特集ワイド:追悼・なだいなださん 人間、とりあえず主義
毎日新聞 2013年06月17日 東京夕刊
◇「くねくね道」の83年 「強い国」路線に反発
「老人党」を提唱したユーモアあふれる反骨の人、作家で精神科医のなだいなださんが亡くなった。享年83。安倍晋三首相率いる自民党の「強い国」路線が気にくわず、死の間際まで「賢い国」をスローガンに中小の政党よ、団結せよ!と訴えていた。【鈴木琢磨】
鎌倉の名刹(めいさつ)・円覚寺にほど近いなださん宅を、小さな出版社「青萌(せいほう)堂」社長の尾嶋四朗さん(65)が刷り上がったばかりの本を携えて訪ねたのは2日の昼下がりだった。
タイトルは「とりあえず今日を生き、明日もまた今日を生きよう」。表紙は曲がりくねった小道の絵。「『人生はくねくね道』が先生のモットーでしたから。自らを励まそうとしてか、巻末に『あと33冊準備中』と入れておいて、と頼まれ、そうしたんです。でも、サインをお願いしたら字が震えて……」。新刊を手にして間もない6日未明、ブログに<きつい一日>と書き込み、その夜、長い長いくねくね道の旅を終えた。
2年前に前立腺がんを発症し、手術不可能と告知されたのに続き、最近膵臓(すいぞう)がんも見つかり、放射線治療に通いつつ執筆を続けた。つらいはずなのに筆はさえていた。1日夜には東京・恵比寿の日仏会館でライフワークにしていた「日本人の<常識>を疑う」講演もした。我慢ならない怒りがあったのだろう。筑摩書房のPR誌「ちくま」3月号のコラム「人間、とりあえず主義」にこう書いた。
<前の選挙の時、「賢い国」という選挙スローガンを売りに出したが、どこの政党も買ってくれなかった。社民党か共産党あたりが買ってくれるのではないかと期待していたが、どちらからも、申し出がなかった。残念だった。自民のスローガン「強い国」に対抗できるのは、これしかない。(略)小選挙区での選挙は、野党が分立していたら、大きい党の思う壺(つぼ)だ。主張の異なる中小の党をひとつにまとめられるような、哲学を持つに越したことはないが、それが難しいなら、せめては共通に持てるようなスローガンが必要だ。「賢い国」は適当に曖昧で、それ故に抵抗感なく受け入れられる。中小の政党をひとつにまとめうるスローガンだ。意見はいろいろあるが一つにまとまれるのは賢いことだ。そして賢い国民は賢い政党を選ぶ>