社説
参院選、自民圧勝/ねじれ解消、熟議に生かせ
「決められない国会」と因果の関係で語られてきた「ねじれ国会」が解消した。 きのう投開票が行われた第23回参院選で自民党が大勝。連立を組む公明党を加えた与党は過半数を大きく上回り、6年ぶりに衆参両院の多数派が一致する状況を回復した。 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」をはじめ、昨年12月に政権に復帰してからの実績を、有権者がひとまず評価するとともに、政治の安定を求めた結果とみることができよう。 投票率の伸び悩みが組織力に勝る自民党に有利に働き、選挙区選挙では野党候補の票の奪い合いに助けられた側面もある。 小選挙区制導入以降、衆院選と参院選の連勝は初めて。政権は安定感を増し、政策の決定、推進の力強い支えを得たことになる。 ねじれの解消で「政権交代の完結」を成し遂げた安倍首相は、今後の政権運営へ確かな手応えを感じているに違いない。 ただ、先行きを楽観視できず、対応はむしろ難しくなったと受け止めるべきかもしれない。 多くの難題を抱える一方、決められる環境が整って、先送りしづらくなった。派閥の要求を抑えて党の結束力を維持し、自公間の公約の隔たりを埋める調整にも苦慮すると思われる。 政権運営における謙虚さと、政策推進における慎重さを欠けば、支持は揺らぐことになる。 政策面では成長戦略の実効性が早々問われよう。デフレ脱却との関連で、今秋には来年4月から現行5%の消費税率を8%に引き上げる最終決断を迫られる。 自民党は圧勝したとはいえ、全権委任を受けたわけではない。 安倍首相は原発の再稼働に前向きだが、共同通信社が選挙中に行った世論調査で、反対は過半数に上った。深入りせず争点化を巧みに避けて選挙戦を乗り切った。違和感を抱えながら、他の政策を優先して、1票を投じた有権者も少なくなかったはずだ。 憲法改正でも、意欲を示す安倍首相と、切実感に乏しい有権者の間には距離がある。政権が実現したい公約と、有権者が優先的に取り組んでほしい政策との「ねじれ」が表面化するようならば早晩、期待が失望に変わるだろう。 自民党のスローガン「日本を、取り戻す。」が指す日本の姿も容易に像を結ばない。改憲など保守的な「安倍カラー」を強める前に、民意のありかを見極めて政策の手順を踏む必要がある。 野党は共産党が善戦したが、民主党が大敗を喫し、王国を誇った宮城でも議席を失った。みんなの党、日本維新の会も伸び悩んだ。 圧倒的な与党優位の状況下でも、野党は論戦を挑む気概をなえさせてはいけない。堂々と対案を示し建設的議論を深めることなしに、求心力の回復はあり得ない。 環太平洋連携協定(TPP)の厳しい交渉が目の前にある。尖閣諸島問題や歴史認識をめぐり深い溝ができた中国、韓国との関係修復も控える。 震災復興も急務で、その加速に向けて各党は知恵を競い合ってほしい。選挙制度や社会保障制度の改革も先送りできず、党利党略で混乱する余裕はない。 与党の公約を、国民大半の共感を得た確かな政策に仕上げるためには、広範で深い議論が要る。 先々、野党を中心とする政界再編や改憲をもにらんだ政権の枠組み変更もあり得ようが、向こう3年、国政選挙が行われない可能性がある。ここは「熟議の国会」を取り戻す好機である。ねじれ解消を、その契機にと願う。
2013年07月22日月曜日
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