「1強体制」の本格到来を思わせる、安倍自民党の勝ちっぷりである。
自民、公明両党は、非改選とあわせて参院の半数を大きく上回る議席を得た。
昨年の衆院選に続き参院も自公が制したことで、07年の参院選以来、政権の国会運営を左右してきた衆参両院の「ねじれ」は当面、解消する。
同時に、安倍首相はかつての自民一党支配時代をほうふつさせる安定した権力基盤を手にしたことになる。向こう3年は国政選挙はないというのが、政界のもっぱらの見方だ。
この間、ジェットコースターのような変転きわまりない政治が続いた。首相交代は年中行事のようになり、「決められない」が政治の枕詞(まくらことば)になった。
安定した政治のもと、景気回復など山積みになった内政・外交の懸案に腰を据えて取り組んでほしい――。
今回の選挙結果は、そんな切羽詰まった民意の表れといえるだろう。
とはいえ、有権者は日本の針路を丸ごと安倍政権に委ねたわけではない。首相は経済のほかは十分に語らなかったし、投票率も振るわなかった。
■アベノミクスを評価
小泉首相による05年の「郵政解散」以降、衆院選で大勝した政権党が、その次の参院選で過半数を割る逆転劇が繰り返されてきた。
その始まりとなったのが、安倍氏が首相として初めて臨んだ07年参院選での自民党の歴史的大敗だった。
この6年の「負の連鎖」を、今回、安倍政権がみずから断ちきることができたのは、その経済政策「アベノミクス」が、一定の信認を得たからにほかならない。
民主党政権の末期に比べ、株価は5千円ほど高くなった。円安も進み、首相は選挙戦で国内総生産(GDP)がマイナスからプラスに転じた、12年度の公的年金の運用益が過去最高となったと胸を張った。
野党は、賃金が増えていないのに食品の値段が上がっているなどと、アベノミクスの副作用を訴えた。それでも、ひとまずは数字を残した安倍政権に寄せる本格的な景気回復への期待が、声高な批判を打ち消した。
■期待は「両刃の剣」
ただし、この期待は両刃の剣であることを、首相は忘れてはならない。
景気が腰折れしたり副作用が高じたりすれば、失望の矛先はまっすぐに首相へと向かう。
政権の実力が本当に試されるのは、これからなのだ。
中小企業や地方で働く人たちの賃金は上がるのか。消費税率を予定通りに引き上げられるのか。それで医療や介護を安定させられるのか。
いずれも、くらしに直結する課題である。安定政権の強みは、こうした分野でこそ大いに生かしてもらいたい。
一方で、有権者は決して政権にフリーハンドを与えたのではない。与党も含め政治に注ぐ視線は依然厳しい。そのことを首相は肝に銘じるべきだ。
首相は締めくくりの街頭演説で「誇りある国をつくっていくためにも憲法を変えていこう」と改めて持論を強調した。
日本維新の会やみんなの党をあわせて機運が高まれば、やがて改憲も視野に入るという思いなのかもしれない。
だが、朝日新聞の最近の世論調査では、改憲手続きを定めた憲法96条の改正には48%が反対で、賛成の31%を上回った。
連立を組む公明党の山口代表が「憲法改正を争点にするほど(議論が)成熟しなかった」と語ったが、その通りだろう。
首相が意欲を見せる、停止中の原子力発電所の再稼働にも56%の人が反対している。
首相が民意をかえりみず、数を頼みに突き進もうとするなら、破綻(はたん)は目に見えている。衆参のねじれがなくなっても、民意と政権がねじれては元も子もあるまい。誤りなきかじ取りを望みたい。
■野党の再生はあるか
それにしても、つい7カ月前まで政権を担っていた民主党の退潮は目を覆うばかりだ。改選議席は半分を割りこみ、2大政党の一翼の面影はない。
96年の結党以来、「政権交代可能な二大政党制」を意図した制度のもとで野党結集の軸となった。もっとも、こうした党のなりたちが、「政権交代」のほかに党員をたばねる理念や目標を持つことのできない弱点にもつながっていた。下野から半年あまりたったいまも、この弱みは克服できないままだ。
昨年の国政進出で民主党に迫る勢いをみせた日本維新の会もまた、橋下徹大阪市長の一枚看板に頼らざるを得ないもろさをあらわにした。
野党の自壊といっていい。
自公両党は、憲法改正をのぞけば「補完勢力」など必要としない状況にある。
しばらくは続きそうな1強体制に、野党はただ埋没するだけなのか、それとも再生に歩み出すのか。
野党だけの問題ではない。日本の民主主義が機能するかどうかが、そこにかかっている。