卓越した美術や衣装でデザインされたサイレントヒルのダークな世界観
本作の世界観についてマイケル・J・バセット監督が語る。「ゲームの映像世界は深く洗練されていて、ヒエロニムス・ボス、フランシスコ・デ・ゴヤ、ウィリアム・ブレイクの歪んだ絵に描かれたダンテの地獄のビジョンを思い出させる。色、質感、光、感覚に関して、僕はそのカラーパレットがほしかった」。さらに監督は意外な裏話を打ち明ける。「僕たちの世界観を決定するうえで最も影響を受けた映画の1本が、エイドリアン・ライン監督の『ジェイコブス・ラダー』だった。後から知ったことだが、天国と地獄の中間に位置する生命の不気味さと関連したその映画は、コナミのゲーム・クリエイターたちにも最初に影響を与えていたんだ! でも僕たちは模倣にまったく興味がなかった。僕たち自身の環境を創り出したかったんだ」。
美術に関してサミュエル・ハディダが説明する。「とても難しかった。この映画ではサイレントヒルという場所がキャラクター同様に重要だ。そこには“闇”によって完全に破壊されたストリートや密閉された廊下、老朽化した部屋がたくさんあり、アミューズメントパークと教会もある。我々はセットすべてをイチから作った。それにサイレントヒルの世界の内側と外側の二重性も強調した。その多くを外観に緑や灰色を使い、内観に錆び茶色を使うことで、物語が紐解かれていくにしたがってどんどん暗くなるように表現した」。
そのセットは美術のアリシア・キーワンによって創り出された。アミューズメントパークはトロントのオンタリオ湖の湖畔に建てられた。バセット監督が説明する。「子供の頃、こういった場所に行くと、すべてがとても大きくて照明が輝き、不協和音が鳴り響くように感じられた。それは魔法のようでもあり、同時に恐ろしくもある。レイクサイドの回転木馬自体が、この奇妙な世界観から引き出されたものだ」。
ウェンディ・パートリッジは1作目の映画に続き、今回も衣装を担当した。彼女が“教団”の衣装コンセプトを説明する。「今回の衣装は、サイレントヒルの世界の無慈悲で、強烈に締めつけられ、型にはまった清教徒的な宗教観を網羅するものなの。高官の衣装は信者以上にそれを誇張させ、ハーネスをつけ、歪んだオーバーローブを着ていることで、完璧に固定されて見える。どこにも自由な動きがない。すべてが1950年代のレトロ感覚で身動きが取れないのよ」
卓越した美術や衣装でデザインされたサイレントヒルのダークな世界観
本作における3Dの活用法をバセットが説明する。「学校、家、そのほか小さい範囲で成り立つヘザーの世界は、ざらざらしていて薄っぺらく、気の滅入るような世界だ。彼女が悪夢と現実的ではない現実を探求し始めると、3Dは物語を実体験するツールとなる。ヘザーが真実に近づけば近づくほど、映画の立体感が増していく。このアプローチ法によって3Dを単なるギミックとしてではなく、物語性を高めるために用いるという3D本来の役割を明らかにすることができたんだ」。
撮影監督のマキシム・アレクサンドルが言葉を添える。「製作のサミュエル・ハディダとドン・カーモディのおかげで、僕たちは今でも開発が進められている試作品を含め、最先端の装置で作業することができた。例えば伝統的な3Dのルールから外れ、移動可能なステディカムを使用して撮影することができた。これによって僕たちが創り出したいものと技術的な制約の間に、必要なバランスを見出すことができたんだ。結果的に、通常の3D撮影にはない芸術的自由を得ることができた」。
サイレントヒルの世界に欠かせない暗闇は、攻略すべき最も難しい課題だった。製作のハディダが語る。「3Dテクノロジーは常に大量の光を必要とする。1作目の映画は2Dで撮影したが、暗闇を創り出すため非常に高解像度で撮影しなくてはならなかった。しかし『バイオハザードIV アフターライフ』と今回の映画の製作の間に、新しいカメラが開発された結果、より暗い映画を3Dで撮影することが可能になったんだ」。バセット監督はこれまで常に、光に対して力強いアプローチを取ってきた。バセットが説明する。「ストロボを用いたり、ライトに風を送ることで、光が絶え間なく動き、絶えず生きて見えるようになるんだ。僕たちは照明の美学にこだわった繊細な装置を用いて、映画全体の物語とキャラクターの展開を高める努力をした。それは挑戦だったが、撮影監督のマキシム・アレクサンドルがすばらしい仕事をしてくれたよ」。