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アジアサッカー界にはびこる闇 選手、審判に八百長の「魔の手」

産経新聞 7月17日(水)15時0分配信

 サッカー界で蔓延(まんえん)している八百長の防止対策を目的とした国際刑事警察機構(ICPO)主催の会議が8、9の両日、日本で初めて開かれた。会議には日本サッカー協会やJリーグのほか、警察や文部科学省、サッカーくじを運営する日本スポーツ振興センターの関係者らも参加。国際サッカー連盟(FIFA)の担当者が「アジアには八百長が横行し、観客やスポンサーの減少といった悪循環に陥っている国がある」と警鐘を鳴らしたという。(北川信行)

 ◆コードネーム「ダン・タン」

 サッカー界の八百長は古くからある問題だが、再びクローズアップされたのは、ことし2月初め。欧州警察機構(ユーロポール)が「2008年〜11年に行われた680試合で八百長の疑いがあり、選手や審判など15カ国の425人が不正に関与した」と発表したのがきっかけだった。この中には、ワールドカップ(W杯)や欧州選手権の予選、欧州チャンピオンズリーグ(CL)、欧州の複数の国内1部リーグの試合も含まれていた。

 さらに、シンガポールが八百長を取り仕切る犯罪組織の根城となっていることが明らかに。捜査機関から「ダン・タン」のコードネームで呼ばれる中国系シンガポール人実業家が黒幕の一人として浮上した。英BBC放送(電子版)などによると、「ダン・タン」の年齢は40代後半。2011年にフィンランドで仲間の1人が逮捕されたことで、広く名前が知られるようになったという。

 ◆絶望的な薄給 弱みつけ込み

 では、犯罪組織はどんな手口で八百長を行うのか。まず、インターネット上に違法な賭博サイトを開設。国際親善試合のプロモーターなどの名目で選手や審判に近づいて試合を操作するように持ちかけ、胴元として巨利を得ているという。

 英紙ガーディアン(電子版)が掲載した「八百長と贈収賄は中国サッカーの風土病」との記事では、スポーツ紙の副編集長をしている元選手が「選手の低い給与とチェック機能のない地方政府の存在が八百長の根幹にある」と指摘。別の元選手は匿名を条件に「残酷なほど給与が低く、しかも何カ月にもわたって遅配されるため、選手は買収されやすい」と説明した。その元選手は現役だった2009年ごろ、試合前に犯罪組織から八百長を持ちかける電話が頻繁にかかってきたことも明かした。

 こうした事態を受け、アジア・サッカー連盟(AFC)は2月下旬、ICPOとともに合同会議を開催。その中で、国際プロサッカー選手会(FIFpro)アジア地区の代表者は、昨年にまとめた「ブラック・ブック」と呼ばれる報告書をもとに、立場の弱い選手が八百長に巻き込まれている現状を具体的な数字を挙げながら明らかにした。

 「ブラック・ブック」はアジアとともに、八百長の温床となっているとされる東欧のサッカークラブに所属する3357人のプロ選手がアンケートに協力し、給料の支払いと八百長の関係などについて調べたもの。報告書の中で、給与が期日通りに支払われていない選手の半数以上(55%)が八百長に誘われたことがあると告白していた。

 ◆報酬は性接待 組織と“蜜月”

 八百長に巻き込まれるのは薄給の選手だけではない。昨年のタイ協会杯の決勝で笛を吹いた日本人審判が八百長に加担するよう持ちかけられて拒否していたことも判明した。

 また、4月上旬にシンガポールで行われたAFC杯では、レバノン人の審判団3人が八百長を約束する見返りに、犯罪組織から「性接待」を受けていたとして逮捕された。犯罪組織と接触を続け、副審2人を説得して八百長に巻き込んだとされる主審は禁錮6カ月、2人の副審には禁錮3カ月(後に釈放され、帰国)の有罪判決が言い渡されたが、裁判の過程で審判団と犯罪組織の蜜月ぶりも明らかになった。

 レバノンの首都ベイルートのカフェで「ジェームズ」と名乗る中国系シンガポール人実業家を紹介された主審は「AFCで10年間審判を続けるよりも多くの金を1年で稼ぐ方法がある」と“もうけ話”を持ちかけられた。それが八百長だった。

 レバノンきってのエリート審判だったこの主審は判決が読み上げられる際にすすり泣いたという。W杯で笛を吹くのを目標に掲げていたが、かなわぬ夢となった。

 日本で開かれたICPOの会議では、約170の賭博サイトでJリーグの試合が賭けの対象となっていることが報告されたという。賭博サイトには英国のブックメーカーのように合法なものから、犯罪組織が運営する非合法のものまで数多くあり、その線引きはあいまいだ。Jリーグがいつ八百長のターゲットになってもおかしくない事態が世界では発生している。

最終更新:7月17日(水)18時42分

産経新聞

 

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