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仮設住宅から期日前投票所に向かう石巻市選管の無料送迎バス。市選管は有権者の投票機会の確保に努めている=宮城県石巻市、日吉健吾撮影 |
参院選で、投票終了時間の繰り上げが各地に広がっている。本来はやむを得ない場合以外は認められないが、市町村は投票立会人の負担や、夜の投票者の少なさを理由にあげる。住民が自ら求める例もあるが、有権者の権利を制約しかねないと批判もある。
総務省によると、参院選で投票終了時間を繰り上げるのは、全国の投票所4万8777カ所のうち、千葉、神奈川、大阪3府県を除く44都道府県の1万6957カ所(34・8%)。1998年以降の国政選挙で最も高い比率だ。
同省は投票率の低下に歯止めをかけるため、98年6月から、午後6時までの投票時間を午後8時まで延ばした。公職選挙法は「特別な事情のある場合」に限って繰り上げを認める。
繰り上げの理由について、各自治体は「投票立会人や職員の負担軽減」(茨城県取手市)、「夜間に投票率が上がらない」(高知県室戸市)、「震災復興に職員が必要」(福島県南相馬市)などとしている。
総務省は繰り上げについて「不都合がないというだけでなく、有権者の利益になる積極的理由が必要」としている。
5月、都道府県や市町村選管の研修会で慎重な対応を求めた。
■効率化か、機会確保か
参院選で、群馬県では35市町村の943投票所のうち、みなかみ町の一部を除く934投票所で投票終了を1〜3時間繰り上げる。
「朝7時からずっと座っているのは正直つらい」。同県高崎市で10回以上、投票立会人を務めた70代の男性は言う。2011年4月の県議選で投票所は午後8時まで開いていたが、午後7時以降に来る人は少なく、手持ちぶさたに。
選挙後、区長会は市に終了時間繰り上げを求める要望書を提出。市は同年の知事選以降、1時間繰り上げている。男性は「午後7時まででも投票する気があれば来る」。別の区長も「開票結果を早く知れる。期日前投票もできるので影響はほとんどない」と話す。
県選管は「投票の権利を奪うことになりかねない」とするが、ある高崎市議は「午後6時に戻してほしいという声もある」と話す。
逆に終了時間を元に戻す動きもある。
東日本大震災の被災地、宮城県気仙沼市は今回、全投票所で午後8時まで投票できるようになる。震災前の10年参院選以来、3年ぶりだ。
震災8カ月後の県議選では午後6時まで。道路の復旧が進まず、夜に出歩くのは危ないと判断した。昨年12月の衆院選でも、日没が早いことから午後7時で終了した。今回は道路や街灯などの復旧が進んだ。
市選管は「一票の権利を大事に使ってほしい」と投票率アップに期待する。
同県美里町も、今回はすべての投票所で繰り上げしない。町選管は「農作業を終えた有権者が足を運びやすいようにした」と話す。
■民主主義の本旨から外れている 平野浩・学習院大教授(政治学)
市町村ごとに事情があるだろうが、行政の効率を図るために投票時間を繰り上げるのは民主主義の本旨から外れている。税金で投票率を上げる啓発活動をしていることからも理屈に合わない。
今回の参院選は、関心が高くないと言われる。投票する権利を使う場は、できるだけ広く確保するよう努めるべきだ。
■投票終了時間を繰り上げる投票所の割合
1 福島県 100.00%
2 群馬県 99.05%
3 鹿児島県 91.41%
4 高知県 89.66%
5 秋田県 86.66%
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40 滋賀県 3.56%
41 兵庫県 3.18%
42 埼玉県 2.15%
43 東京都 0.86%
44 愛知県 0.75%
(総務省調べに基づく。千葉、神奈川、大阪の3府県は繰り上げなし)