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【工場けんがく! 北関東ものづくり探訪】

製糸の灯 消えさせぬ 碓氷製糸農業協同組合(群馬県安中市)

複数の繭から糸を引き、光沢ある生糸に仕上げていく=群馬県安中市で

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 繭から、光沢を備えた生糸が紡ぎ出されていく。そうした生産工程を間近で見ることができる製糸工場が、群馬県安中市にある。

 緑深い山が目前に迫ると、工場群の赤い屋根が見えてくる。とはいえ、操業の音は外には漏れてこない。入り口にある「碓氷製糸農業協同組合」の表札がかろうじて、製糸工場をうかがわせる。

 「機の音、製糸の煙、桑の海」。徳冨蘆花が明治期の群馬県の風景をこう詠んだが、蚕糸業は同県発展の礎だった。そのDNAは受け継がれ、県内の繭と生糸の生産量は今も全国一を誇っている。

 だが、製糸工場は隆盛を極めた蚕糸業の衰退とともに姿を消す。国内で操業している器械製糸は二工場で県内ではここだけだ。世界文化遺産の登録を目指す富岡製糸場(群馬県富岡市)も近い。「実際に操業しているところを見てみたい」と見学に訪れる人も多い。

 全国で生産される繭の約六割がこの工場に運ばれてくる。約十年前に全国で二千戸を超えていた養蚕農家は約六百戸に激減し、繭も手に入りにくくなった。

 繭は全国十一都県の養蚕農家から届く。荷受場は体育館ほどの広いスペース。案内係の神沢秀幸さん(52)は「昔は入りきれないほどだったと聞きます。最近は量が少なく宅配便で届く繭もあります」と説明する。

 生繭は乾燥して長期保管するため、乾燥機の金網のコンベヤーに載せられる。生繭十キロから生糸になるのは約二キロ、着物で二着分だ。乾燥した繭はバスケットの中で約二十分間煮ながら、糸口を探す。自動操糸機が複数の繭から糸を引き、注文に応じて一定の太さにして巻き上げる。

 繰糸機がある工場ではモーター音が鈍く響き、繭を煮るにおいが立ち込めている。切れたり、細くなった糸は担当の女性が慣れた手つきで修正していく。

 糸は巻き返して水分を約11%に安定させ、生糸に仕上げる。約三百キロの生繭で一日に約六十キロの生糸ができる。国産生糸の約六割はこの工場から出荷される。操業は二交代制で十六時間という多忙な時期もあったが、二百人以上いた従業員は二十五人に減った。

 組合長の高村育也さん(66)は「高齢化と後継者不足で養蚕農家が減り、繭が入らなくて切羽詰まっているが、製糸の灯は消したくない」と力を込めた。(大沢令)=おわり

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◆メモ

 碓氷製糸農業協同組合 群馬県安中市松井田町新堀甲909。上信越自動車道松井田妙義ICから車で5分、JR信越線西松井田駅から徒歩10分。見学は平日のみ、5人以上の団体限定で要予約。所要約1時間。問い合わせは=電027(393)1101=へ。

 

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