焦点:高まる自動操縦への依存、アシアナ機事故で見えた皮肉
1960年代に英トライデントの航空機が初めて自動操縦で着陸して以降、パイロットらはマニュアルでの飛行技術が失われていると指摘してきた。新世代の航空機になればなるほど自動システムに重きを置くようになり、リスクを回避しようとする航空会社はパイロットのマニュアル飛行の技術を、実際のフライトではなくシミュレーターで維持することを促している。
ある韓国の航空当局者は、元空軍パイロットが多い同国航空業界では、以前はマニュアルでの飛行が一般的だったと明かす。しかし1997年にグアムで大韓航空機が墜落して以降、安全面を改善するため、パイロットらは自動操縦の使用を勧められるようになった。NTSBの元調査官グレッグ・フェイス氏は、「航空会社はパイロットの訓練プログラムを見直し、マニュアル飛行の訓練を強化すべきだ」と指摘している。
FAAは先週、2009年のボンバルディア機事故を受けた安全強化対策の一環として、副操縦士に求める要件を厳格化すると発表した。
ボンバルディア機の事故では、失速警報が鳴ったにもかかわらずパイロットが適切な措置を取らなかったとされており、その10日ほど後に発生したトルコ航空機の墜落事故でも、電波高度計の故障とパイロットのミスが原因で失速する事態に陥っている。さらに、その約4カ月後のエールフランス機の墜落事故も、経験の浅いパイロットが速度計に異常が生じたことに過剰反応し、機体を失速させている。
<動かぬFAA>
航空機の速度が落ちたことをパイロットに知らせる警告システムの導入を義務付けるか否か。ここ10年近くにわたり、NTSBはFAAに検討を求め続けてきた。2010年には、NTSBは安全に関する勧告の中で、失速警報をめぐるFAAの対応の鈍さに不満をあらわにしている。
ボンバルディア機の事故で娘を亡くしたスコット・マウラーさんは、FAAがコストを気にして規制改革を遅らせていると非難する。FAAの腰の重さは「正しいことをする妨げになっており、結果として数々の人命が失われた」とし、「アシアナ機の事故は転換点になるだろう」と話した。
一方、ニューヨークで航空関係のコンサルタントをしているロバート・マン氏は、パイロットのペアの組み方をより慎重に考える必要があると指摘する。NTSBによれば、着陸に失敗したアシアナ機を操縦していたパイロットは、ボーイング777型機によるサンフランシスコ国際空港での着陸が初めてで、指導にあたっていたパイロットも教官役としては初の飛行だった。さらにこの2人でペアを組んだフライトは初めてだったという。
アシアナ機事故をめぐって最終的に何かしらの結論が出たとしても、FAAによる新規制導入に長い時間がかかっていることを踏まえれば、変化が訪れるのはまだ先になるだろう。世界の航空当局どうしで合意が必要な国際基準は言うに及ばず、なおさら時間がかかるのは想像に難くない。
(原文執筆:Gerry Shih and Alwyn Scott、翻訳:梅川崇、編集:宮井伸明)
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