江戸城を築城した太田道灌（おおたどうかん）が上洛したおり、後花園（ごはなぞの）上皇に武蔵野はどのようなところかとたずねられた。「露おかぬかたもありけり夕立の　空より広き武蔵野の原」は、その時に詠んだ歌と伝えられる▲夕立が過ぎて丘から見渡せば、水浸しのところもあれば、まったく雨が降らずに露もない場所もある。武蔵野の原は夕立を降らせる空よりも広いというわけである。上皇は「むさし野はかるかやのみと思ひしに　かかる言葉の花やさくらん」との御歌を賜ったという▲道灌には「急がずば濡（ぬ）れざらましを旅人の　あとより晴るる野路の村雨」もある。村雨とはにわか雨、旅人も急がずに雨宿りをすれば濡れることもなかった。「時を待て」という教訓ともされる歌だが、これも局地的にドッと降る武蔵野の驟雨（しゅうう）を詠んだものである▲さて猛暑の一方、大気の不安定な状態によって引き起こされる雷雨や急な雨の予報が各地で繰り返されている。この７月から９月にはゲリラ豪雨ともいわれる局地的豪雨の発生回数が昨年の３．５倍にもなりそうだという民間気象会社ウェザーニューズの予想もある▲地球温暖化や大都市のヒートアイランド現象が原因といわれる近年のゲリラ豪雨の増加である。今春環境省が公表した温暖化予測では、今世紀末には１時間に５０ミリ以上の豪雨は全国平均で４倍に増え、洪水の発生確率も最大４．４倍になるという。いや、すさまじい▲江戸築城から５５０年余、いまやヒートアイランド現象で炎暑の地となった首都圏である。ゲリラ豪雨や落雷、竜巻などへの警戒をおろそかにできない武蔵野を道灌ならばどう詠むだろうか。 続きを読む