「流動」か「安定」か 参院選、雇用規制改革が争点に
河北新報 7月19日(金)6時10分配信
参院選(21日投開票)で、安倍政権が成長戦略に盛り込む雇用規制改革が争点に浮上している。成熟分野から成長分野への転職を促す自民党に対し、民主党など野党は雇用維持を重視し、規制緩和に異議を唱える。「流動」か「安定」か。東日本大震災の被災で雇用確保は復興の鍵を握るだけに、労使ともに論戦の行方を注視する。
<「非正規」38%>
仙台市宮城野区の契約社員の女性(25)は新しい職を探すため、2カ月前から仙台公共職業安定所に通う。8月末で勤め先の契約期間が切れるからだ。
正社員の事務職を希望するが、「経験者のみ採用」といった条件があってなかなか見つからない。女性は「安心して働けない今の状況はつらい」とうつむく。
総務省が12日発表した2012年の調査によると、雇用者全体に占める非正規労働者の割合は過去最高の38.2%。若者を中心とした不安定な雇用の拡大は大きな社会問題になっている。
打開策の目玉として安倍政権が打ち出したのが限定正社員の普及。6月にまとめた成長戦略に、解雇条件を含む雇用ルールを14年度中に整備する方針を盛り込んだ。
限定正社員は、勤務地や職種、勤務時間を限定することで給与を正社員より低くし、事業所の閉鎖など一定の条件で解雇できる雇用形態だ。辞めさせやすい分、企業が採用に前向きになり、雇用を拡大できるとされる。
<保護策議論を>
弘前大人文学部の李永俊教授(労働経済学)は「被災地を含む地方は若者の流出に悩んでいる。雇用形態の多様化で枠を広げる取り組みは重要だ」と評価。その上で「解雇に対する保護策が議論されないのは大きな問題だ」と指摘する。
雇用規制改革では、金銭解決型の解雇ルールの導入も、政府の産業競争力会議や規制改革会議で議論されている。みんなの党と日本維新の会も公約に盛り込み、導入に前向きな姿勢をみせる。
両会議の議論の柱は、再就職支援金を支払えば解雇できるルールや、裁判で解雇が無効になった場合に金銭で解決する制度の創設。ともに「社員を辞めさせにくいと、柔軟な経営ができない」との企業側の論理に立つ。
こうした議論に労働界の懸念は強い。連合宮城の山崎透会長は「企業が整理解雇を回避する努力をしなくても、金さえ払えば従業員を辞めさせられるようになる」と批判する。
雇用規制の緩和策に対し、民主や生活、共産、社民の各党はそれぞれ公約で反対を打ち出す。だが、自民党が公約に具体的な主張を盛り込むのを見送った影響もあり、議論が深まる様子はない。
李教授は「雇用の流動性を確保しながら、どうやってセーフティーネット(安全網)を整備するのか。選挙戦の中でしっかり議論してほしい」と注文を付けた。
最終更新:7月19日(金)14時3分