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参院選の政見放送に、初めて字幕が付けられている。これまで国政選挙の政見放送に手話は付いていたが、聴覚障害者で手話を理解する人は2割に満たず、候補者の声は伝わりにくかった。ただ、字幕が付くのは比例区のみ。障害を持つ有権者からは、選挙区や他の選挙での制度化を求める声もあがっている。
字幕は、テレビのリモコンにある「字幕」ボタンを押すと画面に現れる仕組みだ。総務省が今年、公選法における政見放送の実施規定を参院選比例区について改正し、政党からの申し出があれば字幕を付けられるようにした。今回は全政党が求めたため、国が資金を出し、NHK本部(東京)が字幕を付けた。
聴覚障害者は、手話と字幕の2通りから自分に合った手段を選べるほか、耳の遠くなった高齢者の利用も期待されている。
千葉県に住む聴覚障害者の松森果林さんは「国民の権利をやっと、きちんと行使できる」と話す。小学4年の時に原因不明の病気で右耳が聞こえなくなり、今は両耳がほとんど聞こえない。普段は手話で会話をしているが、「政治的な言葉は、手話より字幕の方がわかりやすい」という。
厚生労働省によると、身体障害者手帳を持つ聴覚障害者は約34万人で、手話を使う人は約5万人。成人になってからの病気や高齢化で耳が聞こえなくなった人たちは、筆談やジェスチャーでコミュニケーションをとり、手話を使わない人が多い。これまでの政見放送では、聴覚障害者の8割以上が内容を十分に理解できなかったことになる。
「障害者のための政策を訴えても、伝わらなければ意味がない。自分たちは対象外なのだと思っていました」と松森さん。
しかし、字幕が付くようになったのは、NHK本部で収録される比例区のみ。人員も機材も足りない地方局で収録される選挙区の政見放送については規定の改正自体が見送られ、NHKも字幕対応はしていない。
政党が自分で収録し、NHKに持ち込む方式をとっている衆院選の小選挙区では、一部の候補者が字幕をつけていたが、法律で制度化されたのは今回の参院選が初めて。ネット選挙も解禁されたが、国が資金を出さないネット動画でも手話と字幕は限定的だ。
全日本ろうあ連盟など6団体は先月、各政党に「同じ国民でありながら参政権を行使するための情報入手が制限されている状況をどう考えるか」との公開質問状を送り、ばらつきのある現状の打開を求めている。
(江戸川夏樹)