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デトロイト市財政破綻 なぜ?

7月19日 21時15分

芳野創記者

アメリカの自動車産業を象徴する大都市、中西部のデトロイト市が資金繰りに行き詰まり、18日、裁判所に連邦破産法の適用を申請しました。
アメリカの自治体としては史上最大規模の財政破綻です。
アメリカで景気の回復と自動車産業の復活が鮮明となるなかで、なぜかつて繁栄を誇った大都市が財政破綻に陥ったのか、アメリカ総局の芳野創記者が解説します。

アメリカ社会に衝撃

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「デトロイトが連邦破産法の適用を申請」。
18日夕方、衝撃的なニュースが飛び込んできました。
「ウォール街」がアメリカの金融業界を表すように、「デトロイト」はアメリカの自動車業界を象徴することばでもあります。
負債総額は180億ドル(日本円で1兆8000億円)を超え、アメリカの自治体の財政破綻としては史上最大となりました。
メディアは軒並みトップ扱いでこのニュースを取り上げました。

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デトロイトとは

アメリカ中西部に位置するデトロイトは、アメリカ最大手の自動車メーカーGM=ゼネラル・モーターズが本社を構えるなど、世界的な自動車の街として知られています。
1880年代に自動車メーカーによる生産が始まり自動車産業の成長とともにデトロイトも発展していきました。

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しかし日本の自動車メーカーに押されるなどして1980年代以降、自動車産業は衰退が進み、2009年にはGMも経営破綻に追い込まれました。
経済の低迷や治安の悪化などにより、住民も周辺地域に移るようになり、1950年のピーク時には185万人に上った人口は、去年12月時点では68万人にまで落ち込みました。
人口の減少により税収も減り続け、市民生活にも影響を及ぼすようになりました。
市が保有する救急車の3分の1程度しか出動できなくなり、市内の街灯のおよそ40%から明かりが消えました。

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人口当たりの殺人事件の発生率はこの40年近くで過去最悪となるなど、アメリカで最も治安の悪い都市の1つとされています。
それでも財政難から警察官の数は大幅に減らされ、通報を受けてから警察官が現場に駆けつけるまでの平均時間は58分と、全米平均の11分を大きく上回り、治安のさらなる悪化を招いています。

なぜ破綻に追い込まれたのか

デトロイトが破綻に追い込まれた最大の理由は、先に述べた急激な人口の減少です。
また、デトロイト市の失業率は、去年6月の時点で18%を超えるなど高止まりが続いていました。
この結果、去年の所得税収入は233億円にとどまり、10年前よりおよそ30%減少。
さらに州政府からの補助金の削減も追い打ちをかけ、歳入が減少し続ける状態が続いていました。
一方の歳出についても、負債の支払いや退職した職員向けの年金や医療の負担など、過去の取り決めに縛られる、いわゆる「レガシー・コスト」と呼ばれる費用が歳出全体の38%を占め、市民のための行政サービスに振り向ける支出が限定される財政の硬直化が進んでいました。

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このため行政サービスを切り詰めても、歳出が歳入を上回り、債務が膨張するという悪循環に歯止めがかからなくなったのです。
ミシガン州のリック・スナイダー知事はことし3月、デトロイト市の財政運営を州が引き受けると発表し、財政再建に取り組む非常事態の管理責任者として弁護士のケビン・オー氏を任命しました。
オー氏は思い切った債務の削減策を打ち出し、破綻を回避するため、市の退職者向けの年金基金など、債権者と交渉を続けてきました。
しかし結局、調整がつかず、デトロイト市は裁判所の下で再建を目指すことになりました。
ミシガン州のスナイダー知事は「財政に持続可能性はなく、治安の悪化にも歯止めがかからない現状を踏まえると、デトロイト市は崩壊していると言える。困難でつらい決断だが再生のためにはこの選択肢しかなかった」と述べています。

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自動車復活のアメリカでなぜ?

それにしても景気の回復傾向が鮮明になり、自動車産業の復活も叫ばれているなかで、なぜデトロイト市が破綻したのか、疑問が残るという方も多いと思います。
まず、デトロイト市から工場を移す動きが加速した結果、市内に残る工場は僅かしかなく、自動車産業との関わりが低下したという事情があります。
このため自動車業界の業績が回復してもその恩恵にはあずかれない。
かつて繁栄を極めた「デトロイト」は、象徴的な意味合いでしかなくなっているのです。
もう1つの理由は、何十年にもわたって積み重なった負債の存在です。
自動車産業が長期間抱えてきた課題の集積とも言えるもので、もはや資金のやりくりなどで問題の解決を先送りすることができない状態まで追い込まれたということだと思います。

市民の受け止めは

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デトロイト市民の多くは、今回の破綻を冷静に受け止めています。
40代の男性は「税金を払っているのに公共サービスの水準は低く、財政が破綻するのは当然だ。問題を直視して、解決策を見つけなくてはならない」と話していました。
また20代の男性は「財政の立て直しが始まっていたと感じていたのに破産申請なんてひどい話だ。残念で情けない」と話していました。
市民の間には、先行きへの不安の一方で、裁判所の管理下で、状況が改善するのではないかという期待もあるようです。

今後、どうなるのか

今後、デトロイト市はどうなるのでしょうか。
裁判所に申請した連邦破産法第9条の適用が認められれば、デトロイト市は今後、裁判所の下で財政の再建を目指すことになります。
アメリカの主要メディアによりますと、裁判所がデトロイト市の申請を認めるかどうかの審査には、1か月から3か月かかるとみられており、債権者が異議を申し立てるとこの期間がさらに延びる可能性もあります。
裁判所が申請を認めた場合、デトロイト市の非常事態の管理責任者で弁護士のケビン・オー氏が中心になって再建計画を策定し、負債の削減に向けて債権者との交渉を進めることになります。
債権者の数は、市が発行した債券の購入者などを含めれば、10万を超えるとみられていて調整には難航が予想されますが、金融機関からの借り入れや退職した市の職員の医療や年金に充てる費用などの削減について検討が進められるものとみられます。
ミシガン州のリック・スナイダー知事は、警察や消防、ゴミ収集など中核的な行政サービスについては資金の投入を続ける姿勢を示していますが、再建を進める過程で市の職員を削減したり行政サービスを切り詰めたりするのではないかという見方もあります。
デトロイト市の非常事態の管理責任者、ケビン・オー氏は、来年の秋までには財政再建を軌道に乗せて裁判所の管理下から脱したいという目標を述べています。
しかし過去の自治体破綻のケースを踏まえると、再建計画を終えるまでには目標よりも時間がかかるのではないかという見方も出ています。
負の遺産を抱えたデトロイト市が裁判所の管理下で再生に向けた手がかりをつかめるのか、自動車の町の復活に向けた道のりに注目が集まりそうです。

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