東京新聞 tokyo web
文字サイズ
全国ニュース

憲法を歩く(中) 反対住民 国が訴え

「座り込みはここを守るという意思表示」と話す伊佐真次さん=沖縄県東村で(千葉一成撮影)

写真

 ブロッコリーにも例えられる、こんもりとした亜熱帯の森を金属製の工事フェンスが取り囲む。沖縄県東村高江周辺の米軍ヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設現場。近くで座り込みなどの抗議活動をしていた伊佐真次(まさつぐ)さん(51)は二〇一〇年、通行妨害の禁止を求める訴えを国に起こされた。

 「座り込んで腕を組むというのは、私たちはここを守りますという意思表示。それすら許されないのか」

 沖縄でトートーメーと呼ばれる伝統位牌(いはい)を作る木工職人。父の仕事を引き継いだ。「工場の騒音で迷惑をかける」と二十年ほど前に沖縄市から高江に引っ越した。「もともと環境保護派でも何でもない。単に生活していただけ」。しかし一九九九年、ヘリパッド建設計画を知り「人殺しの施設をこんな豊かな森に造るなんて」と反発した。

 着工前に開かれた説明会。どういう機種が来るのかなどの質問に防衛省沖縄防衛局の担当者は「米軍の運用の問題」と繰り返すだけだった。「あるおじいさんは(環境アセスメントで)虫や鳥についてはよく調べるのに、人間の聞きたいことに答えないなんて、俺たちは虫けら以下なのかと怒っていた」

 裁判で伊佐さん側は、抗議行動は憲法二一条の「表現の自由」に該当すると主張したが、一審、控訴審ともに認められなかった。那覇市の裁判所まで高江から片道二時間半。仕事はその分遅れた。座り込みをする住民は減った。「写真やビデオを撮られて裁判にかけられるわけだから。権力を持っているものが権力を使って弱い者いじめをしている」

 参院選公示翌日の五日、最高裁に上告した。弁護団によると、公共工事などに反対する住民を国が訴えた例はないという。「判決が確定すれば、言うことを聞かない人を国がどんどん訴える怖い世の中になる。沖縄だけの問題じゃない」

     ■

 伊佐さんらがフェンス入り口近くに設置した監視用テントに元衆院議員の古堅実吉(ふるげんさねよし)さん(84)=那覇市=は、毎週バナナを持って激励に訪れる。本土復帰前の沖縄で、立法院議員として「憲法記念日」の制定に尽力した。

 沖縄戦で学徒動員され、本島南部の海岸で、捕虜となった。半月かけて米ハワイの収容所まで船で輸送される間、生きた心地はしなかった。敵の捕虜になったら耳や鼻を切り落とされると、すり込まれていた。

 終戦後も「命だけは絶対奪われたくない」という恐怖から、かつての軍国少年は「次は、逮捕されても絶対兵役は拒否する」と思い詰めていた。米占領下の沖縄に戻った後、本土で憲法が制定されたことを人づてに聞いた。「戦争をしなくても良い国になった。徴兵検査ももうないのか」と、ほっとした。

 「そもそも米軍基地が九条違反」と考えている古堅さんにとって、今の高江は、平和的生存権や請願権、表現の自由など憲法が二重三重に損なわれている現場だ。それでも悲観はしていない。「憲法を足場にすれば、時間はかかっても、主権者である国民には、あきらめも敗北もないはずだ」 (中山高志)

 ヘリパッド建設計画 日米両政府による「沖縄特別行動委員会」(SACO)の1996年の合意で、沖縄県北部の米軍北部訓練場7500ヘクタールのうち4000ヘクタールを返還する条件として、返還区域のヘリパッド7カ所を、残る区域に移設することが付記された。

 その後、両政府は移設先を東村高江区周辺の6カ所と決め、2007年に着工、今年3月に1カ所が完成した。これまでの国の支出は約30億円に上る。



PR情報





おすすめサイト

ads by adingo