参院選の投票日があすに迫った。それなのに、まだだれに投票するか決まらない。そんな人は少なくないだろう。朝日新聞社が16、17日に実施した参院選の情勢調査によると、まだ投[記事全文]
ここまでの参院選の様子を振り返り、思いをはせることがある。自由について、である。公示日に、安倍首相が第一声を上げた福島駅前の街頭で、こんなことが起きた。[記事全文]
参院選の投票日があすに迫った。それなのに、まだだれに投票するか決まらない。そんな人は少なくないだろう。
朝日新聞社が16、17日に実施した参院選の情勢調査によると、まだ投票態度を明らかにしない人が選挙区で5割、比例区で4割にのぼった。
投票所へ行くかどうかを迷っている人もいる。
朝日新聞デジタルの特集「♯投票する?」には、数百件の声が寄せられている。
「投票しない」という人たちの、こんな書き込みがある。
「政治には非常に関心があるが、この人、この政党に託して良かったと思ったことはない」
「少数派(若者)である自分が投票したところで、何も変わらないから」
「投票を拒否して新しい民主主義の仕組みを模索しよう」
たしかに、最近の政治の体たらくは目に余る。幻滅する気持ちは分からないではない。
投票を棄権することで、政治に「ノー」の意思表示をするという考え方もあるだろう。
だが、そんな人たちはもう一度、考えてみてほしい。
消費税率の引き上げや社会保障の充実をどう進めるか。この選挙で当選した議員たちが、深く関わることになる。生活と将来に直結する問題を、丸投げしていいのだろうか。
幸い、この参院選からネット選挙が解禁になり、候補者の情報はふんだんにある。街頭演説を動画で見ることもできる。判断材料には事欠かない。
選挙は取っつきにくいという人には、新聞社などがインターネット上に開設している「ボートマッチ」がお薦めだ。
憲法改正、アベノミクス、原発再稼働など政策ごとに簡単な質問に答えるだけで、自分の考えがどの政党や候補者の主張に近いかが分かる。
重要なのは結果ではない。質問に答える過程で、自分の考えが整理できることだ。興味が出てきたら、改めてそれぞれの主張を読み比べ、候補者を絞り込んでいけばいい。
選挙期間中、身を入れて論戦を聞いてこなかったという人も慌てる必要はない。
新聞は、投票日が近づくと各政党や候補者の主張をまとめて掲載する。それに目を通すだけでも判断の助けになる。
ある政党や候補者の政策が自分の考えと百%一致することはまずない。そんなときは、最も関心のあるテーマに絞って投票してもいい。
まだ1日ある。ここはじっくり考えたい。
ここまでの参院選の様子を振り返り、思いをはせることがある。自由について、である。
公示日に、安倍首相が第一声を上げた福島駅前の街頭で、こんなことが起きた。
「総理、質問です。原発廃炉に賛成? 反対?」
そう記したボードを抱えた40歳の女性が、「警察の者です」と名乗る男性や、自民党国会議員の秘書ら4人に囲まれた。
「警察」は、ここは質問の場ではない、ボードを渡してほしいと求め、秘書が受け取った。「警察」は名前や住所、連絡先を問いただした。怖くなった女性は泣き出し、第一声が始まる前にその場を去った。
駅前という公共の場で、一人きりで騒ぎもせず、A3判の紙のボードを掲げようとする行為に問題があるとは、とうてい思えない。福島を第一声の場に選んだのに、県民の声を隠されるのは首相の望むことだろうか。
経緯は動画に残り、「警察」の顔も映っている。なのに弁護士たちが警察庁や県警、自民党に抗議しても回答がない。
原発事故がおきた福島に、再稼働に意欲をみせる首相が乗り込むのだ。警備担当者に、張り詰めた空気があったことは想像に難くない。
ささくれだった気分が漂うこの時代、福島に限らず、街頭での活動は緊張感を増しているように思える。
実際、東京・吉祥寺では、聴衆と握手しようとした民主党候補が、「うるさい」と叫ぶ女性に殴られる事件が起きた。
公示前にはこんな光景もみかけた。東京・新橋での民主党の街頭演説で聴衆が大声を上げ、在日韓国・朝鮮人を取り締まれと警察官に迫った。警察官はこんなふうに諭した。
「ご意見はあると思います。でも、民主主義で大切なのは、いろんな意見に耳を傾けることではないでしょうか。ここは静かに聞きましょう」
政治家は、どんなに批判的な内容であっても、市民の声に耳を傾ける。市民も政治家の発言を聴く。その環境をなんとか保たないと、民主主義の健全さや活力は失われる。多様な意見が交わる空間をどうつくるか。
憲法12条には、こうある。
自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。
政治も、警察も、市民も、いっそうの不断の努力を求められている。
それを怠ったすえ、深刻な事件が起こり、自由への規制が強まるような事態は、絶対に避けなければならない。