同じ政党が異なる選挙公約を掲げたら、有権者はいったい何を信じればいいのか。参院沖縄選挙区で、そんな異常な事態が起きている。米軍普天間飛行場(沖縄県[記事全文]
なかなか進まない住宅の再建、整わない生活基盤、遅れる産業の復興……。東日本大震災では、今も30万人近くが仮設住宅など自宅以外で暮らす。とりわけ先行[記事全文]
同じ政党が異なる選挙公約を掲げたら、有権者はいったい何を信じればいいのか。
参院沖縄選挙区で、そんな異常な事態が起きている。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題で、日米両政府は県内の名護市辺野古への移設で合意している。
この合意に沿って、自民党本部は公約に「辺野古移設推進」を明記した。
一方、党沖縄県連は「県外移設」を主張。党本部は県連のビラを地域版公約と認めなかったが、事実上、二つの公約が併存してきた。こんなことがなぜまかり通ったのか。
大半の沖縄県民は辺野古への移設に反対しており、県外移設を求めている。そんななか、自民党候補が「辺野古容認」を訴えれば選挙戦に不利に響く。そのため、県連が「県外移設」を主張することを党本部は黙認した――。
有権者をあまりにもバカにしていないか。
それだけではない。
安倍政権は今年3月、仲井真弘多(ひろかず)知事に辺野古沿岸の埋め立てを申請した。政権にとって辺野古への移設は、いわば既定路線なのだ。
ところが、一昨日、沖縄入りした安倍首相は「普天間の一日も早い移設を実現していきたい」と強調したものの、「辺野古」の名前はあげなかった。
県連への配慮だけではあるまい。仲井真知事は、早ければ年内に辺野古埋め立てを承認するかどうかを判断する。それを前に、県民感情を逆なでするような言動は避けようという考えもあったのだろう。
これでは、二重の意味で「争点隠し」と批判されても仕方がない。
首相はこれまで、国会答弁などで「沖縄の方々の声に耳を傾け、信頼関係を構築しながら移設を進めたい」と語ってきた。
であれば、政権の方針を正面から訴える。その結果、県民が受け入れないというなら、別の打開策を考える。それこそが誠実な態度ではないのか。
参院選は、県民の声を聞くまたとない機会のはずだ。そこで争点を隠したり、ぼやかしたりしたら、みずから耳をふさぐに等しい。
普天間問題に加え、米軍の垂直離着陸機オスプレイの強行配備や、4月の主権回復の日の式典開催が続き、政権への県民の不信は増している。
地元の理解なく基地の円滑な運用は望めない。選挙結果にかかわらず、辺野古移設に突き進む愚は避けねばならない。
なかなか進まない住宅の再建、整わない生活基盤、遅れる産業の復興……。
東日本大震災では、今も30万人近くが仮設住宅など自宅以外で暮らす。
とりわけ先行きを見通せないのが、原発事故に直撃された福島の人たちだろう。県内外への避難者は15万人に及ぶ。
国が避難を指示した11の市町村では、放射線量に応じて三つの区域に再編する作業がまもなく終わる。線量が低い「避難指示解除準備区域」となった地域の一部は、自宅に戻れる日が視野に入りつつある。
ただ、多くの地域では帰還の前提となる除染が遅れている。東京電力による賠償も、避難者から「生活を立て直すには不十分」との声が強い。
参院選では、各党とも「復興の加速」「福島の再生」を強く訴えている。これまでの対策のどこをどう見直していくのか、具体的に論じてほしい。
とくに帰還問題では、複雑な現実を直視する必要がある。
もちろん、ふるさとに戻りたいという声にできるだけ応えることは、原発を推進してきた政府の最低限の務めだ。
しかし、放射線量が高く帰還時期が見えない地域や小さな子どもがいる家庭など、「帰れない」「帰らない」という人が少なくない。避難者への昨年度のアンケートでは、各市町村で「帰らない」という人がおおむね2〜4割を占めた。
こうした人たちが、新たな地で再出発しようとする動きも後押しすべきだ。賠償とは別に、避難者の生活再建を状況や希望に応じて支援する制度が必要ではないか。
賠償や除染費用を東京電力に負担させることを前提とした今の枠組みでは、復興も避難者支援も進まない。
しかも、避難指示が解除されれば、避難者に支払われている月10万円の慰謝料の打ち切りが俎上(そじょう)にのぼる。
賠償の基準を決める政府の有識者会議でも、「損害賠償は原発事故との因果関係が前提となるため、対象範囲に限界がある」として、政府の対応を求める声がある。
税金を原資とする支援制度づくりに入るときだ。
政府は近く、除染の進み具合をまとめる。作業は遅れており、計画の見直しは必至だ。あわせて、今後の線量低減の見通しも示さなければならない。
近く予定されている避難者への再度のアンケートも踏まえ、支援策を新たな段階へと進めるべきだ。