ニュートリノ 日米欧で重要発見7月19日 22時2分
物質を構成する基本的な粒子である「ニュートリノ」を、茨城県の実験施設から発射し、およそ300キロ離れた岐阜県で観測した4年がかりの実験の結果、「ニュートリノ」の細かい特徴をつかむことに、日米欧の研究グループが成功しました。
専門家は、宇宙の成り立ちの解明につながる重要な発見だと評価しています。
この実験は、日本やアメリカ、それにイギリスなど世界の11か国、およそ500人の研究者で作る国際的なグループが、日本国内で4年前から行ってきました。
茨城県東海村にある実験施設、「J-PARC」から大量のニュートリノを発射し、およそ300キロ離れた岐阜県飛騨市にある実験施設、「スーパーカミオカンデ」で観測しました。
その結果、発射したときに「ミュー型」という型だったニュートリノが、一定の割合で、「電子型」という別の型のニュートリノに変化する現象を世界で初めて正確に捉え、謎に包まれていたニュートリノの細かい特徴が明らかになったということです。
現在、宇宙の成り立ちを解明するための大きな課題は、137億年前のビッグバンの直後に生まれた「物質」と、その反対の性質を持った「反物質」のうち、なぜ、「物質」だけが残ったかということです。
今回の研究成果は「物質」の基本的な粒子である「ニュートリノ」の特徴を明らかにした重要な発見で、今後は、その反物質である反ニュートリノを調べることで宇宙の謎の解明に迫ることになります。
研究グループの取りまとめ役の1人で、高エネルギー加速器研究機構の小林隆教授は、「物質に関する究極の法則がどういうものなのかを解明する上で、最初のステップを踏み出すことができた」と話しています。
また、ニュートリノ研究に詳しい東京大学の村山斉教授は、「私たちはどうしてこの宇宙に存在するのか、大きな謎を解くための重要な発見だ。ニュートリノは、ビッグバン直後の宇宙で、反物質が消え、物質だけが残ることに大きな役割を果たした可能性があると考えられ、今後の実験に期待したい」と話しています。
宇宙の謎解明に
今回の研究成果は、物質を構成する基本的な粒子である「ニュートリノ」の、これまで分かっていなかった特徴をつかんだ重要な発見で、専門家は「私たちがどうしてこの宇宙に存在するのか、謎を解くためのスタートラインに立つことができた」と話しています。
ニュートリノは物質を構成する最も基本的な粒子、素粒子です。
直径が1ミリの1000兆分の1以下と極めて小さく、どんな物質もすり抜けてしまうため、観測するのは極めて困難です。
今回、日米欧の研究グループが行った実験では、容積が5万立方メートルあるスーパーカミオカンデという観測施設に、1日に300億個ほどのニュートリノが到達しましたが、施設を素通りせずに観測できたのは、1日に1個程度に過ぎませんでした。
こうした観測の難しさから、ニュートリノの性質については、今も分からないことが多く、解明が進めば宇宙誕生の謎に迫ることができると考えられています。
その謎というのが、137億年前、「ビッグバン」が起きて宇宙が誕生したとき、同じ数だけできたと思われた「物質」と、その反対の性質を持つ「反物質」のうち、「物質」だけで今の宇宙ができているということです。
2008年にノーベル物理学賞を受賞した小林誠さんと益川俊英さんは、これに1つの答えを出しました。
2人が唱えた「小林・益川理論」は、素粒子のうち、クオークと呼ばれる種類については、反物質より物質の方が多くなることを解明してみせたのです。
しかし、ニュートリノについては謎が残され、これを解くためには、ニュートリノとその反物質の特徴を比べることが必要でした。
そうしたなか、今回の研究はまず、ニュートリノの側の特徴を明らかにしたわけで、今後の焦点は、ニュートリノの反物質の特徴を突き止める実験に移っていきます。
ニュートリノ研究に詳しい東京大学の村山斉教授は「今回の発見で、私たちはどうしてこの宇宙に存在するのか、大きな謎を解くためのスタートラインに立つことができた。ニュートリノは、物質と反物質のバランスを崩す一番有力な候補と考えられていて、今後の実験に期待したい」と話しています。
ニュートリノの実験施設
今回の実験は、茨城県の実験施設から発射した素粒子を、およそ300キロ離れた岐阜県で観測するという、大がかりなスケールで行われました。
実験の拠点となったのは、茨城県東海村の「J-PARC」と、岐阜県飛騨市の「スーパーカミオカンデ」です。
このうち、茨城県の「J-PARC」は、世界で最も強い素粒子のビームを作り出せる大型の加速器で、ここで大量のニュートリノを作って発射します。
一方の「スーパーカミオカンデ」は、地下1000メートルに、直径と高さがそれぞれ40メートルほどの円筒形のタンクを設置した巨大な実験装置で、タンクの中には5万トンの水が蓄えられています。
ニュートリノがタンクの水と衝突する際に出すごく僅かな光を詳しく調べることで、ニュートリノを観測します。
実験では、「J-PARC」から「ミュー型」と呼ばれるニュートリノを発射し、それが1000分の1秒後にスーパーカミオカンデに到達するとき、「電子型」という別の型に変化する現象を観測しました。
実験は4年前、2009年に始まり、東日本大震災による中断などを挟みながら、ことし4月まで断続的に行われました。
研究グループは、今後も実験を続け、さらにデータを蓄積したいとしていますが、「J-PARC」では、ことし5月に放射能漏れ事故が起きて実験は中断されていて、再開の見通しはたっていません。
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