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【コラム】

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 司馬遼太郎さんは、宮崎アニメのファンだったという。宮崎駿監督と堀田善衛さんとの鼎談(ていだん)『時代の風音』(朝日新聞出版)で、その魅力は風の描き方だと語っている。「風が表現されているので、自分が飛んでいるような気持ちになります」▼ナウシカにラピュタ、となりのトトロ…。確かに宮崎監督の映画には、時に柔らかく緑を揺らし、時に猛々(たけだけ)しく掠(さら)っていくような風が吹いていて、私たちを想像力の空へと軽々と運んでくれる▼きょう公開の新作は『風立ちぬ』。大正から昭和、関東大震災から戦争へと進む時代に、「美しい風のような飛行機を造る」という夢を追った青年の物語だ▼そこには、安易に飛び乗ることを拒むような風も吹いている。あまりに多くの命を奪った時代の、重い風だ。宮崎監督は『時代の風音』で、敬愛してやまない二人の作家に、あの戦争の意味を問い、日本人のありようを聞いている▼戦車部隊の若き将校として終戦を迎えた司馬さんは、部下に「とにかく生きろ」と言ったことを明かしつつ、「自分の作品は、なんでこんなばかな国にうまれたのかと思った二十二歳の自分への手紙」だと語る。堀田さんも「私も完全に同じ」と応じる▼『風立ちぬ』は、一九四一年生まれの宮崎監督が記した自分への手紙なのかもしれない。それは「不安な時代」を生きる人への手紙とも、読める。

 

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