原発再稼働を聞く:「脱原発」相当の覚悟必要 寺島実郎・日本総合研究所理事長
毎日新聞 2013年07月16日 東京朝刊
−−原発再稼働に向けた手続きが始まりましたが、原発を将来も使うかどうかなど国のエネルギー戦略は示されないままです。
◆エネルギー戦略を考える際の前提として、世界の原子力情勢に対する正しい認識が必要だ。2006年以降、東芝が米ウェスチングハウス社を買収し、日立製作所が米ゼネラル・エレクトリック(GE)と合弁会社を設立するなど、日米は「原子力共同体」の関係を築いた。世界の非核化を目指すと同時に原子力技術で指導的立場を保ちたいオバマ米政権にとって、日本の原子力産業は必要不可欠な存在だ。日本が自国の判断だけで脱原発に向かうのは現実問題として無理がある。原子力は軍事(核兵器)と民生(原発)とが表裏一体の関係。米国の核の傘に守られながら、日本が脱原発を唱えることは「甘えの構造」と言える。「原発ゼロ」を選ぶなら(日米同盟関係の変化も辞さない)相当の覚悟が必要だ。
−−日本の原発政策をめぐる議論は、国際情勢の視点を欠いているということですか?
◆新興国では原発の利用が広がっている。中国が中長期的に原発80基・発電能力8000万キロワット体制を目指しているほか、韓国や台湾も原発新設に動いている。20年後の東アジアでは100基以上の原発が稼働する。日本が原子力の技術基盤を平和利用に徹して維持することは国策として重要だ。日本の脱原発機運の間隙(かんげき)を突いて、習近平体制の中国は米国との間で(ウランよりも埋蔵量が豊富で核廃棄物の排出量が少ないとされる)トリウムを燃料にした次世代原発の共同開発に向けた研究を始めている。国際的なエネルギー地政学の変化を見誤ると、日本は孤立する。
−−日本の原発政策はどうあるべきだと考えますか?
◆国際原子力機関(IAEA)などで核廃絶を訴えるにも素人の議論では説得力がなく、原子力に関するトップレベルの技術基盤が必要だ。(チェルノブイリ原発事故などで)安全性の考え方が飛躍的に高まった1990年代以降に建設された国内の原発(20基、計約2000万キロワット)は、原子力規制委員会の新規制基準をクリアする可能性がある。安全性の高い原発を再稼働させて国内電力の15〜20%程度を賄いつつ、優秀な技術者を育成していくのが現実的だ。
−−安倍政権は原発輸出にも積極的です。