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日本IBM、加速するリストラの実態 突然呼び出し即日解雇、組合活動で査定不利…

Business Journal 7月18日(木)4時9分配信

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日本IBM、加速するリストラの実態 突然呼び出し即日解雇、組合活動で査定不利…

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日本IBM、加速するリストラの実態 突然呼び出し即日解雇、組合活動で査定不利…
日本IBM本社(「Wikipedia」より)

 自民党・安倍晋三内閣は、雇用改革として「成熟産業から成長産業への“失業なき労働移動”」「“多様な正社員”モデルの確立」というスローガンを掲げている。そして、成熟産業から成長産業への労働移動が進まないのは、企業に対する解雇規制が厳しいためだとして、その規制を緩和する政策が、政府の諮問機関である産業競争力会議を中心に議論されてきた。

 解雇規制とは、労働者の解雇(会社による雇用契約の解除)を規制するもので、労働契約法によって、合理的理由と社会的相当性がない解雇は無効になると定められている。常識的に見て、「これでは解雇されて仕方がない」と認められる理由がなければ、解雇してはいけないというのだ。このルールを守っていては解雇が難しいということで、「金銭によって解雇を可能にする仕組みのルール化」などが、安倍内閣の産業競争力会議で議論されている。

 解雇規制の緩和については、識者の間でも賛否両論が分かれている。賛成派からは、正社員を解雇しやすくなれば、怠けている中高年正社員が解雇されるかわりに、彼らの雇用維持で割を食っていた若年層や非正規社員が「空いた席」に座れ、雇用が改善するという意見が挙がっている。

 その一方、反対派からは、日本の解雇規制は国際的に見て今でも緩く、これ以上緩めれば失業が増えるだけでなく、労働者が解雇の恐怖からものが言いにくくなり、ブラック企業がはびこりかねないという懸念が指摘されている。

 では、実際に解雇規制が緩まると、どうなるのか? 会社のお荷物になっているダメ社員をさっさと追い出せればせいせいするし、生産性が上がる……。そんな衝動に駆られる経営者が少なくないからなのか、経済界には規制緩和を支持する声が多い中、緩和反対派の懸念がまさに現実のものとなりかねない事態が、ある企業で起こっている。

 その企業とは、日本IBM。同社の雇用問題については、すでに数多く報じられているが、今回改めてその実情を見てみよう。

 日本IBMは今、解雇規制緩和反対派の懸念を先取りするかのような、会社が辞めさせたい社員をすぐに会社から叩き出すロックアウト解雇に揺れている。同社の終業時間(定時)は、午後5時36分。同社社員らによると、ロックアウト解雇の通告は決まって午後5時頃の呼び出しから始まる。6月12日付で解雇された女性社員Aさん(45)の場合もそうだった。

 Aさんは5月31日午後5時、担当業務の進捗報告のために会議室に呼び出され、直属の上司に報告していると、別の上司とHRパートナー(人事部)が突然入ってきて、唐突に「解雇予告通知」を読み始めた。

「貴殿は、業績が低い状態が続いており、その間、会社は職掌や担当範囲の変更を試みたにもかかわらず業績の改善がなされず、会社はもはやこの状態を放っておくことができないと判断しました」

 彼女は、ほかの社員との会話を禁じられ、定時までに急いで荷物をまとめ、長年働いた職場を去らなければならなかった。仕事の引き継ぎどころか、苦楽を共にしてきた同僚たちへの挨拶さえできずに。

 Aさんは有名私大を卒業後、日本IBMに正社員として入社し、2003年からはアウトソーシングの営業を支援する部署で働いていた。彼女は「プロジェクトをいくつか同時に持っていて、日常業務もこなしていました。わずか数行の紙キレで解雇されるいわれはありません」と悔しさを隠せない。

 日本IBMには、全日本金属情報機器労働組合(JMIU)に所属する労働組合、JMIU日本アイ・ビー・エム支部がある(以下、組合)。組合の大岡義久委員長は、次のように説明する。

「会社の主張するAさんの解雇理由は、とても納得できるものではありません。なぜなら、昨年7月に始まった一連の解雇で、会社が振りかざす解雇理由がほとんど同じ文言で、その人ごとの具体的な事情や理由がまったく書かれていないからです」

 数多くの解雇問題に取り組み、Aさんらが起こした解雇撤回(地位確認)裁判の弁護団にも所属する並木陽介弁護士も、「こんなやり方は見たことも聞いたこともない」と驚く。

 Aさんの事例のほかにも、日本IBMは社員の権利として認められている労働組合の活動を攻撃する、労働組合法にふれる行為を行っていた疑惑も持たれている。

 26年間日本IBMに勤めていたBさんは、昨年9月20日、Aさんと同様に突然上司から呼び出され、解雇を告げられた。そして、Bさんが解雇撤回を求め会社を訴えた裁判の第1回口頭弁論(同12月21日)の意見陳述で、「Uの話」を明かすと、法廷内にはどよめきも起きた。

 意見陳述によれば、Bさんは以前、上司から親指と人さし指で「U」のかたちをつくって見せられ、「これだろ?」と質問され、「Uですか。ユニオン、組合のことですね?」と答えると、「活動やっているのか」「これ(U)はよくない」と言葉を重ねられた、という。別の上司も「組合に入っていると不利な査定がなされるという事実を知っていますか」と迫ったという。

 こうした言動の詳細、さらに今回の解雇との関連は現時点では不明だが、組合差別が解雇の理由なら、労働組合法に違反する不当労働行為になる」とベテラン労働弁護士は解説する。ちなみに、日本IBMは組合員も対象に含むロックアウト型解雇について組合との団体交渉を正当な理由なく行わなかったとして、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てられている。

●突然の解雇横行と給与の減額

 会社が「あなたはいらない」と告げたら、理由もわからないまま放り出され、失業者になってしまう……。こうした悪夢のような日本IBMの行為は、昨年7月から昨年解雇された人のうち3人が10月に東京地裁に提訴したところ、いったん止まったが、今年5月から解雇が再開された。

 このロックアウト解雇横行の背景には、昨年5月にマーティン・イエッター氏が社長に就任したことがあると見られている。ドイツIBM社長としてリストラを断行し「コストカッター」の異名を取った「IBMのエース」(関係者)を、黒字ではあるものの経営が振るわない日本に投入したのだ。

「コストカッター」は解雇を再開する直前の5月15日、「パーソナル・リーダーシップを通じた、さらなる変革の推進について」という社員向けビデオメッセージを発した。

 筆者が入手したメッセージの訳文によれば、イエッター社長は「皆さん一人一人に、業界で最高の人財となるための自己啓発にまい進することが求められ、日本IBMはそれを支援します」といった美辞麗句を振りまきながら、具体的には「貢献の低かった社員」らに対する「給与の減額調整」と「借り上げ住宅の廃止」を打ち出している。

「減給が自己啓発につながる」という理屈がよくわからないのだが、日本IBMではPBC評価という名の人事評価を毎年行っている。評価は「1」「2+」「2」「3」「4」という5段階の相対評価だ。今回の減給措置は、この評価が最低の「4」になったら15%、「3」なら10%、「3」以下が2年続いたら15%給与を下げるというものである。

 減給は月々の基本給にも及び、しかも1回限りではない。イエッター社長は、「今後も業績に基づく給与プログラムを継続」すると明言、最悪のケースでは、給与が毎年15%ずつ下がる恐れさえ否定できない。

 日本IBMの実情に加え、成果主義賃金の問題にも詳しいJMIU東京地方本部の小泉隆一書記長は、次のように話す。

「人事評価が『4』に分類されたら最後、解雇されるか、会社に残っても容赦ない減給に遭うか。去るも地獄、残るも地獄ですよ」

 以上のように、日本IBM内で急速に解雇や給与の減額が進む背景には、「米IBMで初の女性トップとなった社長兼最高経営責任者(CEO)のジニー・ロメッティ氏が発した、『全世界で8000人の削減』という号令があると見られています」(IBM関係者)。

 日本IBMの中堅社員は、「新興国市場の開拓に注力するIBMは、インドや中国では雇用を増やしているので、狙われているのは日本などの成熟国だと思います。すでに、客先の情報システムの運用を丸請けするアウトソーシング・サービスでは、要員を日本から中国やインドに切り替えつつあります」と明かす。

 グローバル企業・IBM内で進む、こうした世界規模でヒト、モノ、カネを最も安い市場から調達しようとする波は、IT産業で働く人たちだけの問題ではなく、日本で働くすべての人々に、押し寄せようとしている。

 そして安倍内閣のブレーンの間でも、「世界の潮流に乗り、高コストな日本の人材からアジアなどの安い人材にシフトさせるため、雇用規制も保護も取っ払って、企業はどんどん儲けよう」という意図が垣間見える議論が勇ましい。解雇規制緩和の議論も、その一環だ。例えば、産業競争力会議の第4回会議で、民間議員の一人に新浪剛史・ローソン社長は「人材の過剰在庫は存在する」との認識を示した上で、こんな持論を述べている。

「勤務態度が著しく悪く、または結果を著しく出せていない社員はほかの社員に対して迷惑をかけている。(略)(彼らの)解雇が会社として検討しやすくなる。(解雇規制緩和を)是非今後検討していただきたい」

 生身の人間を「在庫」扱いしていいのか? 安倍内閣が目指す雇用改革の基礎には、こんな短絡的な発想が見え隠れするのだが、それを先取りするのが日本IBMなのだ。

 日本経済新聞電子版(2012年6月4日)によれば、ロメッティ氏は米IBMのCEOに就任早々、「日本の労働法制、解雇法制がどうなっているのか調査しろ」と社内に指示を出したという。その結果が、日本IBMの一連の解雇だとすれば、日本の労働法制もずいぶん見くびられたものだ。
   
 前出の並木弁護士は言う。

「『人が動く』と称し、解雇しやすいジョブ型正社員を導入したり、解雇の金銭解決を検討する。日本IBMの動きは、そうした『安倍成長戦略の毒味役』なんです」

 ちなみに、「毒味役」とは、人事制度の改革に取り組んだ日本IBMの大歳卓麻元社長が、ある雑誌インタビューで「日本IBMは日本の人事制度の毒味役になる」という文脈で使った言葉だ。

北健一/ジャーナリスト

最終更新:7月18日(木)4時9分

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