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労働新聞 2013年1月1日号・12〜13面

ルポ/
埼玉県狭山市・寄居町、
栃木県矢板市

地域住民の生活と営業を守る
市政・県政へ!闘いの発展を

 多国籍大企業は「六重苦」などと言い、国内設備の縮小と海外展開を強めている。一部の中小企業も同様である。地方自治体による、企業に恩恵を与えての誘致政策は破たんした。住民の生活と営業はいちだんと苦境にあり、自治体政治のあり方が問われている。電機大手シャープの工場縮小が発表された栃木県矢板市と、自動車大手ホンダの設備移転で揺れる埼玉県の狭山市と寄居町を訪ねた。



埼玉県狭山市・寄居町
自動車偏重の誘致政策は破たん

県庁・ホンダに至れり尽くせり
 まさに、ホンダのために「至れり尽くせり」の県政だ。県の企業誘致課を訪ねたときのことだ。
 上田県知事が登場して以来、企業誘致のためのデータが揃えられている。担当者は「上田知事以前も企業誘致はやっていが、データを取っていなかった。誘致のセールスポイントは道路網の整備と津波の心配がないこと。補助金で誘うことはしない」と言う。だが、道路網整備では県民の血税が膨大に投入されていることは疑いなく、工業団地の整備なども同様だ。県庁では、ホンダとの産官共同実験で、太陽光発電を使った自動車用の水素ステーションづくりも進んでいる。

狭山市・ライン移転で戦々恐々
 工場の一部が移転する狭山市を訪ねる。
 ホンダなどの〇七年度の法人市民税は過去最高の五十八億円だったが、一一年度は十六億円とブレが大きい。ホンダが発表した当初予定では、寄居工場で二十万台の増産を行い、狭山工場は設備更新を行うということだった。これが、狭山工場の二ライン中の一本を寄居に移動することになった。市は内需型産業の誘致など、ホンダに依存しない方向で企業誘致を進めざるを得ない状況だ。
 市の担当者は「狭山工場から千人が寄居工場へ異動するが、その人たちには住み続けてほしい」と言う。 市としては、ライン半減で法人税の減少と設備が減ることによる固定資産税の減少を食い止めたい。また、労働者の転居をくい止めて、税収減を最大限食い止めたいとのこと。
 商工会議所でも話を聞く。
 「ライン縮小はリーマン・ショックの打撃に追い打ちをかけるものだ。リーマン・ショックで関連・下請けまで大打撃を受けた。地域経済にも悪影響が及んだ。残業がなくなり、月給は平均で五万〜八万円減った。そこで妻たちがパートに走った。そうなると、労働者は『帰りに一杯』とはならない。市内の飲食店、理髪店やパーマ屋も打撃を受けた。商工会議所はそれらにだけ使える商品券を発行して喜ばれた。ホンダの問題は、このように小さなところにまで影響を及ぼしている」と語る。
 続いて「東日本大震災はわれわれの夢を奪った。最大の問題は雇用で、いつまで働けるのか不安である。『これから給料は下がる』と思う人ばかりだ。政治はそれに責任を持たない。いろんな政党があるが、もっと力を合わせてやるべきだろう」と批判する。
 七月以降は本格的な影響が出るので、引き続き現地調査と県や市への要請も重要になるだろう。

寄居町・水を差された「歓迎」
 寄居町を訪ねる。企業誘致推進課の担当者に聞くと「町の活性化が一番の狙い。具体的には人口増、税収増などだ。インフラ整備などは、県やホンダとも連携してやってきた。誘致に努めているが、企業は『内より外』を見ている。厳しい状況で、工業団地に進出を決めたのは二〜三社しかない」と言う。寄居町はホンダの進出をバラ色のように描いていたが、事実は違った。
 経済界はどうかと、寄居町商工会を訪ねた。「ホンダが来てもいいことばかりではない。地元製造業からの労働者の引き抜きが心配だ」と言う。
 地元経済界は大喜びと思っていたが、大企業と中小企業の矛盾もあった。
 県職労の役員にも聞いた。「〇六年の寄居工場稼働の発表直後は『歓迎一色』だったが延期になり、さらに狭山工場の縮小と抱き合わせと知って、当初の期待は水を差されたと言われている。狭山市と寄居町は車で四十分程度で、いわば通勤圏内。昼間は働きに来ても夜は地元にさっさと帰り、税金は地元に納めるという構図なら、さほどメリットはないのではないか。関連・下請けも新たには要らないだろう。寄居町で新規の雇用も生まれにくい」と県の「万々歳」の発表とは違い、多くの人びとが懸念を持っている。
 昨年は、パナソニックやシャープ、NECなど、名だたる企業が全国各地で、工場の撤退や縮小を強行、地域経済に甚大な影響を与えている。
 大企業は、進出する時は税金免除や補助金など自治体に優遇策を競わせ、もっとも良い条件で工場を立地するが、いったん業績が悪くなると、海外移転や国内工場の集約などを、地域の実情におかまいなく強行する。これは、これまでのいくつもの事例が証明している。
 一つの企業、一つの産業に特化した地域経済のあり方は、根本的な見直しが迫られている。今回、工場が縮小される狭山市、そして新たに進出する寄居町でさえ、実際の経済活動を通じて多くの人びとが、変わらない大企業優遇の自治体政治に疑問と怒りを抱いていることを実感し、ここに依拠して闘う必要さと、可能性を大きく感じることができた。(Y)


バランスある県政へ転換を
吉沢章司・党埼玉県委員長
 昨年後半に入り、新興国も含む世界的な景気減速が、いちだんと鮮明になってきた。
 わが国経済は、七〜九月期の国内総生産(GDP)成長率が輸出減などでマイナスに、さらに中国での反日デモの影響で、輸出産業に頼った地域の経済環境が悪化している。
 埼玉県は、九月の有効求人倍率が〇・五六倍と全国二番目の低さ。十月の企業倒産数は昨年比二六%増にもなった。
 上田知事の就任以来九年、一貫して追求してきた自動車産業に頼った県経済のもろさがあらわれている。
 上田知事は就任以来、圏央道などの道路整備を国に要求、その周辺に工業団地を整備してさまざまな優遇策を施し、自動車産業を優先的に誘致・育成してきた。その結果、〇二年から〇七年の間に、従業員数と製造業出荷額等は輸送用機械がもっとも高い伸びを示し、県内の主要産業の位置を占めるにいたった。
 リーマン・ショックは、県の雇用、企業経営に多大な悪影響をもたらした。国はエコカー補助金など、なりふりかまわず大企業を支援、県も市町村財政を自動車の販売補助に誘導する「エコタウン計画」や、本来メーカーが負担すべき下請け企業の技術支援に、多額の予算をつぎこむなど、大企業の支援策を強めた。
 政治の支援と大リストラで、ホンダなどの営業利益は急改善したが、特定の産業に偏った政策は、県経済の基盤をゆがめ、県民生活を不安定にさせるものである。
 われわれ労働党は、産業や地域の一極集中に反対し「バランスある県政」を主張してきた。過去と比較にならない経済危機の中で、その主張がいちだんと説得力を持つ根拠が深まっている。上田知事の発展戦略が破たんした責任を問い、県政の大転換を呼びかける


栃木県矢板市
放射性廃棄物処分場建設
シャープの縮小に追い打ち

 駅改札正面の三階建てビルに目を奪われ、思わずカメラのシャッターを切った。
 JR上野駅から東北線で約二時間半、栃木県北部の矢板駅。関東平野から那須野が原へ連なる丘陵地帯の途中で、那須連山からの風で気温は東京都内より二〜三度は低い。
 ビルの屋上には「シャープ」の巨大な看板。二〜三階には「焼却炉付き処分場はいらない」「山を荒らさず川を荒らさず町を壊さず」などのスローガン。「指定廃棄物最終処分場候補地を白紙撤回を求める矢板市民同盟会」の事務所だ。
 このビルに、矢板市の抱える問題が表現されている。産業空洞化による深刻な地域経済の問題と、国の原子力政策、福島県第一原子力発電所にともなう放射性物質の問題だ。

突然、処分場候補地に
 昨年九月三日、横光環境副大臣(当時)が市を訪れ、市内塩田地区の国有林に、栃木県内で発生した放射性物質を含む「指定廃棄物」の最終処分場の建設すると伝えた。
 民主党政権は昨年一月、「放射性物質汚染対処特措法」を施行。一キロあたり八千ベクレル以上の放射性セシウム濃度を含む指定廃棄物の処分を、発生した都道府県ごとに行わせることとした。歴代政府と東京電力の責任で起きた原発事故にともなう汚染物質の処理を各県に押しつけ、自治体間の押し付け合いをもくろんだ。
 環境省は県内十三の国有地をリストアップ。「地形がなだらか」「四ヘクタールの土地が確保できる」などの理由で、塩田地区に白羽の矢を立てた。副大臣の通告は、初めて具体的な処分場候補地を明らかにしたものだ。二〇一三年度後半に着工し、一四年度内に廃棄物の受け入れ・貯蔵を開始、順次、「低レベル」廃棄物の焼却処分も始めるとしている。

建設通告に怒り高揚
 塩田地区をはじめとする市民にとって、まさに「寝耳に水」。
 予定地の国有林周辺は、県の「田園百選」にも選ばれる自然豊かな場所だ。しかも、南東にわずか一・四キロのところに農業用水用の塩田ダムがある。北東側の傾斜を下ると、生活用水用の寺山ダムがある。周辺には湧き水も多く、影響は市内全域はもちろん周辺にも及ぶ。
 遠藤・矢板市長はただちに反対を表明。市議会も九月七日、「白紙撤回を求める意見書」を可決。隣接するさくら市も反対を表明した。
 住民は「生活・農業用水のそばにつくるのは言語道断。水が汚染されたら食っちゃいげねぇ」と断固反対の声を高めているが、当然である。
 現地を案内してくれた森林組合の役員は、塩田地区に住む。彼によれば、候補地は関谷断層という活断層上に位置している。数年前には候補地周辺で大規模な地すべりが起きており、本来、候補地にあがること自身があり得ない場所だ。「ろくに調査せず、処分場への道路を建設しやすいところを選んだんだろう」「廃棄物を貯蔵するだけでも危険なのに、焼却すればすぐに汚染が広がる。住めなくなりますよ」と憤る。
 取材したある保守系市議会議員も「処分場の候補地というだけで、すでにコメやリンゴが売れなくなっている。『町こわし』だ」と語る。

立ち上がった矢板市民
 矢板市民は九月、市区長会や商工会、農協など約九十団体が結集して「矢板市民同盟会」(会長=小野崎・塩田行政区長)を結成した。
 市内各地には、白紙撤回を求める立て看板が林立する。
 同盟会は、十二月二日に「一万人集会」を開催。前日からの積雪にもかかわらず、約八千人の市民が参加。十五日には、同じく処分場の候補地である茨城県高萩市で「高萩市民同盟」主催の三千人規模の集会が開かれた。両市民は、互いの集会に参加して団結を深めている。

「シャープ・ショック」に続いて…
 矢板市に処分場の話が舞い込むちょうど一カ月前の八月三日、電機大手のシャープは、国内外一万人の首切りをはじめとする大規模なリストラ計画を発表した。その一環で、栃木工場(矢板市早川町)の大幅縮小と奈良工場への移管を発表した。
 栃木工場は四十年以上の歴史がある。早川町という名前も、シャープの旧称(早川電機工業)に由来する企業城下町だ。
 栃木県内でシャープと取引する企業は三百七十七社と北関東で最多。同工場には一九七〇年代には三千人もの労働者が働いていたが、現在も、関連を含めた雇用への影響は約一万人に達する。
 〇八年のリーマン・ショック以降の売上減、一一年夏の「地デジバブル」の崩壊による景気悪化で、孫請け企業などの倒産・廃業が相次いできたが、これに追い打ちをかけるものだ。矢板市をはじめ、地域経済と住民生活への影響は甚大である。
 矢板市財政への影響も大きい。リーマン・ショック後、シャープからの法人税収入は、危機前のわずか一・四%に激減。労働者、家族の市県民税にも影響が出ている。この状況がさらに悪化することが必至だ。
 近隣自治体の保守系議員は、声を潜めて言う。「矢板はシャープをあてにして市町村合併もしなかった。シャープの縮小で、矢板は財政的にやっていけないだろう。結局、処分場を受け入れるしかないのでは」。この議員のいる自治体も、当初は処分場の候補地に挙がっていた。
 ある市民同盟会メンバーは、「国はシャープ縮小の『弱み』につけ込もうとしたのではないか」と語る。
 安倍政権は処分場選定までの「手続きや基準」は再検討するとしているが、「県内処理」の方針は維持する構えだ。

市政・県政の転換が問われている
 「シャープ・ショック」に直面してもなお、矢板市政はシャープ製家電製品を購入した市民への助成金制度を創設している。事実上、血税を使ったシャープへの補助金である。
 これ以前にも、矢板市政はシャープ製テレビや太陽光発電システムの購入助成などを行ってきた。いくら市財政をつぎ込んでも、シャープが工場の規模縮小を撤回する気配はない。まさに「盗人に追いゼニ」だ。
 矢板市政には、市民の生活と営業を守ることが問われている。
 県政の問題でもある。現在の福田県知事は、十一月に行われた知事選でも賛否を明言しなかった。
 深刻な産業空洞化で「誘致依存」政策は破たんした。それにつけ込んで、政府はさまざまな犠牲を押しつけようとしている。根本的には、中央政府の転換なしに解決しない。
 矢板市民と高萩市民の共闘に、悪政を打ち破る力の萌芽を感じた。(K)


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