仕組みを作ることは、ちょっと無理だと思っている。
したがって、税制上の優遇措置をするとか、あるいは雇用の問題などの直接的支援の形で再配分を促す仕組みを作るべきだと思う。ただ、財界に依存するのは、政治の在り方として、筋が違うと思う。
政府関係団体の中には、「会社」という名前を使っている所(組織)もあるが、原則として民営化、もしくは不必要なものは解散させるというのは、私の長年の主張。ただ、これは官僚機構と密接不可分のもので、これを本当にやるというのは大変なことだが、是非やらなければならないと思っている。
3.安倍総理の言う「普通の国」とは?
Q 小沢代表は日頃から、「普通の国になるべきだ」という概念を主張してきたが、今、安倍首相が同じことを言っている。(憲法9条を変えて)、自衛隊を国防軍にするなど、国家(全体)主義的な主張が目立つが、小沢代表はこれについてどう考えるか?
A 今までのまま、現状のままの日本は、まだ普通の民主主義国家になっているとは思わない。安倍さんが言っている国防軍などは、私のいう『普通の国家』とは、かなり違っている。軍事力を強化したり民族主義的、愛国主義を政治が鼓舞していくのが(安倍首相の言う)『普通の国』だとしたら、北朝鮮もだいたい『普通の国』になってしまう。
基本的に、日本が自立すること。きちんとした判断をもって、自立した日本人が構成する自立した国家、という資質を身に着けた国というものを唱えている。
4.選挙後の野党連携について
Q 今回(21日投票)の参院選挙前には、時間が足りなかったということだが、選挙後の野党連携と政界再編については、どう考えるか?
A さっき申し上げたように、国民は自民党以外の、もう一つの選択肢を、民主党政権の失敗にもかかわらず、未だに欲しいと願っている。したがって、なかなか政党や政治家の目先のエゴによって協力体制を作るのは時間がかかるが、いずれ国民のサイドから「何とかしろ」という意見が、強くなる。
次の総選挙までには、国民の要請に応え得る、新しい政権の受け皿、それさえできれば、次の選挙で間違いなく政権交代が起きると思っている。
5.外交政策、基地問題について
Q 安倍政権と、自民党の外交政策、基地問題についての考えをうかがいたい。
A 具体論に入る前に、安倍政権の下で日米関係は、私は非常に危うい様相を呈してきたと認識をしている。したがって、日本の存立にとって一番大事な日米関係において、どうしてアメリカがそのような危惧をもっているのかを、安倍政権はもちろんのこと、日本人自身が、深刻に考えなければならない。
日本のマスコミはあまり報道しないが、この間のサミットにおいても、日米会談は行われなかった。同じホテルに泊まっているのに、同盟関係の両国が5分や10分の会談もないというのは常識では考えられない。それがすべてではないが、そういう気配を感じた。
基地の問題だが、私は、アメリカ自身が前線に実戦部隊を数多く配置する、というやり方を転換し、いつでも有事即応の体制を取ってさえいればいいということで、例えば、ヨーロッパからも多くの兵を引き上げている(のと同様に)、沖縄に、海兵隊の実戦部隊を配備するという必要はないと思う。
事実、実体は、かなりグアムなど後方に移っていると思う。ただ、極東の平和ということも、もちろんアメリカとして大事に考えている。中国の問題もあるので有事即応の体制、沖縄を中心とした施設(専門的にどういう施設があるかはわからない)が、そういう機能を保持しておくことは必要だが、大規模な部隊の駐留は必要ないと思う。
有事といっても、いろいろな形がありますから一概にいえないが、米軍が後方から到着するまでのタイムラグもあるだろうし、また実戦部隊が引くことで、日本、沖縄、特に中国と向かい合った地域で、いろいろ補うべきところが出てくるかもしれない。しかし、それは日本の領土・領海なのだから、いわゆる憲法の定める範囲内で、きちんと責任を果たすことが大事だと思う。
「日本は、平和と経済的発展ばかり言うが、責任をさっぱり果たさない」と、アメリカや世界から批判されるところがあるので、日本人として、しっかりと自覚しておかなければならない。
6.政治的暗殺(抹殺)= political assassinationと評された件について
Q カレル・ヴァン・ウォルフレン氏などの分析によると、小沢さんは「政治的に暗殺(抹殺)された」と言われている。2009年に首相になるかもしれない矢先に、検察の一部や官僚の一部、メディアの一部が、総理になるべきではないとして、これを(司法権力の暴走によって)阻止した。そうした勢力が、日本に存在すると思うか?民主主義に反する政治的勢力が、日本にいると思うか?
A 先ほど申し上げたように、日本はまだ、真の民主主義国家になりえていない、そう思う。
私のことについては、旧体制を崩さなければ、新しい日本は生まれないと、そう信じているので、そういう考え方は、体制を守ることによって、メディアであれ官僚であれ、財界であれ、そこで利益を得ている人たちにとっては、非常に危険な思想なのだと思う。
意見の違いは当然あるし、あって良いが、その意見の違いで相手を「権力によって封殺しよう」ということになると、それはもはや民主主義ではない。
その意味で私は、まだまだ日本は…、という危機感情を持っている。
7.次の総選挙までの小沢代表の役割とは?
Q 次の総選挙(たぶん3年後)までには、国民の声を反映して新しい政治勢力、非自民の勢力を作りたいと表明されたが、そのために、どのような役割を果たすつもりか?
A 私が主導するとメディアは良いことは言わず、必ず妨害しようということになるので、私は「善意の第三者」として、一所懸命協力していくという立場でやっていきたい。
8.民主党を離党して、後悔はしていないのか?
Q 野党が分散したことを残念に思っているが、民主党を出た小沢代表は、離党を後悔していないのか?
A あなたの前提としての認識は間違っている。私が(仮に)民主党に(残って)いたとしても、(昨年12月の総選挙で)民主党が勝ったということは、あり得なかったと思う。私の数年前からの活動の経緯、ものの考え方を調べていただければお分かりだと思うが、離党を後悔してはおりません。一つ付け加えれば、民主党の中でも基本的考え方に違いがある。他党の、自民党でも、維新でも、みんなの党でも考え方は(個々の議員で)違う。憲法などの考え方の違いが、同じ党内で混在しているので、これを整理しながら、新しいグループというものが形成されないといけない。
9.改憲、TPP、原発について
Q 【改憲、TPP、原発】基本政策について。
TPPは現在、第18回交渉会議が今月18日から25日までマレーシアで開催中だが、初参加の日本は最後の3日間のみ交渉・協議が許可される予定。
A 憲法とは、国民の生活を守るため、より良くするために、みんなで作ったルールですから、時代が変われば憲法そのものを変えていくということは行われて良い事だと思う。憲法論議を否定する気はない。ただ、安倍さん自民党改憲案のように9条を変えて国防軍を創設し、また97条で「永久の権利」と定められている「基本的人権」、この条項を削るというのは、ほとんどがメインの中身だが、そのために(96条の)三分の二条項を二分の一にするための改憲、というような姑息なやり方については、到底、着いていけないという立場である。
TPP協定への参加は反対。TPP協定の締結は、農漁業の壊滅をもたらす以上に、日本の医療と皆保険制度と雇用を破壊し、日本の文化・伝統と日本人の暮らし・ライフスタイルを壊すので反対である。原発政策は、福島第一原発4基の事故収束の目処すら立っていない現時点での「再稼働は反対」。廃炉とエネルギー転換政策を提唱する。核のゴミ処理問題も解決不可能で貯まる一方なので、「新たな原発建設に反対」。自民党が熱心に推進、安倍首相が自らトップセールスしている「海外輸出」にも、もちろん反対である。
TPPについては、これは単なる関税交渉ではなく、アメリカ人の言う、いわゆる「構造協議の延長線上」のもの。医療の問題であれ、雇用の問題であれ、あるいは企業活動のやり方にせよ、全般的な社会活動のルールをアメリカ流に直したい、というのが彼らの意図だと思う。
アメリカ側が、そういう意図を持つこと自体は自由だが、そのアメリカの主張に対して、しっかり反論できる日本政府の体制になっていないので、そういう意味で非常に心配し、今、参加することには反対している。
原発については、福島(第一原発)の事故をいい機会として、決別すべきだと思う。事故が起きなくても、(核廃棄物の)最終処理は世界各国とも、その解決策を全く見出していない。日本としては、これ以上、日本人の生命、生活を脅かすことが無いように、それを防ぐために、また世界中の人々に迷惑をかけないように、原発事故の処理に全力を注ぐべきだ。日本は、電力でも、ドイツと違って十分な供給能力を持っている。2年以上、原発が止まっているが、何ら支障はきたしていない。今後、原発と同じように、積極的に新しいエネルギーの開発に投資すれば、何も、エネルギー面での心配はないと思っている。
10.アベノミクスと今後の問題について
Q アベノミクスについて、どうお考えか?安倍首相の政策で、今後、一年、二年どのような問題が出てくると思うか?たとえば、保守的な人たちが「強い日本」を主張するのでは?
A 「アベノミクス」と、特に日本のメディアがもてはやしているので、なんとなく期待感が出ているのは事実。このメインの政策は、日銀による大量の国債買い入れと、金融緩和といわれているが、これによって国民のどれだけの人が得をしたのか、非常に疑わしいと思う。
一部の方は利益を得たかもしれないが、大多数に(とって)は、例えば金融緩和といっても長期金利は上がり、住宅ローンは上がっている。また、円が安くなって、いったい誰が得をしたのか?輸出を主体とする企業であって、円安は庶民生活を直撃して物価高となっている。
これからも、この状況を続ければ、アベノミクスには実態が無いゆえに、結果としての物価高、庶民の生活の圧迫という形になって悪影響をもたらし、経済的な面で非常に行きづまり、不安定になると思う。
11.安倍さんの「右寄り、全体主義的な思想・言動」と尖閣問題への対応ぶりを危険視する論評も多いが、どうお考えか?
A もう一つ、政治思想的な面について。私は「右、左」と分けるのは好きではないが、右寄りの彼の政治姿勢というのは、国際社会でも信頼を失いかねないし、国内的にも混乱を招く。そういう意味でも、行き詰まると思う。
12.権利ではなく、「義務」を国民に課す自民党の憲法改正案をどう見るか?
Q 安倍首相、自民党が主張する憲法改正について。今まで憲法には「権利」が書かれていたが、改正案では逆に「義務」を国民に課している。これは西洋の者としては、非常な違和感を感じているが。
A 先ほど申し上げました通り、97条の「永久の権利たる基本的人権」の条項を削除する、という事に見られるように、今の自民党、安倍さんの憲法改正は、私には理解できません。