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月船書林

フィギュアスケートの話題を中心に芸術を語る

風変わりな知的冒険者たち

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2004年-2005年シーズン、浅田選手のFSである、ロッシーニのピアノ曲をレスピーギがオーケストラに編曲した『風変わりな店』。
この作品について、多少の解説をした以前のエントリーがこちら。

☆蘇るロッシーニとアウラの恵みの黄金時代☆


追加情報として語っておきたいのはやはり、ディアギレフが主宰したバレエ団、バレエ・リュスの話題だろう。
20世紀前半の音楽、舞踏、美術、そして文学に到るまで、当時の前衛芸術のすべてが結実したとも考えられ、今日のモダン・バレエの基礎を築いた芸術集団である。

中でも象徴的な存在だったのが、ニジンスキーやパヴロワになるのだろうが、バレエ・リュス前期を彩る彼らの話題は別の機会に譲るとして、今回は『風変わりな店』の初演となったバレエ・リュス中期というべき1919年と、団長ディアギレフを中心に話をしよう。

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1914年7月、第一次世界大戦が勃発すると、バレエ・リュスはとりもなおさずロシアとの往復がし難くなり、多くの座員が分散した。
翌年、ディアギレフはスイスで座の再編性を計り、ジュネーヴやパリで公演するも、戦時下ではなかなか活動が軌道に乗らなかった。そこでさらに翌年、パリから戦争中立国のスペインに拠点を移し、また、大西洋を渡って戦争の影響が少ない北米や南米へ巡業公演に出かけている。

ところで迷信家だったディアギレフは、パリの占い師に「水辺で死ぬ」と予言されたことが念頭にあり、船旅を恐れて二度目のアメリカ公演以降は座に同行せず、団員が不在の間、彼自身はイタリアでスカルラッティやロッシーニ、ペルゴレージ、チマローザといった古典作品を発掘するなど、さまざまな音楽に関する情報を仕入れた。

ローマのあちこちの図書館で漁った古い楽譜は、ディアギレフに多くの示唆を与えたらしい。

その中でも彼が特に心惹かれた、スカルラッティのチェンバロ曲である五百曲近いソナタを、ピアニストを雇って全曲演奏させ、振付師のレオニード・マシーンとともに入念に選曲し、ゴルドーニの喜劇『上機嫌な婦人たち』をもとにしたバレエに使用したのだ。
二人が選んだ二十曲を、ローマの若い作曲家ヴィンチェンツォ・トマシーニに依頼してオーケストラ用に編曲させ、マシーンは古いコレオグラファーに学んだ技法を応用して、このバレエを高踏的あるいは理論的に作り上げていった。

『上機嫌な婦人たち』がローマで初演された1917年、ディアギレフはコクトーの台本、サティの音楽、ピカソの美術、衣装で第一次大戦後のアヴァンギャルドを予告するものと位置付けられ、同時にバレエ・リュスの新時代の幕開けを告げるものとなった『パラード』を世に送り出す。

当時の前衛芸術家たちによる知的な遊びのようなこの作品は、内容的には日曜日の見世物小屋を題材として、ひっくり返した玩具箱のような馬鹿騒ぎの連続だが、戦時下という状況で当時の良識や社会通念への芸術による挑戦と見なす向きもあり、社会的なスキャンダルも引き起こして、若い芸術家たちへの大いなる刺激となった。

しかし、パリでこれほどの話題となった『パラード』だが、次の1918年のバレエ・リュスは新作の初演がないという事態になる。
戦争終結が近づき、ロシアなど各地の内戦が激化したことが原因のひとつだろうが、翌1919年1月パリ講和会議が開かれ、戦火が治まるのを待って一座はロンドン、パリでの公演を目指し、活動を再開した。

そして6月5日、ヴェルサイユ条約調印による第一次世界大戦終結を目前に、ロンドン、アルハンブラ劇場にて『風変わりな店』の初演が行われている。

この作品もまた、イタリアのペーザロにあるロッシーニ音楽院に保管されていた、ロッシーニが晩年に書き溜めたピアノ曲、歌曲、室内楽曲など約200曲からなる未発表の小品集『老いの悪戯(老いの過ち)』の中に素材を取り、レスピーギが作曲したバレエ音楽である。振付は『上機嫌なご婦人たち』と同じマシーンが行い、衣装はピカソら洗濯船の画家と交流があったフォーヴィズムの画家、アンドレ・ドランが担当した。

レスピーギは豪華な三管編成によるオーケストレーションと和声の音楽効果を施し、古臭いピアノ曲をイタリアの明るい陽光を思わせる楽しげな楽曲に仕立て上げた。ロンドン公演はパリの『パラード』に匹敵するようなインパクトの強いものだったらしく、大変な評判を呼んだ。

『風変わりな店』は、海岸沿いにある玩具店を舞台に、音楽に合わせて踊る人形を見たアメリカとロシアの家族が、男女カップルの人形をそれぞれ一体ずつ買うことになったのが、騒動の始まりというあらすじである。

アメリカの家族が男の人形を、ロシアの家族が女の人形を、それぞれきれいにラッピングされた品物を明日取りに来るという客たちが帰った後、夜中に魔法の力で生命を得た人形たちは、事の次第を知り憤慨する。
離れ離れになりたくないカップルの人形のために、残った人形たちが一肌脱いで、カップルを店から逃がしたり、品物を取りに来た客をコサックの人形たちが銃剣をもって店から追い返したりと奮闘し結局大団円という、ディズニー映画『トイ・ストーリー』の原型のような荒唐無稽のお話だが、国際色豊かなキャラクター・ダンスが印象的で、『パラード』のような高踏的な観念性が弱く、ロンドンの観衆にはより馴染み易かったのだろう。

☆La Boutique Fantasque Preview☆


当時もっとも最先端をゆく天才的な芸術家たちを見出しつつ、一方でこうした新古典主義への回帰を模索するディアギレフは、表向き19世紀の芸術至上主義に対する18世紀以前のマエストロの手業への傾倒、あるいはバッハの論理的な構築性を追求していると評されるものの、その実、同性愛嗜好の興行師が、イタリアの煌びやかなバロック音楽やさらに明るく軽やかなギャラント様式に心酔して、若い美少年ダンサーたちにあれやこれやと華やかな舞台衣装をコスプレさせて楽しんでいると思えなくもない一面がある。

芸術の世界では珍しくなく、時に高尚とさえ考えられる個人の偏愛や趣味嗜好ではあるけれども、ディアギレフは自分の豊富な知識と絶対的感性への自信に裏打ちされていたのだろうが、特にその傾向が強く、物言いは悪いが変態の一歩手前の感がある人間関係が、彼とバレエ・リュスにどこか胡散臭さと頽廃的な雰囲気を常にまつわりつかせている。

ニジンスキーがその最たる相手だが、その後もマシーンやセルジュ・リファールなど彼の性愛の対象となる団員を自分が見出した一流の芸術に触れさせて、自分好みの表現者に育成するという、いわゆるパトロネス関係ではあるがいささか悪趣味な慣習が、ディアギレフの性癖にあった。

ニジンスキーとの破滅的な色恋沙汰はハーバート・ロスが1980年監督した伝記映画『ニジンスキー』に詳しいが、マシーンとの確執も相当なものだったようで、彼もまた団員の女性ダンサーとの恋愛がきっかけで座を追われているが、ディアギレフと発掘したチマローザ作品の編曲ものをめぐってお互いが我先にと上演を競ったり、結局はまたリュスにマシーンが復帰したりと、恋の鞘当て何だかどうだかわからないが、男同士のすったもんだを繰り返している。


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さても、こうした18世紀古典音楽の編曲作品にしても、あるいはバレエの定番『白鳥の湖』『眠りの森の美女』や『ジゼル』にしても、ディアギレフは新曲同様にモダンな解釈と新しいスタイルを組み込むことで、斬新な衝撃を観衆に与えるという試みを忘れなかった。
その芸術的センスの高さ、興行師としての先見の明という点で、確かに彼は敏腕のプロデューサーだったし、偉大なダンサーや振付師の教育者としても「天才を見つける天才」の力を余すところなく発揮した先駆者だった。

一方で、彼に見出され育てられたとはいえ、卓抜した才能の多くが、彼個人の楽しみや趣味の範疇で弄ばれ、その手のひらで転がされて摩耗したと思われる側面もなきにしもあらずで、功罪相半ばする部分は斟酌するべきところだろう。

とはいえやはり、どんなに優れた芸術や才能も、同様に優れた感性に感知され逸材として発掘されなければ、日の目を見ずに消えてしまう。

年老いて、すっかり趣味が「作曲」の料理人になり下がってしまったロッシーニが手慰みに残した素材を集めて、レスピーギが見事なバレエという料理に仕上げた『風変わりな店』、そのきっかけを作ったのは確かにディアギレフの興行師としての嗅覚だったし、マシーン、レスピーギも含めバレエ・リュスの芸術家たちの鋭い目利きと才能だった。

そして時は流れ、この楽しく明るい組曲が、浅田真央という類まれなフィギュアスケーターの世界デビューを飾るFS曲に使用されたのも、2005年世界ジュニアフィギュアスケート選手権優勝という見事な成績に繋がっていったのも、ロッシーニからディアギレフ、そして現在に至るまで優れた芸術家たちの系譜の根底に流れる、豊かな感受性によって結びついた因縁かもしれない。

浅田選手もまた、伊藤みどりという天才を育てた山田コーチに見出され、天下の宝刀トリプルアクセルを引き継ぎ、そしてみどり選手の衣装をいくつも受け継いで、世界の表舞台に旅立ったのだから、冷たい氷の上でも天才の系譜はやはり脈々と続いているのだ。


まあ、何のかんのと言ったって、天才は天才で、良いものは良い。それに尽きる。

ディアギレフの性癖のように風変わりであることも個性だろうし、またその性癖ゆえに研ぎ澄まされたセンサーが美しいものやずば抜けた才能を発見したのなら、風変わりであることはまさにファンタスティックな興行師の企てにほかならないのだろう。

天才は天才を見つけ、芸術は芸術を知る。

風変わりな知的冒険の果てに、ファンタスティックな世界は広がるのだ。

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【音源】シャルル・デュトワ指揮『La Boutique Fantasque』

2. La Boutique fantasque: Tarantella
7. La Boutique fantasque: Nocturne
8. La Boutique fantasque: Galop

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私はシェイクスピアの『ハムレット』が嫌いだ。彼は考えるから。私は考えない哲学者である。感じる哲学者である。
(ヴァーツラフ・ニジンスキー『ニジンスキーの手記』)


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Comment

まさきつね says... "あなたの依頼は、お願いではなく脅迫です"
海外に伝えて さま

初めまして。せっかくいただいたコメントですが、自分のサイトでいきなり「踏み絵」を踏んでから話をしろと申し渡されたのも初めてです。

そしていきなり、何の説明もなく、サイトのURLを示されたのも初めてです。

「虚偽に 「虚偽だ」「ねつ造を止めよう」 と言えない人は、 公開での言動を、ご遠慮下さい。(^_^)/」という一文は、誰の誰に対する、どういう理由による言論統制ですか。
虚偽、捏造を助長するなという意見そのものは間違っていませんが、どういう虚偽、どういう捏造を差しているのか明らかな説明不足です。

要するにあなたのコメントは、礼儀を一切わきまえない人間が、他人に自分の流儀を押しつけているだけの内容です。

あなたがまさきつねの返信をお読みになったと判断させていただいた時点で、申し訳ありませんが、あなたのコメントは削除させていただきます。
悪しからずご了承ください。
2013.07.13 18:05 | URL | #- [edit]
まさきつね says... "あなた方のやり方は卑怯です"
違うPNで同じ内容メールをくださった方

拙ブログのコメント欄はあなた方のご主張を宣伝、勧誘する場ではありません。
何かを教宣なさりたいなら、ご自分のサイト内でご活動ください。

今後、また同じメールを送付なさっても、以後は即削除させていただきます。
2013.07.15 10:42 | URL | #- [edit]
何があったのか says... "経緯は明らかに"
(何が起こったのか、経緯は明らかにしておくべきです)

http://megalodon.jp/2013-0715-0257-11/maquis44.blog40.fc2.com/blog-entry-464.html
2013.07.17 00:45 | URL | #- [edit]

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