琴奨菊に敗れ11勝4敗に終わり、土俵に一礼し引き揚げる稀勢の里(梅田竜一撮影)
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◇名古屋場所<千秋楽>
大関稀勢の里(27)=鳴戸=は大関琴奨菊に寄り切られて4敗目を喫し、来場所に綱とりをつなげる条件となっていた12勝に届かなかった。横綱対決は日馬富士(29)=伊勢ケ浜=が白鵬を押し出し10勝5敗とした。既に3場所連続26度目の優勝を決めていた白鵬は13勝2敗で終えた。1横綱、2大関を破った高安が初の殊勲賞を受賞。八百長問題での解雇をめぐる法廷闘争を経て2年半ぶりに復帰した蒼国来は6勝9敗。新十両優勝の遠藤(22)=追手風=は14勝し、昭和以降最速となる所要3場所での新入幕を濃厚とした。秋場所は9月15日から東京・両国国技館で始まる。
和製横綱の誕生を願う日本中の夢や希望が吹っ飛んだ。稀勢の里が琴奨菊に寄られ、土俵下まで落とされた直後、館内には悲鳴と罵声(ばせい)が充満。絶望感から勝者を祝福する拍手もほとんど起こらなかった。
勝てば秋場所に綱とりがつながる大事な一番。しかし、前日は白鵬を撃破した強く、たくましい稀勢の里は別人になっていた。取組前、北の湖理事長(元横綱)は「目つきにギラギラしたものを感じない」とつぶやいた。その不安が的中。プレッシャーに押しつぶされ、琴奨菊に先に左を差されて右上手もつかまれ、一気に後退。左でおっつけて抵抗するが、先場所の千秋楽同様に敗れ、綱とり継続が絶望的となる4敗目を喫した。
花道を引き揚げ、通路のテレビモニターで取組を見届けると、指のテーピングを丸めて足元に投げ付け、もどかしさを表現した。支度部屋に戻っても頭の中で気持ちが整理できず、報道陣の質問に対して一切無言。「はあ、クソッ」と吐き捨てて腕を組み、ただうなだれた。時折、舌打ちをしながら「うーん…」と首をかしげ、右手で目尻を押さえた。その瞳はうっすらと潤んでいた。
北の湖理事長は「稀勢の里は突っ張っても右で抱え込む癖がある。琴奨菊は知っていて、そこを突かれた」と分析。注目される綱とり継続については「つながる、つながらないにはムードがある。審判部の意見もある。横綱を狙える大関だと思うが、次の成績次第で九州につながっていく」と事実上、振り出しに戻ったことを認めた。
攻めれば強いが、守りに入るともろい。また、ここ一番での弱さを見せてしまった稀勢の里。この日の朝稽古後には「あの時があったから、と言えるようになればいい」と話したが、悔しさを糧に、いつか笑える日はやってくるだろうか。 (竹尾和久)
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