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同和行政監視メールマガジンvol.56
[発行:寺園敦史★2001年1月29日]
■今号のもくじ
◎膨大な「アウトサイダー」をうみだした同和行政
――改良(市営)住宅長期家賃滞納者の14%が市職員
表1 改良住宅等家賃滞納状況(1999年度決算)
表2 京都市職員の改良住宅等家賃滞納状況(1999年度決算)
表3 改良住宅等高額滞納者リスト(1999年度決算)
◎注――住宅地区改良法
◎膨大な「アウトサイダー」をうみだした同和行政
――改良(市営)住宅長期家賃滞納者の14%が市職員
今の同和行政は,同和地区住民の何かの役に立っているのだろうか。そう考えざるを得ないいくつかの事実がある。膨大な数に上る京都市の改良住宅家賃滞納者の存在もその一つだ。改良住宅とは,住宅地区改良法(注参照)にもとづき建設された公営住宅で,京都市の場合,事実上同和対策事業の柱としてつくられてきた市営住宅である。
本誌で,以前家賃滞納問題を取り上げたが(「マリード」26号〔2000年3月9日〕「幾重にもねじれた『差別行政』――改良住宅家賃滞納問題」),昨年11月の議会で,共産党議員団の追及で京都市都市計画局が公表した資料をみると,実態は想像以上にひどいことがわかった。
市都市計画局によると,改良住宅家賃の累積未集金額は1999年度決算で3億6845万3000円,99年度1年間だけで6314万9000円にのぼる。滞納件数は1396件。滞納月数の最高は257か月(21年以上),120か月(10年)以上の滞納も275件ある。
民間のアパート,マンションなら,2か月も払いが滞れば追い出されてしまうだろう。公営住宅でも当人によっぽどの事情があったとしても,1年以上も滞納すれば,当然市から「明け渡し」を求めて法的措置を取られ,訴訟後も居座り続ける場合には強制執行,つまり力づくでたたき出されてしまう。だが,改良住宅の場合,京都市は何百か月家賃を踏み倒そうが,だれ一人として「明け渡し」を要求されたものはいない。
だが,以上のことだけなら,前記「マリード」26号で報告済みのことである。今日ここで問題にしたいのは,長期滞納者の中に,大量の京都市職員がふくまれているという途方もない事実だ。市職員が市営住宅の家賃を何十か月にもわたって払っていないとは…。わたしはもう何年も同和行政の取材を続けており,少々のことでは驚かないつもりでいたが,今回ばかりはがく然とさせられた。
市都市計画局作成の資料によると,3か月以上の滞納者は全改良住宅で1107人だが,そのうち153人,じつに13・8%が京都市職員なのである。一瞬何かのまちがいではないかと思ったが,そうではなかった。1年以上の滞納者が111人,10年以上が24人もいる。そして,全改良住宅高額滞納者の上位3人も市職員が独占しているのである。(別項の表参照)
京都市の改良住宅家賃は,2000年度から「応能応益」制度(世帯の収入と住居の質,利便性によって家賃が決まる制度)が段階的導入され,多少値上がりしている。しかし,1999年度決算時は,同制度導入前だ。したがって,改良住宅の家賃は,安いところでは月額数千円,高くても2万数千円にしかならない。これを,市職員が何か月も滞納しているということは,払う気がない,払う必要がないとでも考えているのだろう。
なお,京都市職員には,毎月住宅(住居)手当が支給されている。扶養家族がいる場合は1万1500円,いない場合でも1万500円。当然滞納している職員にも支払われているはずだ。手当の支給対象者は「居住する住居に係る費用を負担していると認められるもの」(京都市職員給与条例9条3)となっている。つまり家賃を払っていない市職員は,住宅手当を違法に取得していることになる。それだけでも年間数千万円もの税金が,むだに使われているのである。
関係者によると,かつて区役所の納税関係部署の窓口業務をしていた職員が,じつは長期滞納者だったという馬鹿げた事例もあるという。市民から徴税する仕事につき,みずからは市に家賃を払わない。まったく市民を愚ろうする話ではないか。
正当な理由がないのに,長期にわたって滞納している入居者には,法的措置に訴えてでも出ていってもらう。市民の財産を管理する行政なら当然のことである。滞納者がもし市職員なら,他の入居者以上の厳しい措置を取る。このことにたいして,どこからも文句は出ないはずだ。
この件に関し,京都市都市計画局住環境整備室管理指導課長は,わたしの取材にたいし,次のようにいう。
「滞納者のなかに市職員がかなり含まれていることは以前から認識していました。公務員倫理に反したいへん由々しき問題だと思っています。現在は室としても独自の取り組みをしているし,当該職員の上司が,特別な生活指導をするよう全庁的な対策体制をとって取り組んでいるところです」
また,同課長によると,市職員に限らず,今後,悪質長期家賃滞納者には,明け渡しを求めて法的措置を取るなど,これまでの方針を転換し,きびしく取り立てていくことにしているという。
それにしても大の大人153人にたいして,家賃をちゃんと払いなさいと,上司が「生活指導」しなければならないとは,いったいぜんたい,京都市役所はどうなっているのか。まじめに納めている他の改良住宅入居者を侮辱しているようなものである。
家賃を払わずに居座り続ける住民こそ,まず第1に批判されるべきだが,こうも悪化するまで放置した行政の責任は重いと思う。この現実は,昨日今日うまれたものではなく,長年にわたる無責任行政反復の結果であり,現在の担当者を批判するのは酷なことかもしれない。また,そのときどきの行政担当者にしても,同和地区住民への「支援」「善意」のつもりで,滞納を見逃してケースもあったのかもしれない。
だからといって,法律を破り続ける住民(市職員)へのこの特別扱いが,このまま許されていいはずがない。それはたんに巨額の未集金家賃により,市民に甚大な損害を与えていることだけではなく,家賃を払わない大量の住民=「アウトサイダー」というべき一群をつくりだした点においても,責任が問われるべきだろう。
付け加えると,こういう「アンタッチャブル」な扱いに,おとなしく甘んじていた,もしくはこれを「是」としてきた部落解放同盟をはじめとする運動団体の無責任ぶりも批判されるべきだろう。
下記の表1〜3は,京都市都市計画局作成資料から転記したもの。
■表1 改良住宅等家賃滞納状況(1999年度決算)
滞納月数 滞納件数
5か月以下 393
6〜11か月 94
12〜23か月 167
24〜59か月 230
60〜119か月 237
120か月以上 275
―――――――――――――
計 1396
■表2 京都市職員の改良住宅等家賃滞納状況(1999年度決算)
滞納月数 滞納者数
3〜5か月 31
6〜11か月 11
12〜23か月 23
24〜59か月 33
60〜119か月 31
120か月以上 24
――――――――――――――
計 153
■表3 改良住宅等高額滞納者リスト(1999年度決算)
順位 団地名 滞納金額(円) 滞納月数
1 楽只 157万8800 236*
1 楽只 157万8800 236*
3 崇仁 150万1700 231*
4 楽只 142万5800 207
5 三条 141万6100 256
6 田中宮 139万2500 185
7 加賀屋敷 138万8600 250
8 崇仁 137万6200 209
9 崇仁 136万6900 179
10 崇仁 135万1900 176*
11 田中宮 132万3000 169
12 三条 131万8800 184
13 壬生東 131万4500 171
14 山ノ本 126万9000 184
15 三条 123万9300 244
16 楽只 120万1700 171
17 崇仁 118万0000 142
18 崇仁 117万6800 230
19 養正 116万6600 257
20 崇仁 116万5100 168
*は京都市職員
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎注――住宅地区改良法(1960年公布・施行)
兵庫部落問題研究所編『部落問題用語解説〔改訂増補版〕』(同研究
所刊,1995年)より抜粋
一定の基準に該当する地区を「改良地区」として指定し,不良住宅を買収・除去し,街路・公園などの公共施設を設け,環境の整備改善を行なうとともに,これによって住宅を失うことになる人に対しては,地方公共団体が建設する住宅(改良住宅)を供給するというもので,これらの事業実施に要する費用については,国が一定の補助を行なうことになっている。特にこの法律は,制定以来,同和地区の環境改善に関する対策の重要な手段としての役割をはたしている。
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