「福島の子供たち、自分たちの愛する人のために、戦おうぜ!」――。オープニングに登場したイベントの発起人である難波章浩(Hi-STANDARD、NAMBA69)は、そう約1600人の観客へメッセージを発した。
会場の外には被災地支援団体などの特設ブースも
7月14日、渋谷AXで反原発ロックイベント「NO MORE FUCKIN’ NUKES 2013」が行われた。うだるような猛暑のなか、正午過ぎの会場にはすでに開演を待ちわびる大勢のファンが詰めかけていた。
タイトルも示す通り、同イベントは反原発を目的としたものだ。
もともと、坂本龍一氏がオーガナイザーを務める「No Nukes 2012」というイベントが昨年に行われていた。だが、そのイベント後に坂本氏は「これからは、一人一人、一つ一つのバンドが、主体的に同じようなイベントをやるべきだ。おやじ達はおやじ達で、若者達は若者達で、あっちこっちで、いろんな時期に、勝手にやるのがいい」と、他アーティストが中心になって新しいムーブメントを起こすことを求めたという。
そこで今回、坂本氏から話を受けた難波章浩が中心となり、自身のバンドであるNAMBA69をはじめ、その声に賛同した全8アーティストが集まってイベントが開催されることになった。
NAMBA69 撮影/WATARU UMEDA
登場メンバーは豪華としかいいようがない。BRAHMAN、KEN YOKOYAMA、NAMBA69、サンボマスター、SLANG、ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザン、恒正彦、DJ:松田“CHABE”岳二(CUBISMO GRAFICO / kit gallery)。日本の音楽シーンで確固たる地位を築いている、大物だらけである。そんな豪華なアーティストたちが集ったのだから、ファンの期待値が高まるのも無理はない。トップバッターのNAMBA69からラストのKEN YOKOYAMAまで、およそ7時間にわたり、会場のボルテージはまさに“上がりっぱなし”状態だった。
印象的だったのは2番手で登場したサンボマスターだ。メンバーの山口隆(Gt&Vo)は福島県出身。難波からイベントへの参加を打診された際、「山口君にはなによりまず、福島のことを歌ってほしい」と言われたという。そんな彼が「ふるさとの歌を歌っていいかい?」というMCとともに始めた曲は、福島への思いを込めたナンバー「I love you&I need you ふくしま」。声がかれて高音に支障が出るほど激しく歌いあげたその曲は、ひと際大きな歓声に包まれていた。
その後も、恒正彦(Hi-STANDARDの恒岡章らによる3ドラム編成バンド)、BRHMANらが次々と圧巻のパフォーマンスを披露していく。BRAHMANのライブ時には、ヴォーカルTOSHI-LOWが客席へダイブし、そのまま観客に持ち上げられながら「本当はこんなイベント出たくなかったんだよ。俺たちがこんなイベントをやらなくていいような世界にならなくちゃダメだ」などとMCを披露していた。
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サンボマスター 撮影/TEPPEI
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恒正彦 撮影/WATARU UMEDA
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BRAHMAN 撮影/TEPPEI
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ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザン 撮影/WATARU UMEDA
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SLANG 撮影/TEPPEI
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松田“CHABE”岳二(CUBISMO GRAFICO / kit gallery) 撮影/TEPPEI
この日はアーティストだけでなく、被災地支援団体や脱原発団体などもステージに登場。被災地支援団体「南相馬 みんな共和国」の近藤能之氏は、子供と親が安心して水遊びができる場所として、南相馬市内の高見公園に「じゃぶじゃぶ池」を作るプロジェクトを紹介。同イベントの収益金が南相馬市の公園の設立資金などに充てられることもあり、その感謝の意を述べていた。
また、毎週金曜日の首相官邸前デモを行っている首都圏反原発連合のミサオ・レッドウルフ氏、緑の党推薦で参院選・比例代表に立候補した三宅洋平氏、さらに東京選挙区に立候補した山本太郎氏もライブの合間に登壇し、21日に控える参院選での投票などを呼び掛けていた。ほかに、NPO法人環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也氏やラッパーで反原発活動家のDELI氏も登場。オープニングライブ以降は司会として場を盛り上げる難波章浩とともに、さまざまなメッセージを会場へ伝えていた。
KEN YOKOYAMA 撮影/WATARU UMEDA
その後もイベントは続き、ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザン、SLANG、そしてラストを飾るKEN YOKOYAMAの登場となった。「3・11で俺らパンクスはいろんな壁がなくなったんだよ」、「俺はミュージシャンだからビートを繋いでいく。皆も何かを繋いでほしい」。そんなメッセージとともにギターをかき鳴らす彼らに対し、会場では最後の力を振り絞るかのように、この日一番の“モッシュ&ダイブ”が巻き起こった。
演奏終了後も、アンコールを求める声は10分以上続いた。時間の関係か、残念ながらアンコールの願いは叶わなかったが、汗ビショになり満面の笑顔で家路につくファンたち。年齢層も幅広く、下は10代から上は40代、なかには小さな子供連れで参戦した夫婦の姿もあった。確かに、観客のなかには単に音楽好きという人も大勢いただろうし、彼ら全員が諸々の活動に熱心なわけではないだろう。けれど、震災から約2年4か月が経ち、だんだんと危機感も薄れていくなかで、当初あった意識を再確認するためにこういったイベントが貴重な機会となるのは事実だ。それとともに、声高にメッセージを発し続けるミュージシャンたちのひたむきな姿には、やはり、音楽の力というものを感じずにはいられない夜だった。 <取材・文/日刊SPA!取材班>